第19話 水鏡恭一郎、再び
第19話 水鏡恭一郎、再び
蔵人は叫ぶ。
「《HYPER CUBE》世界に君臨せし絶対的序列第1位は、この人色蔵人だっ!依然、揺るぎなくっ!」
そして、蔵人は、ゆっくりと木陰にむかってピシッと指をさす。
「そこに隠れているのは分かってるよ。そろそろ出てきてはどうだ。水鏡恭一郎っ!」
新月の淡い月明かりを浴びて、木陰からゆっくと1人の青年が姿を現す。
その人物こそ。
20代半ばでありながら世界有数のゲーム会社であるイリュージョン・アーツ株式会社の代表であり、また《HYPER CUBE》の開発者として世界に名前を轟かせし男。
水鏡恭一郎、その人だった。
「ほぅ、さすが蔵人くんだ。木陰に隠れてたのに、どうして僕だと分かったんだい?」
几帳面に短髪を整え、研究室で実験中の研究者のような白衣を着た細身の青年は、感心した顔で蔵人へ賛辞を贈りながら問いかける。
「簡単なことだ。木陰から白衣の裾が見えたからな。病院や実験室でもないのに1年中、何の必要性も無く白衣を着てる男といえば、俺はウサン臭い学習塾講師あるいは水鏡恭一郎さんしか知らない。そして無人島である新巌流島には学習塾はないことから、学習塾講師は存在しない。
よって、木陰に隠れていたのは水鏡恭一郎さんあなた以外ありえなかったQED」
蔵人は証明終了を告げる。
「相変わらず言いたいことを言うね。さすが隻眼の使徒だな。いや、この白衣も必要性が無いわけじゃないんだよ」
水鏡は苦笑する。
「まぁスキル・キャンセラーなんて違法ツールを使う悪質ユーザーに言われたくないけどね。本当なら永久アカウント削除処分の対象だよ。君は隻眼の使徒という伝説の存在だから、大目にみるけどね」
そう言って、笑いながら水鏡も攻勢に出る。
「水鏡さん、すまない。バレてたんだな。サーバへの侵入は3時32分だったっけ?」
「え?いや、3時33分だよ。3が3つ並んでたから、覚えてるよ」
水鏡は、質問の趣旨を分かりかねて不思議そうに蔵人を見る。
「水鏡さんは、どうしてこの島へ?」
蔵人は話を変える。
「国防軍の情報をハッキングして僕もこの島に気づいたんだ。君たちをビグースからだけでなく、軍からも守るのが僕の使命だと考えてるからね。《HYPER CUBE》の開発に比べたら、国防軍のハッキングなんて朝メシ前だよ。ガバガバだった。
それより蔵人くん、いい戦いっぷりだった。
『瞬間移動』も『『集極の波より来たりし闇』も現実世界でも完璧に使いこなせてたね」
水鏡は自分のことのように嬉しそうに言う。
「ああ。《HYPER CUBE》東京予選決勝の後に、水鏡さんが俺にくれたこのルビーのピアス。このルビーのピアスの本来の機能。それは《HYPER CUBE》の特殊能力を現実世界でビグースに発動するための出力装置。さっきが初めての現実世界での実戦だった。だが、現実世界でも《HYPER CUBE》世界と同じように特殊能力を発動できた。さすが水鏡さんだ」
蔵人は左耳につけたルビーのピアスを示しながら水鏡に賛辞を贈る。
「僕は為すべきことを為しているだけだけどね」
そう言って水鏡は、満更でもなさそうに笑う。
「だが蔵人くんができたからと言って、ギルド『最前線』の他のメンバーもできるとは限らない」
一転して真剣な顔になった水鏡は、蔵人に言う。
「確かにそうだ。実は俺も最初は不安を感じながら戦っていたんだ」
蔵人も真剣な顔で答える。
「やはり、蔵人くんのようなしっかり者でさえそうだったんだね。ギルド『最前線』は、時雨ちゃんやロックコ君のようなゲームの中でさえハイパーキューブ症候群A型を発症してしまうほど繊細な未成年の子が多い。そこを僕は1番心配してたんだよ」
蔵人も頷く。
「確かに、そうだな。心配なところだ……え?心配して『た』って過去形なのか?」
蔵人は心配してい「る」ではなく、心配して「た」と言った水鏡を不思議そうに見る。
「そうだよ。実はね、僕はその為にスイスのレマン湖の湖畔に高級ホテルとその周辺の広大な敷地を買い取ってアミューズメントパークを造ったんだ。
そのアミューズメントパークの名はイリュージョン・アーツ魔法学園だっ!
しはらくはイリュージョン・アーツ株式会社の大株主限定の優待施設ということにして世間の目を欺く。だが、イリュージョン・アーツ魔法学園の本来の役割。
それは、君たちが現実世界でビグース殲滅の特殊能力を磨くための合宿所だ。
そこで僕が開発したルビーのピアスを使って、現実世界ででも落ち着いて特殊能力を発動できる訓練をしよう。
それにジンさんとDarker Than Crimson Redが開発したサファイヤの指輪。それこそが《HYPER CUBE》世界での武器を現実世界へ顕現させる出力装置だったね。それを使う訓練もできるよ。
だってイリュージョンアーツ魔法学園には11万4514個もの現実世界でのNPCを用意したからね」
「俺たちのための……合宿所……それに11万4514もの……水鏡さん、そこまで俺たちのことを……」
感動の余り蔵人は上手く言葉を言えない。
「イリュージョン・アーツ魔法学園。僕も、いつまで君たちの側にいられるか分からない。だから頑張ったよ。これはギルド『最前線』、君たちみんなのための学園さ。蔵人くん、来てくれるね」
「もちろんだ」
蔵人は力強く頷く。
蔵人は、そしてギルド『最前線』のメンバーたちは向かった。
イリュージョン・アーツ魔法学園へ。
そこで待っているのは、そんな少年少女たちにとって余りに残酷な運命であるとは知らずに。
ネトゲでたとえると、ここまでがVivid Edged Black編のチュートリアルでした。
次話より、いよいよVivid Edged Black編の本番が始まります。
舞台も日本を出て、スイスのイリュージョン・アーツ魔法学園となります。




