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第9話 時雨と泉とエリチ

20X5年4月5日

PM03時40分



「……ということなんだ。て、お前、私の話を聞いてたか?」


 そう言うと二神(ふたがみ)時雨(しぐれ)は咎めるようなキツい視線を(ひと)(いろ)蔵人(くろうど)へ送る。


「え?」 


 蔵人は我に返る。



 名門・秋葉原学園の放課後のカフェテリア。



 蔵人の正面には2人、隣には1人の美少女が座る。その3人は、100人いれば100人が認めざるをえないレベルの絶世の美少女。


 蔵人から見て右側正面の少女の名は二神(ふたがみ)時雨(しぐれ)。ツインテールにした炎髪に小さな顔、大きな緋色の瞳、意思の強さを感じさせる強い眼差し、右耳にはルビーのピアス。時雨は大富豪である二神財閥の令嬢であり、《HYPER CUBE》最強ギルド『最前線』のメンバーにして、《HYPER CUBE》界屈指の貫通力を誇る特殊()能力(キル)『竜神の逆鱗』の使い手として知られている。



 蔵人から見て左側正面の少女の名は水内(みずうち)(いずみ)。蒼い髪に小さな顔、優しげな眼差し。コンピューター研究会(校内ではコンピ研と呼ばれている)で副部長を勤め、前回のハッカーの世界大会ブラックハットで準優勝した実績を持つ。その真の姿はDr.Iと言われている世界最強のハッカーなのだが、それを知るのは蔵人のみ。また泉は、《HYPER CUBE》で準最強ギルドと言われる『旅団幻影(ファントム)』のメンバーであり、また《HYPER CUBE》では極めて希少な価値を持つヒーラーでもある。



 蔵人の左隣に座るのは、・ビビアン・エリーチカ・ベネセツカヤ。二神の守護者(ガーディアン)。ロシア系の白人の美女。碧い瞳。細い眉。金髪の長髪をポニーテールにして、白いシュシュで束ねる。身長は170cmほどで細身の完璧なモデル体型。《HYPER CUBE》最強ギルド『最前線』でメイン盾を担う。



 時雨も泉もエリチも、学内屈指の美少女として知らない者はいない存在である。


 そんな美少女たちに囲まれる少年。切れ長の目に端正な顔立ち、髪型は男としては長髪の部類。そして隻眼。《HYPER CUBE》世界での絶対的序列第一位にして『隻眼(せきがん)使徒(しと)』の二つ名を持つ人色蔵人。



 そんな有名人4人が高校のカフェテリアで、1つのテーブルにいるのだから、毎日のこととはいえ、少なからず他の生徒たちの視線を集めている。特に今日入学したばかりの新入生は、気になって仕方がないらしく、露骨な視線を送る者もいる。


 だが、この4人は、そんな視線を気にすらしない。




「お前は私の話のどこまでを聞いていたんだ?」


 不愉快そうに時雨が尋ねる。




「ちゃんと聞いていたぞ。お前が『私たちは2年は別々のクラスになったな』まで聞いてた」



 蔵人は、とがめるような時雨の視線に悪びれる風もなく答える。



「それ最初の挨拶だろっ! 1番初めに会ったときのだ……まさか、そこからか……お前な……全く聞いてなかったんだな」


 時雨はあきれる。



 泉は時雨に同情して、蔵人を詰問する。


「昨日、私たちギルド旅団幻影ファントムが戦った3人のうちの1人、ゴーストは『Invisible dance on the moon』ていう姿を消す特殊能力スキルを発動してたでしょ。でも、姿を消す特殊能力スキルは、βテスター時にいたって噂されてただけで、実際に見た人はいなくて、都市伝説になった幻の特殊能力スキルて言われてる。《HYPER CUBE》の古参の時雨だったら知ってるかもって思って私が聞いて、ずっと時雨が説明してくれてたんだよ」



