第40話 集極の波より来たりし闇(エターナル・ウェーブ・サデニシオン)vs黄昏より昏き闇(ハイパー・ダーク・サデニシオン)
第40話 集極の波より来たりし闇vs黄昏より昏き闇
蔵人は、立ち上がり、Vivid Edged Blackの方へと向き直る。
そして蔵人は、ゆっくりと口を開く。
「待たせたな、Vivid Edged Black。特殊能力の準備は十分か?」
「待ってはいないよ。楽しい余興だったよ。
親しい人たちとの最後の別れ。それを妨げないだけの良識は僕にもある。
それが僕の騎士道だ」
「そうか。
ならば俺は武士道により返礼しよう。
詠唱しろ、Vivid Edged Black。お前の全力を見せてみろ」
「勝ち目がないと分かっての自暴自棄か。見損なったぞ、隻眼の使徒・人色蔵人、
僕をガッカリさせるな」
「安心しろ、自暴自棄なんかじゃない。ただの慢心だ」
蔵人は穏やかに返事をする。
Vivid Edged Blackは取り合わず、魔剣レーヴァテインを天に掲げ、14階梯よりなる禁術の詠唱を始める。
「万物の起源それは闇
万物の終点それもまた闇
すなわち闇とは創造と終焉
闇こそが全てを与えし創造主
しかし闇こそが全てを破壊せし暗闇の竜
それが二律背反なるも両立せし厳酷なるこの世の真実
全ては闇とともに流れ、人なる者がそれに抗うことは絶対不可
ノアの方舟すらも最期は闇へと呑まれ一片の瓦礫すら残さぬだろう
嗚呼、非情なる世の理よ
だがその非情をも我は余興として甘受せん
ゆえに我が身は暗闇の竜となりて現世より冥府を経て、極楽浄土をも焼き尽くさん
黄昏より昏き我が闇は紅蓮の炎をも包摂し尽くさん
黄昏より昏き我が闇はいかなる光明をも喰らい尽くさん
人なる者よ さあ嘆け 嘆け 嘆け 嘆け 嘆け」
詠唱を終えたVivid Edged Blackは絶叫する
「食らえ、黄昏より昏き闇」
聖剣エクスカリバーを構えた蔵人も同時に叫ぶ。
「集極の波より来たりし闇」
その瞬間、決戦の地・ラグナロク山は大きな光に包まれた。同時に、ラグナロク山を大きな青い閃光が支配する。あまりに激しく強い2つの閃光による鬩ぎ合い。その圧倒的な光量は、真夏の昼間の太陽に匹敵するものであり、決して肉眼での直視に耐え得るものではない。ギルド『最前線』のメンバーたちは眩しさの余り誰もが目を開けていられなくなる。
最強のビグースVivid Edged Blackの特殊能力『黄昏より昏き闇』。そして《HYPER CUBE》界に君臨せし絶対的序列第1位『隻眼の使徒』人色蔵人の特殊能力『集極の波より来たりし闇』。2つの最強の特殊能力が同時に発動された。
先に口を開いたのはVivid Edged Blackだった。
「ぼ、僕が押されている……だと……そんなはずはない……隻眼の使徒・人色蔵人が聖剣エクスカリバーを使って『集極の波より来たりし闇』を発動した火力の11%増もの火力を僕は出せる。僕の計算が間違っていたはずはない……」
Vivid Edged Blackは狼狽を隠せない。
2つの光の鬩ぎ合いの中で、自らが押されているという事実に。
蔵人は冷静に言う。
「安心しろ、お前の計算は間違ってはいない。
Vivid Edged Black、お前はとても優秀だ。自らのサーヴァント・シェーシャが最後に送信したバトルログから、お前は俺の『集極の波より来たりし闇』の火力の数値を知った。その数値は、正確なものだ。そして、お前が水鏡恭一郎さんのPCをハックすることで得た聖剣エクスカリバーの性能、つまり攻撃力を5.14倍高めるという数値も正確だ。そして、お前は、俺が聖剣エクスカリバーを使って、お前に『集極の波より来たりし闇』を発動することをも予想し、その予想も的中した。
それに対処すべく、お前は自らが開発した魔剣で、そんな俺の最終火力を11%上回る火力を出すことに成功した。
俺たちランクSの特殊能力での11%差。それは永遠の隔絶と言ってもいい。
まさに陸上の100m競争にたとえると、最高記録が20秒台の選手が9秒台の選手に挑むような絶望的状況だ。それも間違いない。
お前の計算も、戦略も、全ては完璧だったよ」
蔵人は冷静な表情を変えずに言い切る。
「な、ならば、どうして……」
Vivid Edged Blackはパニック状態になりながら叫ぶ。
「より優れた戦略を持った弱者は、時に戦略を持つ強者をも凌ぐ。そういうことだ」
蔵人は言う。
そして続ける。
「人類というのは、お前が思っているより、ずっとエモーショナルな存在だ。
そして、お前は知らない。
覚悟が力を高めるということを。
そして、俺は死の病・ハイパーキューブ症候群S型を既に発症している。
そんなハイパーキューブ症候群S型を発症し、覚悟を高めた状態で放った俺の特殊能力の火力は、覚悟を高めない状態でのそれに比して11.4514%上回るものだった。
つまり、お前の火力を、今の俺の火力は0.4514%上回っているということだ」
