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第4話 ギルド『最前線』VSバジリスクへ(2)

第4話 ギルド『最前線』VSバジリスクへ(2)



「あれ?よく分かりましたね!門番のバジリスク、あれは私が担当したんですよ。すごくカッコイイでしょ!、途中で社員旅行の飛行機に遅れそうなのに気づいたから、やっつけで終わらせてテストもやらなかったんですけど、飛行機に間に合って良かったです!あ、またスロットの7が3つ揃いました!!新年はハッピーな年になりそうですね!」

 粟山さんは高いテンションで幸せそうに現状報告する。



「やはりか……」

 時雨は頭を抱えた。



「門番のバジリスクをギルドやレギで500ターンやっても600ターンやっても誰も倒せない。誰もお正月イベント会場に入れずに、会場入口の前に数万人が(たむろ)している」

 時雨は現状を率直に伝える。



 幸せだった粟山さんの血の気が一気に失せた。


「600ターンでも……倒せないんですか……中級くらいのレギでも50ターンくらいで倒せるはずなんですけど……」



「600ターンでも倒せなかったのはギルド『旅団幻影(ファントム)』だ。中級どころか前線にいる一流のギルドだぞ」




「あの『旅団幻影(ファントム)』がですか……それだと私がミスしたってことになりますね……はっ!バジリスクのHPを入力してるときにパスポートを鞄に入れてないことを急に思い出して、良かった~とか思ってました。考えごとしながら入力すると、私はしばしばミスるんですけど、丁度その時に飛行機の離陸時刻が迫ってるってことに気づいて、ヤバいと思いながら焦ってゼロを連打した気がします。しかも急いでたから全く事後確認もテストもしないでアップして空港へ急いだのも思い出しました。時間無くてヤバいって思ってたので」

 と粟山さん。



「ヤバいのは、お前のその仕事への姿勢だろ」

 と時雨は心の中で思ったが、粟山さんは傷つきやすいのであえて口にはしない。



「運営への問い合わせメールが殺到してるはずだが?」


「あ、さっきから大量に来てるのそれだったんですか」

 粟山さんは声を震わせながら答える。



「見てないのか?」


「水鏡さんが旅行中は楽しむことに専念しよう!仕事のことなんかパーッと忘れようと言ってたので……」


「忘れちゃダメだろ」

 時雨は(あき)れる。



「『年末年始の期間中はお問い合わせのメールへの返答が送れることがあります』ってアプデの告知に書いてたから全然大丈夫って言ってたんで……」



「水鏡らしいな……じゃあ早く修正しておいてくれ。用はそれだけだ。じゃあな」

 時雨はスマホを切ろうとする。



「それが修正できないんです……」

 粟山さんの泣きそうな声に時雨は慌てて切るのを止める。



「修正できない……だと?」



「セキュリティーの問題で東京本社のパソコンを利用して、さらに権限者が指紋認証を経なければ、《HYPER CUBE》のサーバーでの修正作業を行えないんです……だから私がラスベガスからこれから東京本社行かないといけません……でも、今日は12月30日。飛行機で移動してたら、お正月イベントがお正月に間にあわないかもしれません……」

 粟山さんは泣きそうな声になっている。



「私のプライべートジェットで、これからベガスへお前を迎えに行く。お正月イベントには絶対に間に合う。安心しろ」

 時雨は粟山さんを励ます。



「時雨、恩にきります。私の最後の仕事、やりきってみせます」

 と粟山さん。



「最後?なんで最後なんだ?……」

 時雨は不思議そうに粟山さんに聞く。



「こういう明白なミスは通常のアプデではテスト段階で発見されます。仮にテストで見逃されたとしても、アプデの後のユーザーの指摘を受けて即時に修正されるのがネトゲ業界の常識です。年末年始という特殊事情があるとはいえ、今回みたいに何時間も放置されることは、イリュージョン・アーツ株式会社の信用に関わる大問題なわけです。その責任を取って、私は辞表を提出するつもりでいます。退社です。」

 自分の犯したミスの重大さを認識した粟山さんは、それをしっかりと受けとめ、落ち着いた冷静な口調で今後の自分のなすべき行動を時雨に告げる。粟山さんは、真摯に反省し、自分の進退について大きな決断をした。ゆえに粟山さんに、もう迷いはなく、いつものオドオドした粟山さんではなかった。



「辞めなければならないのか?」

 と時雨。


「当然です」

 粟山さんは決してブレない。




                ◇



 時雨の脳裏に幼なじみの粟山さんの努力してきた光景が走馬燈のようによぎる。

 幼い頃、みんながママゴトやお人形遊びをしていたとき、粟山さんは独りプログラミングの勉強をし、喜々として時雨や雫にそんな世界を語ってくれていた。

 時雨は中学3年のときのことを思い出す。粟山さんは、時雨と雫に言った。

「私も時雨や雫みたいに高校に行って同年代の友だちたちと楽しみたいって気持ちもあるんですよ。でも、私は、やっぱり《HYPER CUBE》が大好きだから、イリュージョン・アーツ株式会社で働こうと思うんです。それが私の生き甲斐だから」

 粟山さんは笑顔でそう言っていた。




                ◇



 だが、今、粟山さんはイリュージョン・アーツ株式会社を退社し、《HYPER CUBE》と関係のない世界へ行かなければならなくなっている。それは粟山さんにとって無念という言葉では表せられないほどの気持ちに違いない。それは幼なじみの時雨にとっても辛すぎることだった。


 ゆえに時雨は決意した。



「粟山、こんな名言を知っているか?『犯罪はバレなければ犯罪ではない』」

 時雨は静かに粟山さんに言う。



「それって名言ですか?」

 粟山さんは不思議そうに答える。




 時雨は粟山さんにゆっくりと言う。

「そして私は思う。ミスはバレなければミスではない」




「え?……まさか。時雨、あなた……」

 粟山さんは、時雨の意図を完全に理解した。

 粟山さんは時雨が無茶をしようとしていることが分かった。




 ゆえに粟山さんは叫ぶ。

「ギルド『旅団幻影(ファントム)』は準最前線にいる一流のギルドです。そんな『旅団幻影(ファントム)』が600ターンかかっても全然削れなかったのが、私が作り出してしまったバジリスクなんです。バジリスクは、そんな化け物なんですよ。いくら最強ギルド『最前線』でも討伐するのは無茶です。勝算があるんですか」




 時雨は粟山さんにゆっくりと告げる。

「粟山、私はお前が退社するのが嫌なんだ。この私が嫌なんだ。簡単に諦めるわけにはいかないし、勝算なんて無ければ考え出せばいいだけだ。なぁ粟山、私を誰だと思っているんだ。二神財閥の令嬢?隻眼の使徒のタッグパートナー?そんなのどうでもいい。私はお前の幼なじみだ。お前の幼なじみに敗北の2文字はない。覚えておけ」




「私も、そう思います!!」

 粟山さんは、そう思っているが返事をしない。ただ涙を流すのみ。返事をすれば、涙が嗚咽へ変わるから、粟山さんはそれを怖れているのだった。幼なじみの矜持として。






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