第20話 再会@イリュージョン・アーツ魔法学園(ハーレム)
第20話 再会@イリュージョン・アーツ魔法学園(ハーレム)
スイスのレマン湖のほとりにあるバロック様式の絢爛豪華な装飾がされた高級ホテルのような豪勢な建物。
その前に人色蔵人は立つ。
その建物には
「イリュージョン・アーツ魔法学園」
という看板が掲げられている。
「偽装工作は完璧なようだな。誰もここをビグース殲滅の特殊能力を磨くための合宿所とは思わないだろう」
蔵人は独りつぶやきながら、エントランスへ入る。
◇
その時。
「ダーリンおそいやん」
そう言いながら、ホットパンツを履いた白くて長い脚の少女が蔵人の胸に飛び込む。少女のバストは推定95cm。少女は胸の開いた紫のタンクトップを1枚着ているだけで、その大きな胸を蔵人の顔へとグリグリと押し当て続ける。
少女の名は、矢沢月乃。
世界屈指のプレイヤーからなる最強ギルド「最前線」のメンバーの1人。近接戦闘家として世界最巧と謳われるプレイヤー。そして《HYPER CUBE》東京予選決勝で蔵人と死闘を繰り返した相手。駅前のファーストフード店での蔵人のバイト仲間でもある。
「ちょっと待て、月乃。ダーリンってなんだ?俺にそんな呼ばれ方をする関係を構築した覚えはないぞ。誤解をまねくだろ。それと近づきすぎだ」
蔵人は戸惑いながら、月乃に抗議する。
「ええやん。だってウチのカードがそう告げるんやもん。蔵人くんをダーリンと呼んで、スキンシップはかりまくったら、良いこと起きるって」
月乃はタロットカードを見せながら甘えた声で蔵人の左腕に抱きついて反論する。
◇
その直後。
蔵人は今度は右腕に大きく柔らかい胸の感触を覚える。
「蔵人くん、おそいでしょ」
そう言いながら、同じくホットパンツを履いた白くて長い脚の少女が蔵人の右腕に大きな胸を甘えた声で押しつける。こちらの少女のバストは推定90cm。少女は黒のTシャツ1枚着ているだけなので、胸の感触が蔵人の右腕に生々しく伝えられる。
その少女の10代半ばの黒い瞳に黒髪。
「し、時雨?」
蔵人は戸惑う。
蔵人のタッグパートナーの二神時雨は、気が強く、こんな甘えた声を出すことはない。それに時雨は炎髪に緋色の瞳。黒髪で黒い瞳とは違う。だが、その顔立ちは二神時雨そのもの。しかし、時雨の胸は限りなくマナ板。しかも時雨なら『おそいでしょ』なんて言わずに『遅刻してるんじゃないわよバカ蔵人』と罵ってくるツンデレキャラのはずである。そもそも、蔵人を呼ぶときは『お前』であり『蔵人くん』などと呼ばれたためしがない。だが、この少女の顔かたちは時雨そのもの。
「時雨だよな……髪を黒に染めて、黒のカラコンして……おまけに豊胸手術と人格改造までしたのか?……」
蔵人は激しく戸惑いながら尋ねる。
それを聞いて黒髪の少女はテヘッとでも言うよな顔をする。
「こうして話をするのは初めてだよね。私は時雨の双子の姉の二神雫よ。オテンバで我が儘な妹をいつもアリガトねっ!」
その少女こそは二神雫。
蔵人のタッグパートナー二神時雨の双子の姉。そして世界有数の大富豪、二神財閥の総帥継承権第1位を保持していることから将来、財界のトップになることが確実視されている人物。また世界屈指のプレイヤーからなる最強ギルド「最前線」のメンバーの1人でもある。《HYPER CUBE》にはβテストから参加している最古参。また高貫通の特殊能力、『竜の雷槌』の使い手でもある。
「そうか、雫さんかっ!そりゃサンダース大佐も世界大会中に戸惑うわけだ」
蔵人は先日の《HYPER CUBE》世界大会の時のサンダース大佐が試合中に雫と時雨を混同し慌てていたことを思い出し、苦笑する。
◇
その時。
「蔵人さ~ん」
まだ幼さの残る美少年が、嬉しそうに手を振りながら蔵人へ近づく。金髪と青い瞳というアングロサクソンの特徴を持つその少年は、少年でありながらも高級そうなブラウンのスーツに赤の蝶ネクタイ。左耳にはルビーのピアス。
少年の名はアルト・ネイチャー。12才でありながら前回《HYPER CUBE》ヨーロッパ選手権優勝者にして過去に世界大会第3位となった実績も持つ。最強ギルド「最前線」に所属する世界屈指の《HYPER CUBE》プレイヤーの1人。そして「隻眼の使徒ファンクラブ」会長を務めるほどの熱心な蔵人ファンでもある。