「そ、そんなはずはない。僕は《HYPER CUBE》サーバーにだって、ハッキングをかけていた。だから、お前のバトルログも常時チェックしていた。お前が11.4514%上回った火力を放ったバトルログは存在しないっ!」
パニック状態のVivid Edged Blackは叫ぶ。
「ああ、今は存在しない。だが、かつては存在『した』」
「かつては……存在……した……だと」
「ああ、そうだ。さっきも言ったはずだ。
世界最強のハッカーDr.Iは俺の友人だとな。
俺が覚悟を高めた状態で放った俺の特殊能力の火力が、11.4514%増しになると知った直後、俺はDr.Iへバトルログの削除を依頼した
俺が第4回《HYPER CUBE》世界大会で優勝した翌朝のことだ。
それは、お前がアメリカ合衆国海軍第7艦隊の停泊していた軍港を周辺都市ごと消滅させた翌朝でもある。
その時のみは、お前が先進国政府の発表や世界中のマスコミ報道の収集と分析に忙殺されることが分かっていた。その唯一の時間、千載一遇のチャンスを俺は突いたわけだ
そして、以後、俺は覚悟を高めた状態での特殊能力の発動を一切封印し、完璧なる隠蔽に成功した。」
「第4回《HYPER CUBE》世界大会の……翌朝だと……そ、そ……そんなに前から、そこまで計算して、この戦略を練っていたのか……さ、さすが人色蔵人……戦う前から既に僕には勝ち目が無かったのか……」
Vivid Edged Blackは茫然としながら辛うじて言葉を絞り出す。
蔵人は、その言葉を完全否定する。
「それは違うな。
確かに戦う前から俺は勝っていた。だが、お前にも9回裏逆転満塁ホームランのチャンスが1度だけあった。
それは月乃が俺の頬へと口吻をした瞬間だ。月乃はお前の発動した特殊能力・重力異常フルバーストにより動けるはずがなかった。だが、実際にはあの瞬間動いた。
これこそは、人類がビグースに比してエモーショナルな存在であることの証左だ。
お前は、この事実からのアナロジーとして、俺もまた特殊能力の火力を高めているということを想定する契機があった。
だが、さっきお前は俺に言った。『楽しい余興だったよ』と。
つまり、自らの生命に迫る重大な危険を余興としてしか認識できなかった。
勝ちを確信する余り、眼前に起こる事象への観察を怠ったがために、事象からの分析判断を行う機会もないままに、お前は自らに巡ってきた最後の逆転のチャンスを逃したわけだ。
すなわち、お前の敗因は慢心だ。
戦う前に俺が言った慢心という言葉は、お前への最大の皮肉だ」
「なんてことだ……ぼ、僕は君に2度負けてたってことか。人類ごときと思っていたが、ここまでの事象観察力と分析判断力を持ち綿密な戦略を練れる者がいたというのか……さ、さすが人色蔵人だ……さすが隻眼の使徒だ……僕の完敗だ」
「チェック・メイトだ、Vivid Edged Black。安らかに眠れ」
蔵人は静かに言った。
『集極の波より来たりし闇』。その特殊能力を受けて再び立ち上がった者は歴史上存在しない。
1度めはバビロン事件において、バビロンの塔最上階で100人を人質にとったラスボスが。
2度めは重装のNPC『騎士の亡霊』が。
3度めは『奇跡の林檎』の使い手、世界屈指の《HYPER CUBE》プレイヤー矢沢京介が。
4度めは近接戦闘戦闘家として世界最巧と謳われた矢沢月乃が。
5度目は元グリーンベレーにして特殊能力『Unlimited Knife Fenomenon』の使い手、伝説の英雄サンダース大佐が。
6度目は世界屈指のプレイヤーからなる最強ギルド「最前線」のメンバー相手に連勝した神殺しの特殊能力『ホワイトアウト』の使い手、ホワイトナイトことPureSublimityWhiteが。
7度目はVivid Edged BlackのサーヴァンとにしてVivid Edged Blackのメイン盾。重力異常とファイアピラーの使い手、シェーシャが。
8度目はプレイヤー殺しの最悪パーティーと言われる不倒の集団『デュラハン3兄弟』が。
9度目は《HYPER CUBE》史上最強最悪の悪夢と言われた聖剣エクスカリバーの守護者の使い魔・覚醒バジリスクが。
そして、今、アメリカ海軍第7艦隊が停泊していた軍港を周辺都市ごと消滅させた特殊能力『黄昏より昏き闇』と魔剣レーヴァテインの使い手ビグースVivid Edged Blackが、わずか一撃で敗れ去ったのだった。
「蔵人っ!」
「蔵人さん」
「大丈夫かっ!」
京介が、アルトくんが、時雨が、特殊能力重力異常フルバーストの効果が消滅したことに伴い移動の自由を回復したギルド『最前線』のメンバーたち皆が、蔵人のもとへ駆けよる。
その時。
Vivid Edged Blackが時雨の足首を掴んだ。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
時雨の絶叫がラグナロク山へ木霊する。




