第8話 異端審問官エキドナ VS 隻眼の使徒・人色蔵人・終戦
エキドナのピンクの髪が逆立ち、全身が発光する。
次の瞬間、エキドナの下半身の蛇の尾が伸び、蔵人の体をグルグルと巻いていく。
エキドナの尾は、蔵人の顔より下の全身に巻き付く。
エキドナは尾に目一杯の力を入れる。
「うっ……」
「形勢逆転よ! 敵に情けをかけるなんて甘いわね。どう? 苦しくて声も出せないかしら?
指一つ動かせず、助けも求められないまま死んでいく気持ちを教えてくれる? 私に言いたい放題言ってくれた報いだからね。ジワジワと絞め殺してあげるわ、隻眼の使徒くん」
エキドナは、ニヤリを笑う。
蔵人は一歩も動けず、指一つ動かすことができない。
蔵人の顔は、青冷めていく。
強く締めつけられ、呼吸もままならないゆえに。
絶体絶命の絶望が蔵人を襲う。
「さっきまでのヘラズ口はどうしたのかしら? 生意気野郎な隻眼くん。命乞いをして見たら、どうかしら? あなたが『助けて』って叫ぶところが聞きたくなってきたわ。少し緩めてあげるね。さあ、叫んでみなさい」
エキドナは、サディスティックな笑みを浮かべる。
「我が下に……馳せ……」
息を絶え絶えに蔵人はつぶやく。
「ん? 全然聞こえないわよ。もっと大きな声で助けを求めて頂戴。泣き声でね」
エキドナは嬉しそうに笑いながら、さらに尾の締めつけを緩める。
次の瞬間、蔵人は絶叫する。
「我が下に馳せ参ぜよ、聖剣エクスカリバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
その瞬間、蔵人の召喚により、生徒会役員室の蔵人専用ロッカーより聖剣エクスカリバーが飛び出し、蔵人の両腕へと収まる。
聖剣エクスカリバー。
それこそはラグナロク決戦において、ギルド『最前線』が聖剣エクスカリバーの守護者の使い魔・覚醒バジリスクを討伐することで得たドロップアイテム。
そして銀の十字架のストラップ。
聖剣エクスカリバーの守護者より贈られしストラップを、蔵人は常に制服のズボンのポケットに入れている。このストラップにはGPS機能と音声認識機能が付いている。ゆえに、蔵人が聖剣エクスカリバーを召喚する声を発すれば、このストラップを持つ蔵人の下へと聖剣エクスカリバーは駆けつける。
蔵人は、両腕に来たりし聖剣エクスカリバーを、すぐさま振るい、自らに巻き付くエキドナの尾を切断する。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
エキドナは、苦痛に呻く。
「さっき俺に敵に情けをかけるなんて甘いと言ったか? さて、甘いのは、俺とお前のどっちだ? お前たちビグースが俺を狙うと分かっているこの秋葉原学園で、俺が丸腰で一人でいると思ったわけか? そう思ったことが、お前の敗因。つまり、お前は慢心ゆえに敗北する」
「エキドナよ。この生徒会役員室こそが、俺がお前を誘き出す為に張った罠だ。
お前が、この生徒会役員室へ入った瞬間、既に勝負は決していた」
「わ、罠だったって言うの? ……そんなのウソよ!アンタが生徒総会のための予算原案作成と審査に際しての資料準備の仕事を進めていたのは、隠しカメラで確認してたんだからね」
エキドナは叫ぶ。
「ああ。生徒会の仕事が、あったのは事実だ。そんな仕事があることと、罠を張ることは、非両立の関係には無いだろ? そこに、お前に思考の盲点があったようだな」
「隠しカメラに気づきながらも、カメラ目線にならないように演技するのが1番大変だったよ。そんな隠しカメラの死角を突きながら、特注品の巨大なフランスパンの中に隠した聖剣エクスカリバーを、事前にこの部屋の俺のロッカーへ隠しておいた。あとは、お前が罠に嵌るのを待つだけだった。お前は、ちょろい女だったな、柿ねぇ」
「ぐぬぬ……そこまで先を読んでいたというの……見事な戦略ね……でも、私は柿ねぇじゃないって言ってるでしょ……異端審問官エキドナよ」
エキドナの蛇の尾は、再生していたが、床に座りこんだまま気落ちしたかのように俯く。
