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第8話 決戦・ギルド『最前線』VSバジリスク(急)

第8話 決戦・ギルド『最前線』VSバジリスク(急)



 第5ターン



 バジリスクの鋭く尖った角が、時雨の体を貫く。


 かと思われた。


 だが。


 観客たちは、見た。バジリスクの動きがピタリと止まっているのを。

 バジリスクだけでなかった。イベント会場入口にいるギルド『最前線』のプレイヤーたちの動きがピタっと止まった。時雨も、雫も、京介も、アルトくんも、月乃も、誰もがピクリとも動かない。全員が完全停止している。



 イベント会場入口は観戦者たちからの大きな絶叫に包まれる。


ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア   

ウオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ

ウアアアアアアアアアアアアアアアアアァァ


ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア   

アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア


エンペラーズタイムウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ


皇帝ネロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ


 そこら中で歓喜の叫びが聞こえる。


「やっぱり、こうなるわよね。あのチート、また、あれやるのか・・・」

 泉は力無くつぶやく。


 お正月イベント初日にわざわざ会場へ来るほどの熱心な《HYPER CUBE》ファンなら、誰もが知っていた。『最前線』のメンバーの動きが完全に止まったわけを。そして、この瞬間を待ちわびていた。



 皇帝(インペリアル)の出陣を。



 その特殊()能力(キル)を発動したのは世界最凶のプレイヤーの名を欲しいままにする男、ロックコ・ビンセント。

 ロックコは前回の《HYPER CUBE》アメリカ選手権の優勝者であり、またギルド『最前線』の中でも最強と言われる男。『隻眼の使徒』が再来するまでの《HYPER CUBE》界での序列は第1位。すなわち《HYPER CUBE》界の皇帝(インペリアル)


 だが、ロックコは、ただの皇帝ではなかった。ロックコの2つ名は『皇帝ネロ』。ロックコは、その行状から、史上最も残虐非道と言われた暴君、ローマ帝国第5代皇帝ネロに(たと)えられることが多い。そして、そんな2つ名よりも、また、ロックコ自身の名前よりも、もっと有名なものがある。それこそが今、ロックコが発動したエクストラ特殊()能力(キル)である。





 その特殊()能力(キル)の名は『絶対(インペリアル)時間(タイム)』。

 『絶対(インペリアル)時間(タイム)』。この特殊()能力(キル)が発動された場合、発動者と同じバトルフィールドに立つ全プレイヤーは2ターンにわたって完全に移動の自由を奪われ、全ての動きを停止させられる。もっとも、発動者のみはその自由を奪われない。





 『絶対(インペリアル)時間(タイム)』の発動によりロックコと同じバトルフィールドに立つ全プレイヤーは2ターンにわたって一切動くことができない。ただし、術者ロックコのみは自由に動くことができる。そして、この2ターンにわたって、ロックコは残虐非道に、陵虐の限りを尽くす。

 ゆえに、世界最凶と言われ、また『皇帝ネロ』と呼ばれるようになった。ロックコは。



 灰色の長髪、瞳は燃え盛る火のように赤い。

「真打ち登場と行こうか」

 静かにそう言いながら、ロックコはバジリスクへ向かって、ゆっくりと進む。


 バジリスクは術者のロックコを襲おうとするが、ロックコが発動した特殊()能力(キル)絶対(インペリアル)時間(タイム)』のために、1歩も動けない。バジリスクだけでなかった。イベント会場入口にいるギルド『最前線』のプレイヤーたちの動きも止まっている。時雨も、雫も、京介も、アルトくんも、月乃も、誰もがピクリとも動かない。全員が完全停止している。

 だが、ただ1人ロックコだけは、ゆっくりと歩く。バジリスクへとへ向かって。




「ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョ」

 ロックコは雄叫びをあげる。そして続ける。




「ウヒョヒョヒョヒョヒョ。いいねえ、いいねえ、いいねえ。お前、面白いね、最高だよ。雑魚のギルドやレギに連勝したくらいで自分が最強のボスって勘違いしてるんじゃないだろうな?

