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第3話 ギルド『最前線』VSバジリスクへ(1)

第3話 ギルド『最前線』VSバジリスクへ(1)



「ちょっと何だ、これは? この狭いスペースに、いったい何万人が集まってるんだ?」

 《HYPER CUBE》にログインし、今日から始まるお正月イベントの会場へ入ろうとした少女は、その入口前に何万人もの人が寿司詰めとなっている異様な光景を目にして、驚きの声をあげる。


 少女の名は二神(ふたがみ)時雨(しぐれ)。ツインテールにした炎髪に小さな顔、大きな緋色の瞳、意思の強さを感じさせる強い眼差し、右耳にはルビーのピアスをつける。時雨は世界屈指の大富豪である二神財閥の令嬢であり、《HYPER CUBE》最強ギルド『最前線』のメンバーにして、《HYPER CUBE》界屈指の貫通力を誇る特殊()能力(キル)『竜神の逆鱗』と『(ドラゴニア)()(ンダー)』の使い手として知られている。そして『隻眼の使徒』人色蔵人の《HYPER CUBE》世界大会でのタッグパートナーでもある。



「お~い、時雨ちゃん、時雨ちゃんも、お正月イベントに来たんだね」

 まだ幼さの残る美少年が、大きく手をふりながら、嬉しそうに時雨へ近づく。

金髪と青い瞳というアングロサクソンの特徴を持つその少年は、少年でありながらも高級そうなブラウンのスーツに赤の蝶ネクタイ。左耳にはルビーのピアス。

 少年の名はアルト・ネイチャー。12才でありながら《HYPER CUBE》ヨーロッパ選手権優勝の実績を持つ。最強ギルド『最前線』に所属する世界屈指の《HYPER CUBE》プレイヤーの1人であった。



「あれ? アートネーチャーくん!」

 と時雨。


「アートネーチャーじゃない! 僕の名前はアルト・ネイチャーだ!」

 少年は顔を真っ赤にして時雨を全力で怒る。アルトくんにとって、その呼ばれ方は相当に嫌なものらしい。


「あんたら、いつもそのやり取りやってるやんね」

 そう言って近づくのは近接戦闘家として世界最巧と謳われるプレイヤー。最強ギルド『最前線』に所属する世界屈指の《HYPER CUBE》プレイヤーの1人。そして《HYPER CUBE》東京予選決勝で蔵人と死闘を繰り返したばかりの相手。矢沢月乃その人だった。



「月乃さん、おひさ! この前の東京予選は私たちが勝っちゃってゴメンね」

 時雨は笑顔で月乃に軽口をたたく。



「あれはウチの完敗やったわ。しゃあないわ。それにしても『隻眼の使徒』、エエ男やったなぁ」

 月乃は蔵人を思い出して、赤面しながら時雨に返答する。



「私の契約者なんだから当然だ! それより、この人だかり、どうしたんだ?」

 時雨は自慢げに返答するとともに、月乃とアルトくんに先ほどからの疑問をぶつける。



「そうなんだよ。みんな、今日から始まる《HYPER CUBE》のお正月イベントを楽しみにして集まってる人たちばっかなんだよ。でも、お正月イベント会場の門番をやってるボスキャラのバジリスクが強すぎて全然倒せなくって、みんなお正月イベント会場に入れなくって困ってるんだよ。誰かが1度でも倒したら、みんなイベント会場に入れるのにさ……さっきから僕や月乃さんが、いろんな野良やレギオンに参加して戦ってるけど、あのバジリスク、リジェネが半端ないしHPも全然削れないんだ。運営が絶対にHPの桁を2桁か3桁入力ミスしてるんだよ」

 アルトくんは困った顔で現状を時雨に伝える。



「ウチも《HYPER CUBE》のいろんなイベントに参加してたけど、門番をレギオンで50ターン以上かかっても倒せへんなんて1度もなかった。それが今回、500ターンかかっても倒せへんねん、私もアルトくんも途中でKIが尽きてしまうねん……楽しむ為のお正月イベントやのに、そこに入場するのが無理ゲーってありえへんから、絶対に運営が入力間違いしてると思う」

 月乃も苦しげに今の状況を時雨に教える。



「何だそれは、クソ運営極まりないな」

 時雨は激怒する。




「あれ? 時雨じゃない! 時雨も、お正月イベントに来たんだね」

 泉が時雨を見つけて人混みの中から声をかける。


 時雨は泉を見つけると涙目になりながら抱きつく。

「泉、ありがとう。蔵人が七里ちゃんとジンさんをDarker Than Crimson Redから奪還できたんだ。泉が頑張ってDarker Than Crimson Redのラストダンジョンがアマゾンにあるって見つけてくれたんだろ。時雨のおかげだ」

 時雨はそう言って涙ぐみながら泉を強く抱きしめる。



「ちょっと、そんなに強くしたら痛いよ。時雨だって蔵人くんをアマゾンまで飛行機で送って行ってくれたんでしょ。頑張ったのは、みんな同じだよ。でも、七里ちゃんもジンさんも、無事に帰って来れて本当に良かったよね」

 泉もそう言いながら、瞳に涙を浮かべる。



「「良かった、ほんとに良かった」」

 と時雨と泉は互いに泣きながら繰り返す。



「話は変わるんだが、イベント会場の門番がデタラメな強さらしいんだ」

 と時雨。



「そうなのよ、さっき私の入ってるギルド『旅団幻影(ファントム)』で挑戦したんだけど600ターンで力尽きたわ。私は、これから学習塾に行かなきゃならないからログアウトするけど、残ってる人はまた挑戦するって言ってる。でもバジリスクのHPを600ターンやっても全然削れてないから、イベント担当の運営さんがHPを間違って入力したんだと思う。運営さん優しそうな人だから、楽しむイベントでこんなドSなことしなさそうだし」

 泉は友だちになったばかりの運営の粟山さんの顔を思い出しながら、そう話す。




「確かにあそこの運営は人が良さそうだな。だがドジっ娘っぽい奴でもあるよな」

 時雨は自分の幼なじみで運営の粟山さんを思い出しながら話す。



「嫌な予感しかしないが、私が直接問い合わせてみるか」

 時雨はスマホを取り出すと粟山さんのスマホへ電話する。



「あ、時雨! いま社員旅行でラスベガスで盛り上がりまくってるんですよ! さっきからスロットで稼ぎまくってるんです。最高に楽しいです!」

 粟山さんは時雨にハッピーな現状報告をする。



「なぁ粟山、お正月イベント会場で門番をやってるバジリスクなんだが、お前の担当なんだな」

 時雨はアンハッピーな声色で粟山さんに質問する。



「あれ?よく分かりましたね! 門番のバジリスク、あれは私が担当したんですよ。すごくカッコイイでしょ! 途中で社員旅行の飛行機に遅れそうなのに気づいたから、やっつけで終わらせてテストもやらなかったんですけど、飛行機に間に合って良かったです!あ、またスロットの7が3つ揃いました!! 新年はハッピーな年になりそうですね!」

 粟山さんは高いテンションで幸せそうに現状報告する。



「やはりか……」

 時雨は頭を抱えた。



 そして、次の瞬間、幸せだった粟山さんの血の気が一気に失せた。



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