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第5話 師匠

こいつ、性格がかわいくない。さっきまでかわいかったのに。 

いや、こいつもただ負けず嫌いなだけな気がする。

してやったりって顔に書いてある。

ムカムカするな。同族嫌悪ってやつか。


今頭の中で二人の僕が言い争っている。

ニネ1(以下1):思い描いていた弟子同士の美しい友情。

   その実現のため、ひとときの感情に押し流されるべきだはない!

   大きな視点を持てば、それは明らかだ!


ニネ2(以下2):いやいや、この小娘はきっと態度を変えない。 

   人はそうそう変わるものではないからだ!

   美しい友情などという幻想など追い求めていたら、我慢し続けたストレス

   で黒い髪が真っ白になるぞ!対抗するが吉。    


1:争いは新たな争いを呼ぶだけだ。歴史もそれを物語っているじゃないか!


2:お前の言う通りにしたら、ペコペコ頭を下げることになるぞ。

  穏便に事を進めることと事なかれ主義は別物だぞ。わかってるか?

  それに穏便に済ませようとしてもまったく逆方向に事が進むことさえあるぞ。

  東西戦争を見ろ。我がライネル王国は抗戦しなかったら入植されてたぞ。

  

1:ほら、僕の言った通りじゃないか!(ドヤ)どこが逆なんだ?

  攻められて、抗戦したのだから争いが新たな争いを引き起こしている。

  合ってるじゃないか。


2:いや、なに言ってんだ?

  我が国は外交ルートを使って戦争を回避しようとした。

  そのとき、皇太子が敵国に出向いて、土下座までしたっていう美談がある

  じゃないか。そこまでやったのに、相手は聞く耳を持たなかった。

  はい、論破!

 

1:それとこれは特殊だ。普通はそこまでやったら許す。

  だからそれとこれとは違う!


2:お前が歴史を持ち出したんだろ!


1:悪いか?あぁ?


2:やんのか?来いよ!


取っ組み合いが始まったので、脳内世界から現実世界へ帰還。

こういう小競り合いの積み重ねが平和の実現を阻んでいます。って、二人とも僕か。

こんな不毛な考えごとをしていたら、突然後ろから話しかけられた。


「弟弟子に性格を見透かされるなんて情けねぇな、二ネェ」


「あっ、お帰りになりましたかっ、師匠!お茶淹れてきます。

 あ、アーモンドエールのほうがいいですか?」

  

「いや、後でいい。とりあえず互いの紹介が先だ。まぁ、随分と仲が良さそう

 だったからいらんか?がははははは」


少女が無精ひげを生やした、髪がボサボサのおっさん相手にへりくだっているのは

見ていて妙な気分だ。

何を隠そう、この昼間から居酒屋で酒を飲んで他の客に絡んでいそうなおっさん

がウィンドレス道場師範、レノグリフ・ウィンドレスである。

道着もヨレヨレで、浪人然としているのにもかかわらず、見た目に反して

べらぼうに強いから驚きである。STOP見てくれ詐欺!

魔術戦から早食い競争まで様々な勝負を挑み、勝負した回数を数えていたが

五百を超えたあたりからやめてしまった。

何百戦もして、白星が一つもつかなければ数える気も失せるというものである。

今も師匠の連勝記録は増えていっている。

入門してはや三年。

そろそろ勝って「師匠も歳をとりましたねぇ~~~」なんて言いながら

肩をポンポンと叩いてやりたい。

「ねぇ、ねぇ、今どんな気持ち?ねぇ、ねぇ?」

というのもありかもしれない。


「ここにいる生乾きの臭いを振りまきながらニヤニヤしている変態がニネだ。

 ニネ・ピン。不本意にも俺の一番弟子だ」


「知ってます!」

手をまっすぐ挙げながら言う。


「で、ニネ。よく来たな。俺は嬉しいぜ、またお前戦ったり、修行したりできる

 のが。」


「そりゃどうも。おっさんの連勝記録打ち止めのお祝いをしないと道場を卒業

 できないしな」


「ん?いつお前が俺に勝ったんてんだ?」


「これから勝つんだよ!」


「そうか、そうか。1024戦1024敗のニネ君、精々頑張ってくれ」


「おっさん・・・。数えてやがったのか。調子こいてて吠え面かいても

 知らないぞ!」


「そんなに勝ちたいなら、1回わざと負けてやろうか?」


「ふざけんな、死ね」


「あー、悪かった。そんなにカッカしなさんな。冗談だよ、冗談」


「あの、師匠・・・。私は・・・」


「すまん、ニネをからかうのに興が乗ってしまってな。

 ニネ、こちらはカルノア・アマルフィだ。三日、いや四日前だったか。

 まぁ、いいか。数日前に入門したばかりだ。面倒見てやれ」


「わかった。おっさんの目から見てカルノアの腕はどれぐらいなんだ?

