第38話 さよなら蔵人
第38話 さよなら蔵人
「動けっ動けっ動けっ……僕がやらなきゃ僕がやらなきゃ」
アルトくんは必死に自分の足を動かそうとする。だが、Vivid Edged Blackの特殊能力『重力異常フルバースト』によりアルトくんの足は1mmも動かない。
蔵人はアルトくんの前へと立つ。
「蔵人さん、僕も一緒に戦いたいのに……一緒に戦わなきゃならないのに……僕の足が……僕の足がちっとも言うこと聞いてくれないんだ」
アルトくんは泣きながら蔵人に訴える。
蔵人はアルトくんに優しく微笑みかける。
「アルトくん、覚えているかい?俺とアルトくんがマラソンをしながらクイズを出しあってた時のことを。アルト君、君はあの時、俺が問題を出題し終える10秒前に正解肢を選択した。
君はテストに合格したんだ。俺の後継者へのテストに。『集極の波より来たりし闇』の使い手としてのテストにね」
「蔵人さんは、あの時から、ここまで先を読んでたんだ……さすが蔵人さんだ。で、でも……ぼ、僕が蔵人さんの後継者なんて無理だよっ……」
涙目でアルトくんは言う。
「そんなことないよ。
君は俺と同じ「練気」系統の特殊能力保持者だ。
それだけじゃない。
《HYPER CUBE》は、プレイヤーの外骨格、筋肉、脳神経、DNA情報などを解析して、最も相応しい特殊能力を選択するよね。そして、『集極の波より来たりし闇』は、プレイヤーの知性に大きく依存する特殊能力なんだ。だから、君なら、きっとこの特殊能力を使いこなせるようになるはずだ。
ゆえに、俺はクイズ大会で君の知性の高さを検証し、そしてデュラハン3兄弟相手に君の前で『集極の波より来たりし闇』の模範演技を示したわけなんだ」
「そこまで考えて……さすが蔵人さんだ、さすが隻眼の使徒だよっ!
僕が『集極の波より来たりし闇』……蔵人さんが言うなら間違ってるはずがない、だからきっと……」
「そうだ、アルトくん、これからは君がギルド『最前線』の柱になれっ!」
「はいっ!」
アルトくんは号泣しながら叫ぶ。
蔵人は、強く頷き前へと進む。
◇
蔵人はロックコの前へと立つ。
「学校行かないからなああああ」
ロックコは蔵人に向かって絶叫する。
ロックコは、蔵人の雫やアルトくんたちとのやり取りを見ていた。
そして死地に向かって行く蔵人から、約束を持ちかけられると非常に断りにくくなる重い空気をビンビン感じていた。
そして、引きこもりをしているロックコに対し、蔵人が1番言いそうなのが、学校へ行けということだとロックコは予想した。だが、学校へ行くことはロックコにとって、絶対に嫌なことだった。学校でのあの時の新年のお楽しみ会のような思いをするのは耐えられないことだったから。
ゆえにロックコは先手を打って、学校に行かないと強く宣言したのだった。
「学校?行かなくていいだろ?」
蔵人は不思議そうにロックコを見る。
「ヘラクレスは俺に中学へ行けといいに来たんじゃないのか?」
ロックコは半信半疑で蔵人を見る。
「中学は型にはまった人間ばっかで俺も苦手だったよ。だから無理するな。
だってキョロ充なんかよりボッチの方が何万倍も偉大だろ」
「ヘラクレス……お前、分かってるじゃないか……」
ロックコは涙目になりながら蔵人を見つめる。蔵人の言葉が心に響いたゆえに。
「だがな、高校はいいぞ。俺の高校にいるのは型破りな奴らばっかで、最高に楽しいぞ。時雨がいる、世界最強のハッカーDr.Iはクラス・メイトだ、史上最悪のコンピューターウィルス・ホワイトドゥークーの開発者の女の先輩だっている、それにかつては田所史哉先輩もいた、Darker Than Crimson Redも仲のいい先輩だったんだ。
別にアメリカの高校でなくてもいいんだぞ。
だからロックコくん、秋葉原学園高校へ来いっ」
「俺もPC大好きだよ、プロのハッカーになるのが夢なんだ……田所史哉はハッカーの世界大会ブラック・ハットで大活躍して優勝してた本物じゃねえか、それに世界最強のハッカーと言われてるDr.I、さらに史上最悪のコンピューターウィルス・ホワイトドゥークーの開発者だなんて……超一流のハッカーばっかじゃねえか、オールスターだよ。すげえよ、グレートだよ、最高だよ。そして仲良かった先輩が実はビグースでしたなんてイカレてるよ、最高に面白いよっ!俺もヘラクレスのいる学校行きたいよ、気に入ったっ!」
ロックコは目をキラキラと輝かせながら蔵人を見つめる。
「お前はまだ14才だから受験は来年だな。直前期はちゃんと勉強しろよ。 《HYPER CUBE》はデイリー回収くらいにとどめておけ」
「ありがとよ、ヘラクレス、
だが、俺が入学したとき、ヘラクレスが先輩としていないと困るぞ。
いや、もうお前はヘラクレスなんかじゃない。
絶対に勝ってこいよっ!
