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第2話 敵さんの要求

一連の出来事を思い出し、急いで服をまくって体の傷を確かめる。 

きれいに治っていて、刺された跡もなかった。

外傷を一瞬で治す治癒魔法でも開発されたのだろうか。


治癒魔法は存在するものの、ケガが治るのにかかる時間をわずかに早める

だけのものであって、ケガを、傷を受ける前の状態に瞬時に巻き戻すような

奇跡の類ではない。

触媒となる貴重な宝石類を用意して、細かく定められた位置に天体がある日に

魔法陣の上で長い呪文を唱える大魔術なら、あるいは可能かもしれないが、

もちろん気まぐれで使えるような代物ではない。


今、結局何が起こっているのだろうか。 

あの少女に監禁されたのか、それとも違う誰かに助けられたのか。

どちらなのだろうか。

傷を治したところを見ると、僕を殺すことが目的ではなさそうだが。

いや、それよりも孤児院のみんなの安否だ。

僕だけ取り残されていたら・・・。くそっ、どうしたらいい。


そう考えていると、不意に壁の一面が動き始め、右にずれる。

どこかに隠し扉があるのではなく、壁そのものが扉だったとは。

開き戸だと決めつけていたから、見落としていた。

しきりとなる壁が取り払われると、隣に部屋が現れる。

僕がいる部屋と壁があった場所に関して線対称になっている。

鏡を見ているかのようだ。

ドアがあること以外はすべて同じつくりで、家具の場所さえ同じだ。

奇妙な構造だ。どうしてこんな風になっているのだろうか。


こんこんとドアがノックされ、返事を待つことなく

茶髪をオールバックにした青年が入ってきた。

思わず身構えてしまう。顔を反射的にそちらに向けてしまう。

濃紺のスーツを着こなしている。歳は僕より7つか8つ上といったところか。


「気分はどうだね?ニネ・ピン君」


落ち着いた足取りで近づいて、見下ろしてくる。

あの部屋に閉じ込めておいてきぶんは悪いに決まっているだろ、と思ったが

少女とグルとは限らない。

物腰が柔らかいを見ると案外味方かもしれない。肩の力をわずかに抜く。


「悪くないです。助けてくれてありがとうございます」


「それは傷が治っていることを言っているのかな?」

そう言いながら僕の向かいのソファに座る。


「ええ。あなたは命の恩人です。感謝してもしきれない」


「いや、それには及ばないよ。君を襲うように指示したのは私だからね」

そういわれた瞬間、体中の血が沸騰した気がした。

気絶する前の気持ちがよみがえってくる。収まったはずの腹の熱が。

気づけば青年のほうに身を乗り出して、ネクタイを引っ張っていた。


「おい。孤児院は襲ってないだろうな?