「あれ?アートネーチャーくん!」
と雫。
「アートネーチャーじゃない!僕の名前はアルト・ネイチャーだ!」
アルトくんは顔を真っ赤にして雫を全力で怒る。アルトにとって、その呼ばれ方は相当に嫌なものらしい。
「雫ちゃんが、そんな時雨ちゃんみたいなイジワル言うとは思わなかったな」
アルトくんは口を尖らせて雫に抗議する。
「そんなことより、蔵人さん、僕、蔵人さんの為に早起きしてサンドウィッチ作ってきたんです。『いやー今日もパンがうまい』って言って欲しくって」
純真なアルトくんは、そう言って目をキラキラ輝かせながら尊敬する蔵人へとランチボックスをさし出す。
「ありがとう、アルトくん」
蔵人は笑顔でランチボックスを受け取ろうとした。
と、その瞬間、イリュージョン・アーツ魔法学園のエントランスにいたギルド『最前線』のメンバーたちの動きがピタっと止まった。
アルトくんも、月乃も、雫も、そして蔵人も、誰もピクリとも動けない。
蔵人はランチボックスを受け取るため歩こうとしたまま、銅像のように全く動けない。アルトくんもランチボックスをさし出したまま、完全停止している。
ギルド『最前線』のメンバーは理解した。
特殊能力が発動されたことを。
『絶対時間』が発動されたことを。
その特殊能力を発動したのは世界最凶のプレイヤーの名を欲しいままにする男、ロックコ・ビンセント。ロックコは前回の《HYPER CUBE》アメリカ選手権の優勝者であり、また、かつてギルド『最前線』の中で最強と言われた男。『隻眼の使徒』が再来する前までの《HYPER CUBE》界での序列は第1位。すなわち《HYPER CUBE》界の皇帝。
だが、ロックコは、ただの皇帝ではなかった。ロックコの2つ名は『皇帝ネロ』。ロックコは、その行状から、史上最も残虐非道と言われた暴君、ローマ帝国第5代皇帝ネロに喩えられることが多い。そして、そんな2つ名よりも、また、ロックコ自身の名前よりも、もっと有名なものがある。それこそが今、ロックコが発動したエクストラ特殊能力である。
その特殊能力こそが『絶対時間』。
『絶対時間』。この特殊能力が発動された場合、発動者と同じバトルフィールドに立つ全プレイヤーは2ターンにわたって完全に移動の自由を奪われ、全ての動きを停止させられる。もっとも、発動者のみはその自由を奪われない。
イリュージョン・アーツ魔法学園のエントランスにいた誰もが動けない中、ただ1人、ロックコのみが、ゆっくりと蔵人へと近づく。
「ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョ」
ロックコは雄叫びをあげる。そして続ける。
「ウヒョヒョヒョヒョヒョ。いいねえ、いいねえ、いいねえ。お前、面白いね、最高だよ。やっぱ『絶対時間』は、隻眼の使徒にも有効なんだな。最高だよ。たかが1回、《HYPER CUBE》世界大会で優勝したくらいで自分が最強って勘違いしてるんじゃないだろうな?
言っとくけど、俺はお前と直接対決して負けたわけじゃないからな。
最強はな、俺を倒してから名乗れよ。なぁ、三下。
あ、ゴメン、お前、今指先ひとつ動かせないんだったぁ。ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョ」
皇帝ロックコは、背中から大剣を抜刀する。
灰色の長髪、瞳は燃え盛る火のように赤い。
そんなロックコはゆっくりと蔵人へ近づく。
「皇帝ロックコ、お前も来てたんだな」
身動きできない中、蔵人はつぶやく。
「来てたよ。こう見えても、ギルド『最前線』のメンバーだからな。でも、来た目的は、お前を倒すためだけだけどな。ああああああ、この大剣使うの待ってたんだわぁ。誰が世界最強か決めないといけないからなぁぁぁああああ。どっから斬り刻んでほしいかお前に決めさせてやるよ、三下っ。」
ロックコは大剣を上段へ構え、全く身動きできない蔵人へ斬りかかる。
「「「だめええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」」」
月乃が、雫が、アルトくんが悲鳴をあげる。
蔵人は動けない。