《HYPER CUBE》界に君臨せし絶対的序列第1位『隻眼の使徒』・人色隻眼 っ!」
ロックコは絶叫する。
蔵人は、強く頷き、前へと進む。
◇
蔵人は月乃の前へと立つ。
「ダーリン……」
月乃は自分が止めても蔵人が決して死地へ向かうことを翻さないことを分かっていることから、言葉を上手く選べず、涙目で蔵人を見つめる。
蔵人は、そんな月乃の心中を察する。
「月乃、ありがとな。だが、俺は戦わなくっちゃならないんだ。
俺は、気になっていたことがあるんだ……お前がうちのファースト・フードにバイトに来たばかりの時の歓迎会のカラオケのとき。月乃はニコ動で有名な歌い手だからって、千冬ちゃんたちは、月乃が持ち歌にしてるボカロの曲ばかりをリクエストして月乃に歌ってもらってた……だけど……俺はボカロとか全然詳しくないから、μ'sの曲ばかりリクエストして申し訳なく思っていた……」
月乃の両頬に涙が流れる。
「こんな時にまでウチのことを……
ダーリンがリクエストしてたんはμ'sばかりやないっ!希たんのソロもあったし、にこりんぱな、BiBiもリクエストしてくれてたやん。にこりんぱなも、BiBiもμ'sとは違う別のユニットやからっ!μ'sばかりやないんや!」
月乃はそう言っているうちに感情が高ぶっていき、抑えられなくなる。
「ダーリンが《HYPER CUBE》東京予選決勝でウチらに勝って、京介兄さんの婚約をぶっ潰したとき、ダーリンのこと嫌いになろうと思った。でも、できひんかった。0.01秒のトリックを使ったダーリンの《HYPER CUBE》東京予選決勝での斬新なトリックに、ダーリンの完璧な戦略に、ウチはダーリンのこと、ええ男やなって思ってしもた。
その後、ファースト・フードのバイトで再会して、もっとダーリンのことを知って、知れば知るほど好きになって、それで《HYPER CUBE》世界大会が始まって……ダーリンのことをドンドン好きになったんよ。惚れてしもたんよっ。
せやから、本当に申し訳ないと思ってるんやったら、私のために生きて帰ってこんとアカンのやっ!
今度はちゃんとボカロの曲をリクエストせんとアカンのや。私はオールナイトででも歌うからっ!
声が枯れるまで歌うからっ!
せやから絶対に生きて帰って来てっ!!」
月乃は号泣しながら叫ぶ。
月乃は目の前にある蔵人の顔にゆっくりと唇を近づけ、その頬へ口吻をする。
蔵人は、強く頷き、前へと進む。
◇
蔵人は地面に尻餅をついたまま一心不乱に泣きじゃくる少女の前に立ち、腰を下ろす。
だが、少女は懸命に泣き続けていることから、蔵人が目の前にいるのに気づかない。
蔵人は、そんな少女の頭を撫でる。
そして、その少女に向かって言った。
「時雨、さよならだ」




