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第6話 この中に少なくとも1人、ビグースがいる

20X5年4月5日

AM8時17分



「人色蔵人くん! ちょっと待ちたまえ!」


 教室へ向かい廊下を歩く蔵人と泉は、大声に呼び止められる。

 廊下にいた生徒たちが大声の主に注目する。


小鳥遊たかなし理事長……」


 蔵人は振り返る。

 そこにいたのは身長2m、ぶ厚い胸板を持つ大男。スキンヘッドに太い眉。精力旺盛そうな風貌。


 それこそは名門・秋葉原学園の理事長・小鳥遊豪剣ごうけんだった。



「ワシが秋葉原学園board chairman、小鳥遊豪剣ごうけんである!」


 小鳥遊は一喝する。



「す、すみません。小鳥遊理事長でなく小鳥遊board chairmanでしたね……」


 蔵人は小鳥遊理事長が、何故か理事長でなくboard chairmanと呼ばせようとしているこだわりを持っていたことを思い出し謝罪する。



「構わん。間違いは誰にもある。大切なのは、そこで反省し、2度同じ間違いをしないことにある。これを人は『成長』と呼ぶ。ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 小鳥遊は豪快に笑う。



「バカみたい」


 泉が人に聞こえないほどの小声で毒を吐く。

 だが、小鳥遊は地獄耳だった。


「ん? なにか言ったか?」


 小鳥遊理事長はギロリと泉をにらむ。


「い、いえ、何でもありません……」


 泉は焦って頭を下げる。



「そんなことより小鳥遊board chairman。俺になにか用があったのでは?」


 蔵人が泉を守ろうと話題を変える。


「おう、そうだった。まずは昨日の第1回《HYPER CUBE》カップ優勝おめでとう。そして本題だが、新入生の中に生徒会役員として推薦したい優秀な人材がいるんだよ」


 小鳥遊は嬉しそうに語る。


「ご存知でしょうが、生徒会長は生徒のみによる公正な選挙により選ばれます。そして生徒会役員の選任は生徒会長の専権です。俺に言われても何の意味もありません。また、今後、仮に生徒会長に言われたとすると、生徒会の自治権への圧力として問題が生じかねませんが?」


 蔵人はいつもの調子の理詰めによる詰問を、小鳥遊相手に展開する。



「そ、そうだったな……余りに興奮したから、ワシも、ついやっちまった……だが、それくらい優秀なんだ。本学園開校して2度目の全科目満点合格者が出たんだよ! 1度目は昨年の蔵人くんだったが、今年も出たんだよ!」


 小鳥遊が興奮した瞳で蔵人を見る。


「全科目ということは理科も含めてですよね? 俺の受けた昨年は量子位相ゲート、熱力学第零法則、ラプラスの悪魔が出題されましたが、まぁ俺は理科が好きなんで余裕でした。今年は、多世界解釈、量子テレポーテーション、波動方程式ですよね? 多世界解釈は3つの小問からなり、小問1のヒュー・エヴェレット理論に対するユージン・ウィグナーの批判に対する再反論は、簡単です。でも、小問3の『オックスフォード大学の物理学者デイヴィッド・ドイッチュによるタイムパラドックス回避理論を自分の言葉で説明した上で、独自の観点から新たな考察をせよ』まで満点なんですか? 過去に十分に考えた経験がないと独自の観点は思いつかないかと思いますが……」


 蔵人は少し驚く。


「それが独自の観点を出してるんだ。まるで自分がタイムリープしたことがあるかと思われるほどの説得力がある畳みかけるような論文だった……君も知ってのとおりワシと水鏡恭一郎は東大の同期で、二人そろって主席で卒業してる物理学者同士だ。だが、そんなワシたちより明らかに上と感じる説得力があった……」



