第5話 ギルド『最前線』VSバジリスクへ(3)
第5話 ギルド『最前線』VSバジリスクへ(3)
「さあ、大変なことになったな」
スマホを切ると、時雨は月乃たちにむかって、そう言った。
「でも本当は勝算があるから言ったんでしょ」
アルトくんは笑顔で返事をする。
「いや、なんか私はいつも某隻眼にさっきみたいなセリフを言われてて、私もいつか他の人にあのセリフ言ってみたいと思ってたからチャンスと思って自己陶酔しながら言ったかんじかもしれない……」
と時雨。
「えっ」
アルトくんは絶句する。
「大変そうだから私も協力するよ」
泉が心配そうに時雨に言う。
「ありがとう。でも、気持ちだけで大丈夫だ。泉は学習塾があるだろ。そっちを優先してくれ。そうでないと私が罪の意識で戦いに集中できないからな」
時雨は笑顔で泉に答える。
「でも、『最前線』には回復役いないんだよね」
泉は心配げに言う。
「そこは考えてある。イベントボスの部屋は通常のボス部屋と違って、戦闘開始により後戻りができなくなるってことはない。だから、イベントボスであるバジリスクの部屋は、『始まりの街』と遮断されてない。だから、戦闘しながらギルドの他のメンバーが、『始まりの街』で薬草やポーション、エーテル、エリクサーを大量に買って、バジリスクの部屋へ届ける。そんな往復を繰り返し続けることで補給できるから、回復は問題ない。『最前線』は今までのクエストで稼いだ軍資金がたっぷりあるから、金銭的な問題もない。往復の補給役はアートネーチャーくんがやってくれるからな」
と時雨。
「アートネーチャーじゃない!僕の名前はアルト・ネイチャーだ!」
アルトくんは顔を真っ赤にして時雨を全力で怒る。
「でも、年末の忙しい時期にメンバー集まるかな」
泉はなおも心配そうに言う。
これには月乃が答える。
「ウチと時雨ちゃんとアルトくんは、ここにいるさかい余裕やろ。雫ちゃんとプレトくんも学生やからナンボでも都合つくし。セレーゾ神父も、さすがに年末は教会の仕事ないはずやから、大丈夫なはずや。京介兄さんはニートで、ロックコくんは引きこもりやから、この2人はネトゲのこのイベント会場に今いないことが不思議っていうか探したら絶対この中にいるはずやで!」
そう言って月乃は泉を笑わせる。
「そういうことだ。だから、泉は安心して学習塾へ行ってくれ。ギルド『最前線』は自分たちこそが新MAPを攻略する最前線たる者って自負から『最前線』の名前をギルドにつけてるんだから、そんな有言実行をし続けるのが義務なんだ。だから、みんなスグに駆けつけてくれるはずだ」
時雨はそう言って泉を安心させる。
◇
コンピ研の部室。
「そんな事があったのか。全然知らなかったなぁ。それって《HYPER CUBE》の東京予選と世界大会の間のことだったんだよな。世界大会の前も時雨と練習して、粟山さんがサポートしてくれてたけど、2人とも全然そんな話しなかったぞ」
と不満そうに蔵人は言う。
「まぁ粟山さんにとっては不名誉なことだから仕方ないよ」
泉はフォローする。
「で、バジリスクは倒せたのか?」
蔵人は泉に尋ねる。
その時、ふと前を向いて、机の上に座って、短いスカートから泉の白くて長い脚が交差しているのを目にして、慌てて目を逸らせる。
「時雨がLINEで呼びかけた3分後にはギルド『最前線』の8人全員がお正月イベントの入口にいたから、ビックリしたわ。数万人が屯してたから分からなかっただけで、元々イベント会場の入口に何人かはいたみたい。そして8人が揃うと、彼らはスグに開戦したわ」
泉は再び窓の外の遠くの景色を見ながら、語り始めた。
ギルド『最前線』とバジリスクとの決戦のことを。
◇
お正月イベント会場入口いっぱいに広がる強力な明るい光。他の観戦者たちは眼を開けていられなくなる。と同時に。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドン
観戦者の誰もが耳の鼓膜が破れたかと思うほどの大きな雷鳴。
この時、観戦者たちは、みんな競技場に落雷があったと思った。雷鳴の余韻に空気が震える。
やがて観戦者たちは視界を回復する。
そして、その強い光と爆音の源たる者を知る。
そこにいたのは、ゴシックロリータの赤と黒の衣装の少女。赤いスカートの丈は膝上20cm。そして黒のニーソ。両手には深紅の皮の長手袋、右手には先端に大きなルビーを備えた漆黒の杖。ツインテールにした炎髪に大きな緋色の瞳。左耳にはルビーのピアス。
二神時雨、その人だった。
時雨が発動した特殊能力『竜の雷槌』の最終形態たる『竜神の逆鱗』。それこそは《HYPER CUBE》界で随一の貫通力を誇る最強の特殊能力。
それを第1ターンから誰よりも早く発動させることで、バジリスクへの先制攻撃に成功したのだった。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
興奮した観戦者たちが絶叫する。
「みんな、遅すぎぃ。早く私について来なさいよ」
時雨は笑いながら『最前線』のメンバーたちへ憎まれ口をたたく。