「ダーリン、なんか今日は疲れてるよね。顔色も悪いし……あんまり寝てないんじゃないの?」


 エリチが心配そうに蔵人の顔をのぞき込む。



「昼休みに疲れることがあったのもあるが、確かに朝まで寝てないな」



「ダーリン、徹夜してまで何を?」


 心配そうなエリチ。



「どうせエロゲかXVIDEOSあたりでエロ動画あさりだろ」


 一生懸命した話を聞いてもらってなかったうらみから、時雨が吐き捨てるように言う。



「腕立て伏せだ。右腕1本でのな」


 時雨に取り合わず、蔵人は毅然と答える。



「蔵人くん、今朝もコンピ研の部室で全身汗まみれになりながら、右腕だけの腕立て伏せを半裸でやってたよね? なんでなの?」


 泉は不思議そうに聞く。



「筋肉芸人でも目指してるんだろ」


 ねた時雨が再び毒を吐く。



「なぁみんな? 《HYPER CUBE》では大剣を装備すると、盾を持てなくなると言われてる。何故なぜだか分かるか?」


 蔵人は3人を見ながら問いかける。



 大盾持ちでギルド『最前線』でメイン盾を担うエリチが思案顔で言う。


「確かにステータスの装備欄の1番上の武器欄に大剣を入力すると、2番目の防具欄が半透明になって、盾を入力できなくなるわね……だから私は、盾を装備するときは、いつも1番上の武器欄を杖にしてる。当たり前だと思って、何故なぜまでは考えたことはなかったわ……」



「そんなのプログラムで、そう設定されてるからだけに決まってるだろ」


 時雨が面倒臭そうに言う。




「ちょっと時雨! 蔵人くんに話聞いてもらえなかったからって、言い過ぎよ。真面目に考えようよ。片手剣なら片腕で持つから、もう片方の手で盾を持てるよね。でも、大剣だと両手で持つ必要があるから、盾を持てないんだよね」


 泉が答える。



「なるほど~。ハラショーだわ」


 エリチが感心した顔で泉を見る。



「泉、半分だけ正解だ」


 蔵人は優しい口調で言う。



「え? でも半分だけなの?」


 泉は困惑する。



「そして時雨、お前も半分だけ正解だ」



「「「?」」」


 蔵人の言葉に、3人とも不思議そうに蔵人を見る。



「現代の一般的なVRMMOであれば、泉も時雨も100%の正解といえる。大剣は両手で持つ必要がある。だから、盾を持つことができない。だから泉は100%の正解となる。そして、それはプログラミングされた設定だ。だから時雨も100%の正解だ。それは運営の設定に対して、プレイヤーサイドからの働きかけができないという普通のVRMMOだから、100%の正解になるだけだ。《HYPER CUBE》は、そんな普通のVRMMOか?」


 蔵人は3人に問いかける。



「! そうか……」

「! そうよねっ」


 時雨が、泉が、同時に気づく。



「え? え? 《HYPER CUBE》だと違うの?」


 エリチは理解できず戸惑う。



 そんなエリチに時雨が答える。


「《HYPER CUBE》は違うんだよ、エリチ。《HYPER CUBE》ではサーバーがプレイヤーの外骨格、筋肉、脳神経、DNA情報などを解析して、プレーヤーに最も相応しい特殊能力スキルや装備を導き出す。ならば、現実世界リアルで筋肉を強化すれば、《HYPER CUBE》で持てる装備の種類も論理上無限に増えることになる。盾持ちは《HYPER CUBE》では極めて激レアだ。だから、それに気づく人間が今までいなかったんだな。私も完全に盲点だった……そこに気づくとは……やはり天才、大したヤツだ」


 そう言って時雨は驚きながら蔵人をたたえる。


 さらに泉が時雨の話を引き継ぐ。


「つまり《HYPER CUBE》では大剣を装備すると、盾を持てなくなると言われてるけど、それは単に言われてるだけで、真実では無いの。みんな誤解してる。《HYPER CUBE》には、運営の設定にプレイヤーサイドからの働きかけができる。つまり、プレイヤーが現実世界リアルで腕力を鍛えまくれば、その肉体的能力が《HYPER CUBE》にも反映される。だから、大剣を右手一本だけで持つこともできるの。そうすると、残った左手で盾を持てる。つまり、大剣を持ちながら、盾も持つという奇跡のプレイヤーが生まれるってわけよね。