 手を出していたら・・っ!」


青年は睨んでも、少しも目をそらさずに見返してくる。

底のない井戸を見ているようだった。ただただ暗い。


そしてしばらくすると、ふっと笑い

「自分のことより家族のこととは感心なことだ。そんなにカッカッしなさんな。

 彼らは無事だよ。今頃君を探している頃だろう」


「本当なんだな」


「ああ。心配しなくていい。君にも危害を加えるつもりはないしね」

言葉を切り、間隔を置く。


「君と敵になりたくて来たんじゃないんだ。君を味方にしたくて来たんだ。

 君は我々の味方になる条件を満たしてくれるだけでいい」


なんて白々しい。

条件を満たさず、味方にならなかったら敵認定されてあの世行きってわけか。

そういうのを世間様では脅迫って言うんだよ!と思ったが、一番の心配事

が解消されたため、ひとまず腰を下ろして聞くことにする。

こちらに交渉のカードが1枚もないというのもある。


「沈黙は了承ととるよ。君に満たしてほしい条件はたったの2つだ。

 難しくないから身構えなくていい。

 君は今年の春から王立魔術学院の医学科に入学することが決まっているね。

 答案が満点近くて驚いたから覚えている」


あ?こいつまさか・・・。


「言い忘れてたけど、私は学院の教授だ。

 じぁ、さっそく条件其の一だ。医学科から戦闘科に編入先を変えて欲しい」


殺人未遂までやって、要求が編入先を変えろというのはどいうことだ。

僕にとっては大ごとだが、他人にとっては些細な事だろう。

何かがこれで変わるとは思えない。

おかしい。頭の中で赤信号が明滅する。

裏がないか、矛盾がないかに細心の注意を払い、先を促す。


「なんとか言ってくれよ・・・。まぁいいか。其の二ね。

 学院の寮に住んでもらう。孤児院から荷物を持ってくる必要はない。

 こちらで全部、生活用品は用意するから安心してくれ」


「必要ないって言われても。僕が持っていきたいものがあるとしたら?」


「それじゃ、三つ目を追加させてもらうよ」

指を3本立てる。


「其の三。孤児院に帰らず、そのまま寮に住み始めること」


この条件は匂う。探ってみるか。さぁ、尻尾を出すんだ。引っかかれ。

「なぜ?僕がいったん家に戻っても戦闘科に編入することも、寮に住み始める

 ことは覆らないと思うけど」


「覆らないけれど、本人がいなくなったら台無しなんだ」


「逃げられるわけないと思うけど」


「その根拠は?」


「あの少女だ。不意打ちで倒されたわけじゃないし、何回戦ってもその数だけ

 僕は負ける」


「戦いに絶対はないんだよ、残念ながら。家族に会って、気が変わったら大変

 だからね」


一応筋は通っているか・・。

この部屋も僕が逃げないことを目的に作られていたのだし。

僕がこれをチャンスだと考えなかったと思う方が無理な話か。


「以上だ。何か質問は?」


「最初から強硬手段か?もっと方法はあったと思うけど」


「ああ、あったとも。全部失敗したがね」


「はい?」


「君にライネル王立魔術学院の戦闘科編入を勧める手紙を送ったのは1か月前、

 一月の末だね。それから何回も送ったのにことごとく無視したじゃないか」


これはどういうことだろうか。僕はそんな手紙は見ていない。

シェインが一言もなしに人の手紙を捨てるとは思えないが・・・。


「形だけの編入試験をして君を入れようと思っていたんだ。でも無視し続ける

 から試験が嫌なのかと思って、試験の免除を職員室での綿密な根回しの末に実現

 したんだ。なのにまたダメだったんだ。

 孤児院の保母さん、シェインさんだったかな?

 『あなたに口を挟む権利はないですよ』なんて言ってきて。

 玄関まで行ったのに君の顔さえ見れなかった。

 ねぇ、お茶さえ出さないっていうのはどういうことなのかねぇ。

 仮にも最高学府の教授なんですけど。門前払いって」


最後の方は問題がすり替わっていた。

ヒートアップしすぎて、口調も丁寧だったのが雑になってきている。

せっかくの正装が台無しだ。

余程シェインに相手にされなかったことが頭にきたのか、僕について

の話を忘れてシェインの悪口を並べ始めた。

何なのだろう。見くびってもらって、警戒心を解こうとしているのだろうか。


「―もっと敬っていいと思うんだけ、おっほん。

 これはまた別の機会にでも。というわけで、残ったのが強硬手段だけだった

 というわけだ」


目を細める僕にようやく気付いたのか、強引に話を戻す。

つい数分前までと同じ真面目な顔なのに、今はピエロが変顔しているようにしか

見えないから不思議だ。

それとも、この状態を狙っている策にはまってしまっているのか。


「味方になってくれるかい?」


「それは質問じゃないだろ」


「あはははは。そうだね。察しが早くて助かるよ」

そう言いながら、いたずらが見つかってしまった子供のように笑う。


「だけど、好青年の私は、味方にされてしまった哀れな君にチャンスをあげよう。

 孤児院に戻ってもいいよ」

驚きのあまり、青年の顔を見つめてしまう。

すると、青年は我が意を得たりとばかりに僕の目に覗き込み、ささやく。


「取り戻せたらね、記憶」









 


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