 最強はな、俺を倒してから名乗れよ。なぁ、三下(さんした)。あ、ゴメン、お前、今指先ひとつ動かせないんだったぁ。ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョ」




 皇帝ロックコは、背中から大剣を抜刀する。

「ああああああ、これ使うの久しぶりだわぁ。次の《HYPER CUBE》世界大会決勝のために温存してたんだけどよぉぉぉおおお、お前は2ターンで倒さないといけないからなぁぁぁああああ。どっから斬り(きざ)んでほしいかお前に決めさせてやるよ、三下(さんした)っ。」



 バジリスクは動けない。


「はぁぁぁああああ。ビビッて声も出せねえのか三下(さんした)っ。」

 ロックコは大剣を上段へ構え、全く身動きできないバジリスクの首を狙って斬りかかる。






                ◇




 コンピ研の部室。


「ってとこまで観て、そこで私は学習塾へ行ったのよ」

 と泉。




「そこで話、終わるんかいイイイイイイイイイイイイイイイイイイ」

 蔵人は全力でツッコむ。



「ええ、だってしょうがないじゃない。塾に遅れそうだったんだもん。それにロックコくんって女の敵なんだよね。私のギルド『旅団幻影(ファントム)』の友だちの女の子もスカートまくりされたって文句言ってたし、この前の第4回《HYPER CUBE》世界大会でも絶対(インペリアル)時間(タイム)を悪用して時雨のパンツ見ようとしてたでしょ。そんな奴なんか無理して観戦しなくてもいいんだよ」

 泉は頬を膨らませて抗議する。



「まぁ思春期だからな、そこは大目にみてやれ」

 蔵人はフォローする。



「そういうあんたも16才だから思春期でしょうが」

 というツッコミを泉は口にはしない。

 泉は真剣な眼差しで、蔵人を見つめる。

 話の続きをするために。




「ん?結局バジリスクは倒せなかったのか」

 蔵人は続きを促す。




「信じられないかも知れない。

でも信じて」

 そう言って泉の表情は(こわ)ばる。





 その表情に、蔵人もタダならぬ思いを感じ、真剣な眼差しで黙って(うなず)く。




「今のが12月30日のことなの。そして31日は家の用事があって全くログインできなかった。それで、次に私がログインしたのが、今年の1月1日の早朝だった」

 泉は真剣な(こわ)ばった表情を変えない。




「そして私は見たの。ギルド『最前線』が、まだバジリスクと戦っていたのを」




「えっ……二日間も戦い続けてたって……ことか……」

 蔵人は絶句する。




「そうなの。私も信じられなかった。でも、事実よ。私のギルドの友だちに聞いたんだけど、彼ら8人は2日間、常に誰か1人が交替でバジリスクの部屋と始まりの街を何度も何度も往復して、薬草やポーション、エーテルやエリクサーを補給し続けてたんだって。そして残りのメンバーが全力でバジリスクと戦い続けてたんだって。

 そして私が見始めて間もなくしてバジリスクは討伐されたの。

 11万4514ターンかかってた。

 仲間のために自分を犠牲に戦い抜いた彼らの姿に私は感動した。彼らは紛れもない英雄だった。

 丁度、その瞬間に、朝日が昇った。新年の初日の出がね。そんな朝日を浴びた彼らは神々しくすらあったわ」




「11万4514ターンか……執念だな……」

蔵人は絶句する。

 



「そうね。みんなは知らないけど、それは全部、粟山さんを、友だちを守るための執念……いえ、信念なのよ。ギルド『最前線』はそんな純粋な人たち、貴い人たちだって、私はその時思ったの。だから蔵人くんがギルド『最前線』に入団するの私は大賛成だよ。だから心から言わせてもらうわ。


 蔵人くん、入団おめでとう」

 泉は笑顔で蔵人に言う。



「ありがとう、泉。頑張るよ」

 蔵人も笑顔で返す。




 最強ギルド『最前線』9人目のメンバーの入団が決定した瞬間だった。




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