第25話 混沌(ハーレム)
第25話 混沌
イリュージョン・アーツ魔法学園内に併設された学生寮の個室へ戻り、蔵人は独り自室のシャワールームへと入る。長旅の疲れを癒すために。
「それにしても、時雨と雫さんのケンカ、凄い迫力だったな。3次元の女怖いよ。やっぱ女は2次元に限るな。あっ!でも、海未ちゃんが屋上で、穂乃果ちゃん殴ったときも怖かったか……あの時の鈍い音、絶対グーで殴ってたよな……」
蔵人はシャワーを浴びながら、とりとめもないことを独りごつ。
ガチャッ
シャワー室のドアが開く。
入ってきたのは二神時雨。ツインテールにした炎髪に小さな顔、大きな緋色の瞳、意思の強さを感じさせる強い眼差し、右耳にはルビーのピアス。そんないつもの装い。
だが、1つだけ、いつもと違う点があった。
それは時雨がスクール水着を着ていることだった。
「し、し、時雨……。どうして、俺の部屋へ入ってきた?ていうか、そのスク水はなんだ?……」
蔵人は戸惑いながら時雨へ尋ねる。
「さっきは見苦しいところを見せてしまったな。すまない……この部屋に来たのは、だな……まだハイパーキューブ《HYPER CUBE》世界大会で優勝したお礼をしてなかったからな。だから、お礼として、お前の背中を流そうと思ってきたんだ……遠慮するな……」
いつもの強気な時雨と違い、恥ずかしそうに下向きながら、時雨はそう言った。
「いや、まずいだろ。嫁入り前の娘さん的な意味でダメだろ。守護者のエリチさんに怒られるのも嫌だからな」
蔵人は必死で抵抗する。
「エリチなら大丈夫だ。さっき、すやすや寝ているのを確認してからツインを抜けてきた。まず腕からでいいか」
そう言いながら、時雨はスポンジへボディーソープをかけて、蔵人の右腕をとる。
「いや、まずいって。エリチさんが起きたら心配するだろ。早く戻った方がいいって」
蔵人は抵抗を続ける。
「だからエリチは寝てるって言ってるだろっ!洗いにくいから大人しくしろ、もう面倒だから、裸になってそこに四つん這いになれ」
時雨は投げやりに命令する。
ガチャッ
シャワー室のドアが再び開く。
入ってきたのはロシア系の白人の美女。年齢は16才の蔵人より2つ上の18才。碧い瞳。細い眉。金髪の長髪をポニーテールにして、白いシュシュで束ねる。その容貌はμ'sの絢瀬絵里と瓜二つ。身長は172cmで細身の完璧なモデル体型。
それこそは二神の守護者ビビアン・エリーチカ・ベネセツカヤだった。
「ちっ、エリチ、起きたのか」
時雨は舌打ちをする。
「御身の前に」
エリチは頭を下げる。
「私は元々寝てなかったわよ。目を閉じて休んでたら、いきなりツインルームの相方がスク水に着替え出した―そんな時、どんな声をかけていいか分からなかっただけよ」
エリチは笑顔で時雨を窘める。
「エリチさん、あなたまでその格好……」
蔵人は、エリチがバスタオル1枚の半裸になっているのに戸惑う。
高身長で細身で手足も長い完璧なモデル体型のエリチ。その白い手足がバスタオルから伸びる。そして、90cmほどあると思われる大きなバストの谷間が蔵人の眼前にあることから、蔵人はさらに狼狽する。
「ダーリン、言ったでしょ。《HYPER CUBE》世界大会でのハラショーな戦いぶりから、私はあなたの大ファンになったって。だから私もお背中流させてもらうわ」
「イミワカンナイんだが……それに俺はダーリンって呼ばれる覚えはない……」
「さっき、みんなダーリンって呼んでから……そんな意地悪な言い方しなくても……」
エリチは両肩を落とし、激しく落ち込む。
「みんなって月乃だけだろ……もう何でもいいよ」
落ち込むエリチに、心根の優しい蔵人は思わずダーリンと呼ばれることの許可を出す。
「本当っ?やったー!」
エリチは一転して嬉しそうに蔵人の左腕をとる。
「じゃあ時雨は右腕をお願いね。私は左腕を洗うわ」
「わかった!」
時雨は再度右腕をとる。
蔵人は苦笑する。
「疲れてきたんだが……本当に、もうお前ら2人だけで、また人が来たりしないんだろうな……」
ガチャッ
シャワー室のドアがまたもや開く。
「2人やない。3人や。ウチを入れて」
そこに立っていたのは、世界屈指のプレイヤーからなる最強ギルド「最前線」のメンバーの1人。近接戦闘家として世界最巧と謳われるプレイヤー。そして《HYPER CUBE》東京予選決勝で蔵人と死闘を繰り返した相手。駅前のファーストフード店での蔵人のバイト仲間でもある。
矢沢月乃その人だった。




