第28話 隻眼の使徒・人色蔵人 VS デュラハン3兄弟
第28話 隻眼の使徒・人色蔵人 VS デュラハン3兄弟
何かが近づいてくる気配を感じ、2人は表情を強張らせる。
パカ、パカ、パカ……
馬の蹄の音が、イリュージョン・アーツ魔法学園の訓練フィールドとなっている森林に静かに響く。
青白い炎に包まれ厚い鋼の鎧で重装備した馬の乗り物。
そこに居座るは巨大な槍を構えた首なしの騎士が3体。
『騎士の亡霊』が3体同時に、蔵人とアルトくんの前に現れた。
それこそはプレイヤー殺しの最悪パーティーと言われる不倒の集団『デュラハン3兄弟』だった。
「今のこの状態で『騎士の亡霊』だって……しかも『デュラハン3兄弟』だって……エアプ運営すぎんよ……」
アルトくんは絶望に言葉を失う。
「蔵人さんっ、『騎士の亡霊』は特A級の怪物だ。攻撃役、タゲ取り役、回復役を揃えた統制のしっかり取れた超一流のギルドが何十ターンも攻撃して苦労してやっと1体を倒せる怪物だよ。
それが3体なんて……今の僕たちは2人。しかもさっきから気(KI)を消費しまくってるし、エリクサーどころかエーテルさえ持ってきてないよ……もう逃げるしかないよ」
アルトくんは泣きそうになりながら蔵人に訴える。
「『騎士の亡霊』か。懐かしいな。あの契約の日以来か」
蔵人は独りごつ。
「え?逃げるよね?」
アルトくんは蔵人に確認する。
「アルトくん、俺は昨日の夜、このあたりの地形を調べておいたんだ。あそこに人が1人通れるくらいの狭い入口の洞窟があるよね。あの洞窟は細長い形状なんだけどスグに行き止まりになってるんだ。でも、奥に人が1人入れるくらいの縦穴がある。」
蔵人は、そう言って笑顔で5mほど先の洞窟を指さす。
「そうなんだっ!さすが蔵人さんだ。さすが隻眼の使徒だよ。そこまで調べてるなんて。
行き止まりだったら、絶対にあそこに逃げちゃダメだね。他のところに逃げろってことだね!今、洞窟に逃げこんじゃったら、それこそデュラハン3兄弟の生け贄になるもんね」
アルトくんは目を輝かせて感心しながら返事をする。
「そうだね。俺は絶対にあそこへは逃げないよ。アルトくんとは違ってね」
蔵人は微笑みながらアルトくんに言った。
「え?え?僕だって行き止まりの洞窟には逃げないんだけど?え?え?」
アルトくんは話の筋が読めなくなり混乱する。
蔵人は突然、アルトくんの首根っこを掴んでアルトくんを持ち上げる。
「え?え?何するの?蔵人さん?えっ、ねぇ止めてよ」
アルトくんは泣きそうな声になる。
「お前が生け贄になれえええええええええええええええええええ!!」
そう叫びながら、蔵人はアルトくんを洞窟に向かって全力で投げ入れる。
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええイミワカンナイ」
アルトくんは絶叫する。
突然にピンポン球が投げられるのを見た犬は、その習性として夢中でピンポン球を追いかける。
今、同じようにして、デュラハン3兄弟は、突如洞窟へと投げ込まれたアルトくんを猛烈なスピードで全力で追いかけていく。
槍を構えた1体目の『騎士の亡霊』が猛烈な勢いで洞窟へ入る。続けてスグに2体目の『騎士の亡霊』が、そして3体目の『騎士の亡霊』もスグに洞窟へと突入していくのを蔵人は確認する。
「前提条件は充足された」
蔵人はつぶやく。
その瞬間、洞窟周辺は激しく青い閃光に包まれた。
『集極の波より来たりし闇』。その特殊能力を受けて再び立ち上がった者は歴史上存在しない。