 結構できるのか?」


「まぁまぁってとこだな。鍛えてやれ。というか、いいかげんおっさんって言う

 のやめろ。カルノアまで真似し始めたらどうする」

師匠は顔をしかめる。


「師匠、そんなことは万に一つもあり得ないのご安心をっ!

 紹介も終わったので、飲み物持って参りますね」

そう言って立ち上がって裏に行ってしまう。

正座している状態から立ち上がる姿も様になっていて、その優雅な振る舞い

と、師匠がいなかった時の言動のギャップに若干のめまいを覚える。

最初は職人か商人階級の子かと思っていたが、実はその中でも名家と呼ばれる家

の子女、あるいは貴族のご令嬢だったりするんだろうか。

いや、さすがに貴族はありえないか。

こんな町道場には来ないだろう。

そういえば、なぜこんな引っ越して来たばかりの道場を知っているのだろう。

道場に行くにしても、他にも思いつくところがありそうなもんだが・・・。

実はここ以外の道場が島にはないのか?


「おっさん、彼女なんでウチに来たんだ、わざわざ。知り合いの娘だとか?」


「いいや。なんなんだろうな。あーー、これか。

 ほかのトコじゃ、剣しか教えねぇだろ。魔術も習いたいとなるとここしか

 なかったんじゃねぇの」


「魔術もっていうことは剣がメインなのか?」


「そうだ。魔力を剣に伝わらせて戦う。お前、知らなねぇのか。結構よくある

 戦法だぞ」


「そうなのか」

僕を刺した少女のことを思い出す。

珍しい戦い方だと後から思ったが、一般的だったのか。


「ああ、そうだ。俺以外と模擬戦やったことないし、今度一戦交えてみたら

 どうだ?」

とてもありがたい。あの少女との再戦のため、自分の魔法の精度を上げるのも

いいが、傾向と対策も大切だ。


「先輩、近いうちに戦いましょう!倒しますけど」

後ろから声が聞こえてくる。


裏の台所から戻って、お盆の上に茶碗を三つのせたカルノアが立っていた。

挑戦的な目で見てくる。やる気があるのはいいけど、負けても気落ちするなよ。

ゆっくりとした動作で座って、茶碗を僕と師匠の前に置いてくれる。


「師匠はアーモンドエールですね、どうぞ」


師匠の好みをすでに知っているなんて孝行者だな。

入門してから一週間経ってないのになぁー。感心、感心!


「先輩もどうぞ」

茶碗から湯気がのぼる。それを見ると不思議と心が和む。

秋に紅葉がはらはらと落ちていくの見る時の気持ちに似ている。

師匠も人心地ついたようで、頬を赤くして少しずつ飲んでいる。

せっかく淹れてくれたのだから、僕もいただくことにしよう。


「うっ、こほっ、こほっ、こほっ」


すさまじく苦かった。ゴーヤと魚の腸と漢方を混ぜて濾したものを

ブラックコーヒーに入れたような味が・・・。

自分でも何言っているのかわからないが、尋常じゃないくらい苦いのは伝わった

と思う。ちょっと涙が出てきた。

天井には電灯がついておらず、窓の光だけが光源なのに、今日は曇りで暗い。

飲み物の色がよく見えなかったが、黒っぽいからココアかコーヒーだと思ったのに

よく分からないものを飲まされてしまった。


「どうかしました、先輩?大丈夫ですか?」

自分は関係ないような顔をして聞いてきた。こいつなかなかいい趣味してんな。


「ちょっとむせただけだ。気にしないでくれ」

こいつ。くそっ、はめられた。

こいつになんか負けない!そう心に決めてその舌がねじれそうなほど苦い

黒い液体を飲み干したのだった。

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