第21話 ヘラクレスとヘリオ・ガバレス
第21話 ヘラクレスとヘリオ・ガバレス
「ウヒョヒョヒョヒョヒョ。いいねえ、いいねえ、いいねえ。お前、面白いね、最高だよ。やっぱ『絶対時間』は、隻眼の使徒にも有効なんだな。最高だよ。たかが1回、《HYPER CUBE》世界大会で優勝したくらいで自分が最強って勘違いしてるんじゃないだろうな?
言っとくけど、俺はお前と直接対決して負けたわけじゃないからな。
最強はな、俺を倒してから名乗れよ。なぁ、三下。
あ、ゴメン、お前、今指先ひとつ動かせないんだったぁ。ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョ」
皇帝ロックコは、背中から大剣を抜刀する。
灰色の長髪、瞳は燃え盛る火のように赤い。
そんなロックコはゆっくりと蔵人へ近づく。
「皇帝ロックコ、お前も来てたんだな」
身動きできない中、蔵人はつぶやく。
「来てたよ。こう見えても、ギルド『最前線』のメンバーだからな。でも、来た目的は、お前を倒すためだけだけどな。ああああああ、この大剣使うの待ってたんだわぁ。誰が世界最強か決めないといけないからなぁぁぁああああ。どっから斬り刻んでほしいかお前に決めさせてやるよ、三下っ。」
ロックコは大剣を上段へ構え、全く身動きできない蔵人へ斬りかかる。
「「「だめええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」」」
月乃が、雫が、アルトくんが悲鳴をあげる。
蔵人は動けない。
だが、ロックコの大剣は、ただ空を切り、鞘へと収まる。
「え?」
みんな不思議そうにロックコを見る。
「『ヘラクレス』だ」
ロックコは真剣な顔で蔵人に言う。
「ヘラクレス……」
蔵人はロックコの真意を理解できず戸惑う。
ロックコは言った。
「空を斬った今の一撃で、俺は《HYPER CUBE》世界大会でお前と直接戦えなかったという俺自身の無念をかき消した。
だから、俺はお前がギルド『最前線』のメンバーになることを認める。
だが、《HYPER CUBE》世界大会で俺とお前が直接戦っていない以上、俺は、お前が《HYPER CUBE》界に君臨せし絶対的序列第1位とは認めないし、その代名詞である『隻眼の使徒』とも、もう呼ばない。
他方で、お前の《HYPER CUBE》世界大会でのホワイトナイトとの戦いっぷりを、俺は一定の評価してはいる。
だから、俺は決めた。
次の《HYPER CUBE》世界大会まで、俺はお前のことを『ヘラクレス』と呼ぶってな
ギリシア神話の英雄『へラクレス』だ。それでいいか?」
ロックコは蔵人に問う。
「その想い確かに受け取った。
ならば俺は、その日までお前をヘリオ・ガバレスと呼ぼう」
蔵人は返す。
「ローマ帝国第23代皇帝ヘリオ・ガバレスか。俺の2つ名である『皇帝ネロ』に比べれば確かに雑魚だな。俺がお前の『隻眼の使徒』という2つ名を認めないように、お前も俺の2つ名を認めないというわけか。
面白い。俺もその呼び方を受け入れよう。それも酔狂。さすがヘラクレスだ」
ロックコは笑顔で蔵人を見る。
◇
「ロックコくーん、戦闘訓練時以外での特殊能力の使用は、ダメだよ。ここの校則違反だからね」
大きな声がエントランスに響き渡る。
声の主は、イリュージョン・アーツ魔法学園の学園長・水鏡恭一郎。
守衛からの報告を受けて、水鏡恭一郎は慌てて学園長室から飛び出してきたのだった。
ロックコは申し訳なさそうな顔をして、頭を下げる。
「まぁルビーの指輪を使いこなすための合宿だから、気が逸るのは理解できないわけじゃないんだよ」
水鏡も反省してしょんぼりした顔のロックコをフォローする。
そして水鏡は蔵人へ近づくと、蔵人にしか聞こえない小さな声で尋ねる。
「どうしてスキル・キャンセラーを使わなかったんだい?あのツールの不正プログラムを僕は削除してないし、今後するつもりもない。スキル・キャンセラーを使えば、ロックコくんの発動した『絶対時間』は直ちに無効化されたよね」
「いや、これでいいんだ。水鏡さん。これでいいんだよ」
蔵人は笑顔で水鏡に微笑む。
◇
その時。
イリュージョン・アーツ魔法学園のエントランスの自動ドアが開く。
入って来たのは矢沢京介。
世界最高の遠隔狙撃手。矢沢月乃の実兄。そして最強ギルド『最前線』のメンバーの1人。
そして特殊能力『奇跡の林檎』の使い手。
京介は不愉快そうに蔵人を睨みつけながら、ゆっくりと蔵人へと近づく。