「そうですか。数学オリンピックも5連覇して飽きてきたんで、今年から国際物理オリンピックに出ようかと思ってます。いいライバルができそうですね」


「おお! それは素晴らしい。君のおかげでワシも秋葉原学園のboard chairmanとして鼻が高いぞ。頑張ってくれたまえ。ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 小鳥遊は豪快に笑う。


 小鳥遊へ一礼すると、蔵人は泉と教室へ向かう。



小鳥遊たかなし……豪剣ごうけん……board chairmanか…………アナグラムはTGB……」


 蔵人はつぶやく。




               ◇




 蔵人と泉は、新しい2年の教室へと入る。

 今日から新学年が始まることから、まだ席は決まってない。

 ゆえに、蔵人は適当な後ろの方の席へと座る。その右隣に、泉が座る。



 蔵人の席の左隣の少女が、声をかける。


「ご機嫌よう。人色蔵人くんね。私は手塚てづか麻里まり。これから1年間、よろしくねっ」


 ロングの金髪を巻き毛にした上品な美人。

 一挙手一投足に、華麗さを感じさせる。それもそのはず。麻里の父親は二神財閥と並んで日本有数の大富豪と言われる手塚財閥の総帥。麻里は、手塚財閥の令嬢だった。



「手塚か……俺たちの学年に手塚財閥の令嬢がいると聞いていたが、お前だな。人色だ」


 蔵人は、いつもの無愛想ぶあいそうな調子で挨拶をする。



「私、人色くんのファンなのよ。隻眼の使徒のクラスメイトなんて最高だわ~。これから、ホントいろんな事よろしくねっ」


 手塚は、そう言いながら蔵人の両手をとって、嬉しそうに握手をし、蔵人の体をペタペタと触りまくる。



「ちょっと、そこの女子! 近い、近い」


 泉が手塚に過剰なスキンシップへの注意をうながす。




「よう、有名人! 人色だな。俺はラグビー部の五郎丸ごろうまるはしるだ。よろしくな!」


 前の席の少年は、振り向くと律儀に立ち上がって、気さくな笑顔で右手を差し出し、蔵人へと挨拶する。


 日焼けした肌、身長は180cmを越え、頑丈そうな恵まれた体躯は、いかにもラガーマンのそれであった。それでいながら、クルクリとした可愛い瞳で、蔵人を見つめながら、右手を差し出す。


「五郎丸か……人色だ」


 ぶっきらぼうな調子で、蔵人も右手を出し握手する。



「だが、お前も有名人だろ? 高校1年からラグビーの日本フル代表に選ばれてたサラブレットさんよ」


 蔵人の言葉に五郎丸は驚く。


「俺が日本フル代表にいるのは校内でも有名だ。そこには驚かない。だが、俺の父親はラグビーをしていない。しかし、お前は俺をサラブレットと言った……俺の祖父を……知っているのか?」



「ああ。2019年に日本で開催されたラグビーW杯。その準決勝が横浜国際総合競技場で行われ、日本はオールブラックスに大逆転勝利した。あの時の逆転を決めた終了間際の奇跡のコンバージョン。あれを決めたのが、お前の祖父だろ。俺のお気に入りのシーンだ」



 蔵人の言葉に五郎丸は興奮する。


「やはり、そうかっ! 俺たちの世代で、祖父のことを知ってくれてる奴と話すのは初めてだよ。嬉しいよっ! お前、本当にラグビーが好きなんだな」


「いや、1番好きなのはアイスホッケーだ。なぜなら、集団スポーツとして最も戦略性に富んだ競技だからな。そして、2番目に戦略性に富むのがラグビーだ。ゆえに、俺は2番目にラグビーを嗜好する」