1度めはバビロン事件において、バビロンの塔最上階で100人を人質にとったラスボスが。
2度めは重装のNPC『騎士の亡霊』が。
3度めは『奇跡の林檎』の使い手、世界屈指の《HYPER CUBE》プレイヤー矢沢京介が。
4度めは近接戦闘戦闘家として世界最巧と謳われた矢沢月乃が。
5度目は元グリーンベレーにして特殊能力『Unlimited Knife Fenomenon』の使い手、伝説の英雄サンダース大佐が。
6度目は世界屈指のプレイヤーからなる最強ギルド「最前線」のメンバー相手に連勝した神殺しの特殊能力『ホワイトアウト』の使い手、ホワイトナイトことPureSublimityWhiteが。
7度目はVivid Edged BlackのサーヴァンとにしてVivid Edged Blackのメイン盾。重力異常とファイアピラーの使い手、シェーシャが。
そして今、プレイヤー殺しの最悪パーティーと言われる不倒の集団『デュラハン3兄弟』が、わずか一撃で敗れ去ったのだった。
激しく青い閃光が収束する。
「ああ、死ぬかと思ったよ。本当に生け贄になるのかと思ったよ。奥に人が1人入れる縦穴があるって予備知識が無かったら僕も死んでたよ」
ヘトヘトになりながら洞窟から出てきたアルトくんは涙目で蔵人に抗議する。
「すまない、アルトくん。でも縦穴の予備知識を教えてなかったら、さすがの俺も君を行き止まりの洞窟へなんて投げ込まなかったよ」
「あっ!そっか!やっぱり蔵人さんの戦略だったんだね!」
アルトくんは再び目を輝かせて感心する。
「勿論だよ。君になら説明するまでもなかっただろ。
『騎士の亡霊』みたいな重装の化物に対しては、いくらランクSの特殊能力『集極の波より来たりし闇』と言っても1回の発動では1体を消滅させるあたりが限界なんだ。でも、あの時の俺には3体の『騎士の亡霊』に対して、『集極の波より来たりし闇』を3回発動するだけの気(KI)は残ってなかった。
しかし、『騎士の亡霊』を誘導し、あの細い洞窟に入れることに成功したことで、3体の『騎士の亡霊』は縦列に並ぶ形となった。ゆえに、俺は、わずか1回の『集極の波より来たりし闇』で、彼奴ら3体を倒すことができたんだ」
「へえ~!!さすがだよっ!!!さすが隻眼の使徒だよ!!戦術なんかじゃない、まさに戦略だよっ!!そんな戦略があったんだねっ!!」
アルトくんは目をキラキラと輝かせて蔵人を絶賛し続ける。
だが、直後、アルトくんは急に心配げな顔になる。
「でも、蔵人さん、無茶しすぎだよ……気(KI)が残り僅かな状態で、『集極の波より来たりし闇』なんてランクSの特殊能力を発動するなんて……体に負担かけすぎだよ。それまでも蔵人さん疲れてたのに、さらに疲れちゃったわけだし。こんなことばっかしてハイパーキューブ症候群S型にかかっちゃわないよう気をつけてね。あれにかかっちゃうと死ぬらしいからね」
アルトくんは心配そうに蔵人に言う。
既に蔵人がハイパーキューブ症候群S型に罹患し発症しているとは夢にも思わず。
アルトくんの口からハイパーキューブ症候群S型の名がでたことで、蔵人は内心、動揺する。だが、真実を決して悟られぬよう努めて表情を変えない。蔵人の頬を一筋の冷汗が流れる。
「そうだな。ハイパーキューブ症候群S型にかかったら死んじゃうからな。それだけは勘弁だな」
蔵人は、そう言って、ただ静かに笑っていた。
間もなくラグナロクの地で決戦が始まるとは、つゆ知らぬままに……。
次話より話は大きく動きます。
次の更新は明日です。
タイトルは「ラグナロク決戦・ギルド『最前線』VS聖剣エクスカリバーの守護者・開戦」。




