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第37話 人色蔵人、最後の挨拶

第37話 人色蔵人、最後の挨拶


「9人目っ、行くな。お前じゃ勝てない……9人目っ!」

 地面に両膝をついたまま、京介が絶叫する。



「禁術に禁術をぶつけるつもりかっ!『黄昏より昏(ハイパーダーク)(サデニシオン)』に『集極(エターナル)(ウェーブ)より来たりし(サデニシオン)』をぶつける。そんなの無茶だ。危険すぎるっ!


 それにプレトっちは、面白みがないかわりにウソだけは今まで1度もついたことが無いんだ。今の話も絶対に本当だ。


 だから行くんじゃねえええええええええええ、9人目っ!」

 京介が必死で吠える。




 そんな京介の叫びに気づいた蔵人は、ゆっくりと京介の前へと進む。

「京介さん、ありがとう。だが、俺は戦わなくっちゃならない。

 俺は、ずっと気になっていた……《HYPER CUBE》東京予選決勝で京介さんに勝ったために……京介さんの婚約を……ブッ潰してしまったことを……ずっと申し訳なく思っていた……」



 京介の両頬に涙が流れる。

「9人目っ!お前、こんな時にまで俺のことを……


 だが9人目っ心配は無用だ。俺の恋人の美沙はな、俺が1回敗けたくらいで他の男に乗り換えるような足軽女じゃねえからなっ!」

 京介は嗚咽をこらえながら笑顔で叫ぶ。



 尻軽女と言うべきところを、あえて足軽女と言うことで、ユーモア感を出し、戦地へと向かう蔵人を少しでもリラックスさせよう。そんな京介の深い思いやりを察し、蔵人は京介へ頭を下げる。



「9人目っ!頭下げてんじゃねえよ。頭下げるのは、次の《HYPER CUBE》世界大会で俺がお前に勝った後でいいだろうが。


 次の世界大会、絶対出ねえと許さないからなっ、9人目っ!


 絶対、生きて帰って来い。()()蔵人(・・)



 京介が蔵人のことを、9人目ではなく初めて本名で呼んだ瞬間だった。


 蔵人は、強く頷き、前へと進む。




                ◇


 


 そして蔵人は二神雫の前に立つ。

「雫さん、俺は、この戦いで死ぬかもしれない。


 だが、俺が死ぬと時雨は時雨自身のことを責めるだろう。時雨が俺を《HYPER CUBE》の道へ引きずりこんだからこそ俺が死ぬことになったと。そう思いつめて時雨は自殺するかもしれない。


 だから、俺が死んだ後、時雨が時雨自身を追い詰め、時雨自身を傷つけないように監視しておいて欲しいんだ」



 蔵人の言葉に雫は真剣な眼差しで頷く。



「時雨の契約者となって《HYPER CUBE》東京予選に出れたからこそ、俺はジンをDarker Than Crimson Redから奪還できた。そして、このギルド『最前線』っていう最高の仲間と出会えたんだからな。俺は感謝していた。そう伝えてくれ」



「二神財閥総帥継承権第1位保持者二神雫の名において誓う。その約束を守ると。だから、蔵人くん、あなたも私と1つ約束して」

 雫は真剣な眼差しで見つめる。



「え?」



「絶対にVivid Edged Blackに勝って来なさい」

 雫は笑顔で蔵人にサムズアップポーズをする。



 蔵人は、強く頷く。そして、前へと進む。



 

                ◇




 そして蔵人は水鏡恭一郎の前へと立つ。



「水鏡さん、俺はずっと申し訳なく思っていた。

 水鏡さんは俺たちを守るために《HYPER CUBE》を製作し、世界大会を毎年開き、このイリュージョン・アーツ魔法学園まで開校してくれた。世話になりっぱなしだと思ってる。

 それなのに俺は、新巌流島でVivid Edged Blackのサーヴァント・シェーシャと戦った直後のあのとき、水鏡さんを騙し、そして利用した。2つめのスキル・キャンセラーが可動しているという事実を隠蔽いんぺいしたいがために……」



「でも、それがなかったら、ここにいる者は全員、動けなかったよね。座して死を待つだけという極めてつまらないものになってたじゃないか。それと比較してごらん?


 それに、君は僕を利用してなんかいないよ。

 君が使ったのは、Vivid Edged Blackに勝つためだよね。




 つまり、それは君一流の兵法なんだ。

 勝つために限界まで考え抜いた戦略だ。




 そんな君を誰も責めることなどできないよ」

 水鏡恭一郎は、いつもの優しげな瞳で蔵人を見つめる。




「水鏡さん……あなた……」

 責められて当然だと思っていた蔵人は、逆に蔵人を積極的に評価する水鏡の優しさに、胸がいっぱいになって言葉を詰まらせる。




 水鏡は憂鬱と心配を交えた表情で蔵人を見つめる。

「そんなことより、蔵人くん。僕は心配している。ずっと気になっている。



 君が死地へ急いでいるんじゃないかってことがね。



 そんな気がするんだ。君の最近の言動からね。近頃の君にはそんな危うい言動が多かったこと、自分では気がついているかい?」

 水鏡は誠実な瞳で蔵人を見つめる。




「……」

 蔵人は言葉に窮する。




「蔵人くん、僕を見くびってもらっちゃ困るよ。

 僕はイリュージョン・アーツ株式会社の代表でもある。《HYPER CUBE》世界大会の後、出場選手全員になされたメディカル・チェックの結果も、イリュージョン・アーツ専属医師団から、当然報告を受けてるよ。



 君が死の病、ハイパーキューブ症候群S型に罹患し既に発症していることを含めてね……」

水鏡は優しげに問いかける。




 次の瞬間、水鏡は、一転して今まで誰も見たことのなかった鬼の形相ぎょうそうで蔵人を一喝する。

「君はヤケになって死のうなんて思ってるんじゃないだろうねっ!だとしたら僕は君を絶対に許さないっ!」




「水鏡さん……俺……」

 蔵人は下を向き、言葉を続けられない。




 水鏡恭一郎は、いつもの優しげな眼差しに戻ると蔵人を真摯しんしに見つめる。

 そして、ゆっくりと言葉をつむぐ。

「蔵人くん。こんな言葉を知ってるかい?


一寸ちょっと待て


 ハードディスクは


 消したのか?』」




「はっ」

 と蔵人は驚き顔を上げる。




「そうだろ?

 君はこんなところで死ねないよね。

 そして死ぬべき人間なんかじゃない。


 僕が命を削りながら作った渾身の作品、伝説のゲーム機ハイパーキューブ《HYPER CUBE》!




 そのハイパーキューブ《HYPER CUBE》において、君は《HYPER CUBE》界に君臨せし絶対的序列第1位・聖剣エクスカリバーの守護者『隻眼の使徒』なんだ!


 そんな君が負けるわけがないっ!!


 絶対に勝って来いっ!

 人色蔵人っ!!」

 水鏡恭一郎は号泣しながら絶叫する。





 蔵人は、力強く頷く。




 そして、進む。




 前へ前へ。






次の更新は明日です。

タイトルは「さよなら蔵人」。

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