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第13話 蔵人からの遺言

第13話 蔵人からの遺言



 蔵人は告げる。

「だから明日、俺は新巌流島へ行く。」



「えっ」

 泉が絶句する。



「そんなのダメだよ。危険すぎるよ。相手はアメリカ海軍第7艦隊が停泊していた軍港を周辺都市ごと消滅させたビグースVividEdgedBlackなんだよ。いくら《HYPER CUBE》世界に君臨せし絶対的序列第1位と言われ、『隻眼の使徒』の2つ名を持つ蔵人くんでも、不安だよ」

 泉は涙ぐみながら蔵人を止めようとする。



「私も……信じてるよ……だって蔵人くんは、ハイパーキューブ世界大会東京予選の戦いのとき、月乃さんに言ったよね。『戦略を持った弱者は、時に戦術を持つ強者を(しの)ぐ』って。その言葉どおり、蔵人くんは戦略で0.01秒差のトリックを考え出して、絶体絶命の状況から奇跡の大逆転で勝利した。だから、VividEdgedBlackにも勝てるって思っはいるけど」



 だが、蔵人は深刻な顔で首を横に振る。

「泉、それは違うな。あれは月乃の特殊能力スキルが戦術級という前提があったからこそ成りたつ理論だった。それに対し、VividEdgedBlackの特殊能力スキルである『黄昏よりハイパーダークサデニシオン』は戦略級だ。戦略級相手に戦略を用ても、それは時として焼け石に水だろう」



「そ、そんな……」

 泉は言葉を失う。



 蔵人は一転、笑顔で優しく微笑みかける。

「脅してすまない。実は明日、新巌流島で俺を待っているのはVividEdgedBlackじゃないんだよ。だから安心しろ。そこは俺を信じてほしい」



「え?」

 泉は不思議そうに蔵人を見る。



 蔵人は種明かしをする。

「だってそうだろ。人類を挑発してきたビグースは10月10日、11月11日、12月12日、1月1日と律儀に規則的に行動していた。仮にこのビグースがVividEdgedBlackだとするなら、アメリカ海軍第7艦隊が停泊していた軍港を周辺都市ごと消滅させるのは、今までの規則性を遵守し、2月2日を選ぶだろう。だが、VividEdgedBlackは、昨日、つまり1月31日を選んだ。これにより、国防軍を攻撃していたビグースはVividEdgedBlackだという仮定自体誤りであることが証明できるんだ。そうすると、論理的に、明日、新巌流島で俺を待っている国防軍を攻撃してきたビグースもVividEdgedBlackではないことが必定となる。だから泉は安心していいんだよ」

 そう言って蔵人は泉に微笑みかける。



「分かった!でも、他のビグースでも心配なことは心配だよ」

 泉は納得はしたものの不安を残した表情で蔵人を見つめる。



「大丈夫だ。それに泉には大切な役割を担って欲しいんだ」

 蔵人はそう言って、ズボンのポケットから鍵を取り出す。



「これは駅前の銀行の貸金庫の鍵だ。暗証番号は114514だ。昨日、俺がハイパーキューブ症候群S型に罹患していると知ったとき、俺はそれを書いた。そして、それはその貸金庫の中にある。


 俺からの遺言がな」




「えっ」

 泉は驚き、言葉を失う。



「安心して欲しい。これは明日の戦いを前提にしたものではない。いつ俺がハイパーキューブ症候群S型レベル4を発症するか分からない、それを前提にしてのものなんだ。

 だが、俺はハイパーキューブ症候群S型に罹患していることをジンや七里たちには絶対に言えない。なぜだか分かるか?」



「はっ!」

 泉は事情を察知し息を飲む。



「さすが泉だ。そうなんだ。もし俺がハイパーキューブ症候群S型に罹患していることをジンが知ったとする。だが、ジンは、俺がDarker Than Crimson Redからジンを奪還する為に《HYPER CUBE》世界へ飛び込んだことを知っている。だから、きっとジンはジン自身を責めるだろう。

 またもし俺がハイパーキューブ症候群S型に罹患していることを七里や時雨が知ったとする。だが、俺が七里の手術代3000万円を捻出するために時雨と契約して俺は《HYPER CUBE》世界大会へ出場したことを七里も時雨も知っている。だから、俺がハイパーキューブ症候群S型に罹患したと七里や時雨が知ったなら、彼女らは自分自身を責めるだろう。

 だが、それは誤解だ。俺は自分自身の意思で、《HYPER CUBE》の道を選んだ。そんなメッセージが、その遺書には書いてある。ジン、七里、時雨、それに泉に宛てたものもある。俺からの最期の手紙なんだ。

 でも、イリュージョン・アーツの医師団がきっと治療法を見つけてくれるから、その手紙はただの笑い話になるはずだと俺は信じてるよ。

 だから、ただの担保なんだ。しかし、それを頼めるのは泉、お前だけだ。泉、この役割を引き受けてくれるか?」



「うん、分かった。任せて、蔵人くん」

 蔵人が1人だけで沢山のものを抱え込んでいたことを知った泉は、蔵人の負担を少しでも軽くしなければと、真剣な顔で頷き、蔵人から貸金庫の鍵を受け取る。




「あっ、そうだ!忘れてたわ!」

 突然、泉が大きな声をあげる。


「え?」

 蔵人は不思議そうに泉を見る。



「蔵人くんの《HYPER CUBE》世界大会優勝のお祝いをしようと思って、プレゼントがあるんだ!」

 泉はそう言って、スクールバッグを開けて、かわいいリボンでラッピングした白い小箱を両手で持つ。



「あらためまして。蔵人くん、《HYPER CUBE》世界大会優勝、おめでとうございました!!」

 泉は笑顔で白い小箱を蔵人へ差し出す。




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