第9話 Dr.Iへの依頼
第9話 Dr.Iへの依頼
「そういえば蔵人くん、なんでコンピ研の部室に来たの?ギルド『最前線』への入団ってそんなに急ぐ話でもないんだから、こんな早朝でなくてもいいのに」
泉は不思議そうに蔵人に尋ねる。
真剣な眼差しで泉を見つめる。
「ああ、そうなんだ。Dr.I、俺はお前に依頼したいことがあって、この部屋へ来たんだ」
蔵人は泉のことを泉ではなく、Dr.Iと呼んだ。
それは蔵人が名門・秋葉原学園高校のクラスメイトとしての泉へではなく、世界最強の凄腕ハッカーDr.Iとしての泉へのハッキングの依頼であることを意味する。
コンピ研部員である泉は前回のハッカーの世界大会ブラックハットで準優勝した実績を持つが、そこまでは表の顔にすぎない。泉の裏の顔、その真の姿こそDr.Iと言われている世界最強のハッカーだった。だが、それを知るのは、蔵人のみ。そして、蔵人が今、Dr.Iにハッキングの仕事の依頼をしたのであった。
「え?蔵人くんのためになら何でもするよ」
泉も真剣な顔で蔵人に返答する。
「実は昨日の夜から今朝まで、ずっと《HYPER CUBE》をプレイしてたんだ。WIKIにギルド戦やレギを推奨されてるボスも、俺だったらソロで戦えるって分かってな。最初は嬉しくて、特殊能力をぶっぱし続けてたんだが、気がついたら朝になってたんだ。そんなバトルログを運営の水鏡さんや粟山さんたちに見られるのが恥ずかしいから、イリュージョン・アーツ株式会社の社員たちが出社するまでにバトルデータを削除して欲しいんだ」
蔵人はテレながら泉に言う。
「ちょっと何それ。子どもみたいじゃない」
泉は腹をかかえて笑う。
「私も小学生の時にMMOやってて、初めてガチャで高貫通魔法のSR当たったときは嬉しくて深夜まで、ぶっぱし続けてたわ。そんな俺TUEEEEE感に高揚するのが許されるのは小学生までだよ。ウフフ。まぁでも、そんな用件ならお安いご用よ。今からやるね」
泉は笑いをこらえながら、PCを起動させる。
「たしかに最初は嬉しくてぶっぱしてたんだが、途中からは不安でぶっぱしてたのかもしれない……」
蔵人は元気無くつぶやく。
「え?不安?」
泉は不思議そうに蔵人を見る。
蔵人はゆっくりと泉に言った。
「泉、俺はハイパーキューブ症候群S型に罹患しているんだ」




