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第6話 契約

第6話


「まずまずのパンチだったな」


《HYPER CUBE》の世界から現実に戻ってきた蔵人に向かって、時雨は本音とは裏腹にそう言った。


「だが今までのテスト生はあのNPCを倒せなかった。足止めすらできずに」


蔵人に本音を見抜かれ、時雨は戸惑う。だがそれを悟られぬよう言い返す。


「ふん。気の貯めに時間がかかりすぎだ。実戦には使えまい」


「ああ。『(れん)()』は練った気を放出して威力を高める技だからな。だが《HYPER CUBE》はプレイヤーの脳神経やDNAデータを解析することで人体だけでなく人生データをベースとして各数値や能力を選定する。俺の現在の実力は4年間の空白があることからゲーム外経験値のみに依存するもの。

 一方、お前達のさっきの話は聞かせてもらったが、俺が1激で倒した騎士(デュ)亡霊(ラハン)』を最前線と言われる最強の8人のギルドは最短でも27ターンかかる。彼らは4年間ゲーム内経験値を高めたものたち。

 俺がゲーム内経験値を高めた場合、彼らと俺、伸びしろがあるのはどちらだ? そしてゲーム内外の経験値を上げることで、理論上は一瞬で『練気』を最大化することもでき得る。おまえの難癖は本質的なものではない。違うか」


「ぐぬぬ……」


 音声マイクを切り忘れるという失態と共に、議論でも完全に言い負かされ、恥じ入る時雨。


「う、う、うるさい、うるさい。これからお前が相手にするのは、『そのへんの雑魚』ではないから言っているんだ。まだ言ってなかったが、私の目的は、今年この日本で開催される《HYPER CUBE》世界大会優勝だ」


それまでの不満を晴らすかのように時雨は一気に捲し立てた。


「世界大会で優勝?」

「うむ。それも圧倒的実力差でぶっちぎって優勝したいと思っている。優勝まではこの契約は口外を禁じる。つまり密約だ」

 

 そう言う時雨の口調にはただならぬ決意が滲み出ていた。


「なぜ、そんなことを?」


 ただのゲームのことにしては、やけに激しい思い入れを持っている様子だった。また、なぜ密約なのか。蔵人は尋ねようとした。

 が――野暮。傭兵となった自分には契約者へのそんな詮索は礼を失すると考えた。


「よかろう。契約は成立したんだな。報酬は後払いか?」

「見損なうな。私を誰だと思っている。――黒野っ!」

 

 部屋の外へ、時雨が一声あげる。


「はっ! ここに!」


 黒野がすぐに部屋に入って来た。


「契約書を出せ。こやつにサインさせろ。そして確認次第、3000万円を渡してやれ」

「かしこまりました。蔵人様、こちらの契約書にサインをお願いします」

「書けば3000万円だな」

「ああ、即金でくれてやろう。それに世界大会に優勝したら、賞金で3億円ぐらい入るがな、それもお前にやる。お前がそれで本気になってくれるなら安いもんだ。そういう契約でいいならサインしろ」

「いや3000万円以上は必要としない。ゲームの大会で3億とはな」

「この大会は年々規模がさらに拡大してるからな、そんなことはいいから、さっさとサインしろ」

「言われなくともするさ」

 

 蔵人はそう言うと、すぐさま契約書にサインした。

 黒野が時雨にその契約書を手渡す。



「ふむ」

時雨はサインを確認する。


「黒野、こいつに3000万円を渡してやれ」

「はい」


黒野がアタッシュケースから3000万円の札束を蔵人の前に積んでいく。

蔵人はその札束を両手で受け取る。



「これで……。七里」

 手が震える。



(良かった)

蔵人は心の底から思った。



「《HYPER CUBE》の世界大会東京予選決勝が11月に行われる。私は昨年のアジア選手権で優勝したシード権があるから、いきなり決勝だ。決勝まで、あと2ヶ月。それまでにお前は《HYPER CUBE》での対戦経験を積むなりして、本番に備えるんだ。良いな? あと、それにともなって、私も――」

 

 さらに時雨が何か言っていたような気がしたが、このときの蔵人の耳にその声は届かなかった。



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