「俺の認識と同じだよ……人色、やっぱ、お前かなりキレ者なんだな」


 五郎丸は感嘆する。


「お前のこと、気に入ったぜ! とっておきの情報教えてやる」


「とっておき?」


 蔵人は不思議そうに五郎丸を見る。


「ああ、俺たちの担任だよ。柿子かきこゆいって名前の新任2年目の女教師だ。

 スタイル抜群で、体つきがエロくて、メチャクチャ可愛いから、かきねぇって言われてる、あのかきねぇなんだよ」



かきねぇ?」


 そちら方面の情報にだけはうといウブな蔵人はキョトンとする。



「お前、かきねぇ知らないのか? エロい体つきで、学校中の男子が毎晩、自分の部屋で妄想しなら、かきまくってるかんじなんだぜ。かきねぇってアダ名には、そんな隠された意味もあるんだ。

 俺は黒いストッキングってエロくて大好きなんだが、かきねぇは、いつも黒ストだ」


 五郎丸は、さらに興奮を強めながら、話す。



かきねぇか……」


 その方面に余り興味のない蔵人だったが、楽しそうに話す五郎丸に水を差すのも気がとがめることから、オウム返しにつぶやくことで、相づちを打っている感を出す。




「ちょっと男子! 教室でエロい話しないでくれる」


 蔵人の後ろから、いかにも活発そうな声の少女の声がする。



「まぁ、そっちの君は、話あわせてただけっぽいから、いいよ。エロいのは、そこのラグビーバカだけだけどね」


 少女は五郎丸を見ながら、からかうような口調で楽しそうに笑う。



美馬びばっ! てめえ、誰がラグビーバカだっ!」


 五郎丸も言葉としては怒っているが、楽しそうな口調で言う。蔵人はこの2人が決して仲が悪いわけではないことを察しながら、後ろを振り返る。



 蔵人が振り向いた先にいたのは、パッチリとした目をしたオレンジの髪の可愛い少女。元気で、いかにも活発そうでありリーダーの風格がある。蔵人は思い出す。

 



「! お、お前は、今朝、曲がり角で俺にぶつかっておいて謝りもしなかった食パン女! お前のマーガリンがズボンについて、大変だったんだからな!」


 蔵人は今朝の出来事を思い出して詰問する。


「は? そっちがボサッとしてるから悪いんでしょ。私がダンプカーだったらアンタ死んでたわよ」


 美馬も強気な口調で反論する。


「俺が歩いてたのは歩道だ。車道と歩道では、歩く時に注意を要する程度が全く異なる。ゆえに、お前の批判には何の説得力もない」


 蔵人は、いつもの調子で論破する。


「ぐ、ぐぬぬ……わ、分かったわ。私は美馬びば亞理壽アリス。この学校でスクールアイドルやってるの。今は、まだ3人なんだけどね。アリスって呼んでいいわ」


 論破されたことを認め、和解を申し出る。



「手塚、五郎丸、そして美馬びばか……アナグラムはTGB……」


 蔵人はつぶやく。


「え? 何か言った?」


 美馬は不思議そうに蔵人を見る。


「何も言ってない。それよりアリス、1つ聞きたい。お前たちスクールアイドルの練習場所は屋上なのか?」


 蔵人が美馬にそう言いかけたとき。



ガラガラガラ


 教室の扉が開き、教室は一気に静寂に包まれる。

 これにより蔵人は担任が入室してきたことを察する。


 入って来たのは若い女性。

 どう年齢を高く見ても現役の女子大生にしか見えない若くて美しい容貌。


 身長は170cmを越え、体は細身だが、胸は大きく、しっかりクビレた完璧なるモデル体型。

 ピンクの長い髪を、巻き毛にして華麗な印象を与える。

 顔は小さく、目はパッチリしているが、目の周りはかなり黒く塗っており、ギャルを思わせる。


 赤のジャケットに白地のワイシャツ。超ミニの赤いタイトスカート。

 長い脚には黒のストッキング。





「これから1年、みなさんの担任となります。柿子かきこゆいと言います。

 いろんな意味で、これからよろしくね」


 女教師は、ウィンクをして微笑む。




「この中に少なくとも1人、ビグースがいる」


 蔵人はつぶやいた。



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