「異端審問官エキドナよ。ならば1つ聞こう。異端審問官と名乗るお前にとって、異端とは誰を指す?」
「は? そんなの決まってるでしょ。ビグースでありながら、ビグースの最高機関ビグース本部を裏切ろうとするゴミたちのことよ。アンタのお友達のDarker Than Crimson RedやPure Sublimity Whiteたちみたいなね」
蔵人はエキドナに説教をする。
「何でだ? 何でなんだ! お前たちビグース最高機関の強硬派はいつもそうなんだ? Darker Than Crimson RedやPure Sublimity Whiteたちは、人類と生活する中で自然に優しくて思いやりのある人類へと肩入れするようになっていた。支配することしか考えない残虐で狡猾なビグースより、お互いを尊重しようとする人類の理念に惹かれたがゆえにな。どうしてそんなDarker Than Crimson RedやPure Sublimity Whiteたちの心の声を理解してやろうとできないんだ? 異端として排除しようという狭量な考えしかできないんだ!」
次の瞬間、エキドナの蛇の尾が、剣を持つ蔵人の両手に絡みつく。
エキドナはニヤリと笑う。
「演説お疲れ様。さっき私の敗因は慢心だと言ったわね。その慢心って言葉を、そのまま返すわ。『お前が言うな』という言葉とともにね」
「うっ!」
蔵人の顔に苦渋が浮かぶ。
「私がショックを受けて、打ちひしがれ俯いて座り込んでると思ったでしょ? 残念ね。演技でした~。いい気持ちで説教してたよね? あえてそうさせて、このチャンスを待ってたのよ。両腕を封じられたアナタは聖剣エクスカリバーを使えず、練気系の特殊能力『集極の波より来たりし闇』を使えない。この窮地をどう脱出するのかしら?」
エキドナは確信に満ちた不敵な笑いを見せる。
「俺の攻撃の特殊能力が練気系統だけとは、いつの時代の話だ?」
蔵人も不敵に笑い返す。
「な、な……何をっ! またブラフでしょ」
エキドナは叫ぶ。
「冥土の土産に大切な教訓を教えてやろう。『アップデートは常に最新に』だ。特に情報のアップデートをな。俺の両手をよく見てみろ」
「そ、それは魔剣レーヴァテイン……Vivid Edged Blackの魔剣。私が俯いていた間に剣をすり代えていた! ということは、も、もしかして……」
「そうだ。俺はVivid Edged Black の特殊能力『黄昏より昏き闇』をも使える。俺は殲滅した相手の特殊能力をコピーできる。だが、コピーで得た特殊能力を発動できるのは1度のみ。ここまでが最新の情報だ。そしてお前が記念すべき実験対象第1号に選ばれた。おめでとう。これから、お前に体験をさせてもらう。ここまでがアップデートされた俺の最新情報だ。ビグース本部に伝えておけ」
「アンタがハイパー・ダーク・サデニシオンを……そこまで先を読んでたなんて戦術……いや、もはや戦略……」
魔剣レーヴァテインを両手に持つ蔵人は、14階梯よりなる禁術の詠唱を始める。
「万物の起源それは闇
万物の終点それもまた闇
すなわち闇とは創造と終焉
闇こそが全てを与えし創造主
しかし闇こそが全てを破壊せし暗闇の竜
それが二律背反なるも両立せし厳酷なるこの世の真実
全ては闇とともに流れ、人なる者がそれに抗うことは絶対不可
ノアの方舟すらも最期は闇へと呑まれ一片の瓦礫すら残さぬだろう
嗚呼、非情なる世の理よ
だがその非情をも我は余興として甘受せん
ゆえに我が身は暗闇の竜となりて現世より冥府を経て、極楽浄土をも焼き尽くさん
黄昏より昏き我が闇は紅蓮の炎をも包摂し尽くさん
黄昏より昏き我が闇はいかなる光明をも喰らい尽くさん
人なる者よ さあ嘆け 嘆け 嘆け 嘆け 嘆け」
詠唱を終えた隻眼の使徒・人色蔵人は絶叫する。
「食らえ、黄昏より昏き闇」
秋葉原学園は大きな光に包まれる。
その光が収束した時。
そこに異端審問官エキドナの姿は無かった。
「実験成功だ」
蔵人は、つぶやいた。