 そんな奇跡のプレイヤーになるべく蔵人くんは、ひたすら右腕を鍛えているっ!」



「時雨、泉、100%の正解だ」


 蔵人は頷く。



「ハラショー! コロンブスの卵みたいな発想ね! さすが私が大好きなダーリンだわ」


 エリチは尊敬の気持ちを高ぶらせ、蔵人へ抱きつく。



「ちょっとエリチ! 近い、近い」


 泉がエリチをたしなめる。



「ん? だが、それって大剣持ちなのに盾も装備できる俺カッケエエエエエしたいだけだろ」


 時雨はまた毒を吐く。


「それにお前、小盾だろ? うちのギルド『最前線』には大盾持ちのエリチがメイン盾でいるんだぞ。お前には前衛のアタッカーとしての役割しか期待してないぞ。お前の小盾なんて全く意味が無い」



「ちょっと時雨! そんな言い方ないよ。ギルド『最前線』なんてヒーラーもいないし、ただの高火力ぶっぱの脳筋パーティーじゃない。PTヒールでのヘイト管理すらできないダメ集団でしょ。最強の特殊能力スキル集極エターナルウェーブより来たりしサデニシオン』を使える蔵人くんが一番ヘイト集めるんだから、一番落ちる確率高いじゃない。小盾で耐久高めれることは意味がありますっ!」


 蔵人を責められて、泉が痛切に時雨に言い返す。



 2人の間に火花が散るのを感じた蔵人は、やれやれだぜという気怠けだるい視線を2人に向けながら、話題の転換を図る。



「なあ、時雨。さっきの姿を消す特殊能力スキルのことを教えてくれないか? 昨日、ゴーストは『Invisible dance on the moon』ていう姿を消す特殊能力スキルを発動して、泉たちギルド旅団幻影ファントムを完全敗北に持ち込んだ。だが、姿を消す特殊能力スキルは、βテスター時にいたと噂されてはいるが、もはや都市伝説になった幻の特殊能力スキルとも言われている。お前は知っているか?」



「それをさっきから全力で語り続けてたんだっ! 語ってる相手が目を閉じて何度も真剣にうなずいてくれていると思い力説し続けていたら、単に寝ながら船を漕いでいただけ。それを知ったときの私の気持ちが分かるか?」



「すまない」


 時雨の剣幕を見て、蔵人は素直に頭を下げる。



「ふむ。謝るなら、許そう。私は常に寛大だからな。それにお前が第1回《HYPER CUBE》カップに優勝した祝いも、まだしてなかった。だから、この話をしてやることで祝いに代えよう」



 そう言って時雨は真剣な眼差しで蔵人を見つめる。



「姿を消す特殊能力スキルは、存在した。5年前に水鏡恭一郎がマスコミを集めて大々的に行った《HYPER CUBE》発表記者会見でも、βテスターにその存在がいることを明言してる。そして《HYPER CUBE》の正式サービス開始直後に、私は戦っている。姿を消す特殊能力スキル『Invisible dance on the moon』の使い手ゴーストを相手にな」



「5年前に既に戦ってたのかっ!」


 蔵人は驚きから思わず声を荒げる。



「そうだ」



「《HYPER CUBE》の正式サービス開始直後、すなわち5年前、私は月乃と雫と一緒にいた。初期のギルド『最前線』は私たち3人だったんだ。βテスターだった矢沢月乃が同じくβテスターだった私の姉の雫を誘ってギルド『最前線』はできた。そして、正式サービス開始の直後、私は雫に誘われてギルド『最前線』に入団したんだ。初期のギルド『最前線』は私たち3人だったんだ。その頃、私たち3人は、ゴーストと3対1で対戦した」



 そして苦々しげな表情で時雨は続ける。




「そして私たち3人は為すすべなくゴーストに完敗した」



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