第2話 9人目の『最前線』
第2話 9人目の『最前線』
「Pure Sublimity Whiteは最期に言った。ビグースにはアメリカ軍やロシア軍の最新兵器なんて全く役に立たないと。役に立つのは気に裏付けられた特殊能力だけだと。そして俺とギルド『最前線』のメンバーに人類の命運が託されていると。
今度の敵、VividEdgedBlackは最強だ。俺1人では心許ない。俺には同士が必要だ。
だから俺は決めたんだ。」
そして蔵人は言った。
「俺はギルド『最前線』に入団する。そして9人目の『最前線』となる」
「泉、お前の意見を聞きたい」
蔵人は泉に尋ねる。
「うん、私は蔵人くんを支持するよ」
泉は笑顔で頷く。
「え?」
蔵人は不思議そうな顔で泉を見つめる。
「泉はギルド『最前線』に批判的じゃなかったっけ?てっきり反対されると思ってたんだが……」
と意外そうな蔵人。
「それは以前の話でしょ」
話が長くなりそうだと思い、立っていた泉は机を引きよせて、机の上に座る。そして、右足を上へ交差させる。この小説の舞台である20X5年という近未来の東京でのJKのスカート丈のトレンドは極端に短いものとなっていた。それは2014年から2015年の京都、滋賀でのJKのスカート丈に匹敵すると言われるほどだった。しかも、泉は身長が165cm近くと高く、脚も長くて白い。そんな泉が、椅子に座っている蔵人の目の前で、短いスカートのまま脚を組んで机の上に座るのだから、その白くて長い脚が一際強調される。常にクールな蔵人ではあるが、思春期の健康な男子でもあることから、思わず意識して脚から目を逸らせる。
「泉、机の上に座るのは行儀がよいとは言えないぞ」
蔵人は遠回しに泉に苦言を呈する。
「そうかな?白河院先輩がいつも、こうしててカッコイイなと思ってるから、私もこうしてるんだ。白河院先輩は憧れだからね」
泉が悪びれすらしないことから、蔵人もそれ以上は言えなくなった。
「でもギルド『最前線』って入団するのに8人全員の許可が必要なんでしょ?世界大会で蔵人くんは、みんなを負かせたのに大丈夫なの?」
泉は心配そうに蔵人に聞く。
「ああ。『最前線』へ俺を誘ってくれたのは月乃なんだ。そして事前に月乃がLINEで『最前線』のみんなに聞いたら、8人のうち、7人は大賛成だったらしい。ただ、京介さんだけは既読無視だったらしい。月乃は大丈夫って言ってたんだが……」
「そっか……蔵人くん、たしか《HYPER CUBE》東京予選で勝って京介さんの婚約の機会をぶっ潰しちゃったんだよね……」
「ああ。だが俺も、あの時は勝たなければならない理由があった。東京予選で勝って水鏡恭一郎に会わなければならなかったし、ビグースからジンを奪還しなければならなかったからな。まぁ月乃が大丈夫って言ってるから、今は俺は月乃の言葉を信じることにしている。
それでだ。泉、教えてほしい。どうして俺がギルド『最前線』の9人目になることを支持するのかを。意外なんだが」
蔵人は不思議そうに泉に尋ねる。
蔵人は泉が『最前線』を敵視に近い感情を持っていると思っていた。だから、泉を傷つけないように、泉が反対すれば『最前線』への入団を辞退するつもりでいた。それなのに、あっさり入団を認める泉の真意を蔵人は確かめようとする。
「確かに以前はギルド『最前線』の人たちを見る度に憂鬱になったよ。《HYPER CUBE》で屈指の最強プレーヤーだけからなる最強ギルド『最前線』って世界中で言われてるけど、私には火力に任せてぶっぱするだけの分かってないDQNと地雷たちの集まりだと昔は思ってた。でも、今は違うよ。自分が誤解してたって気づいたから」
と泉は笑顔で蔵人に答える。
「え?そうなのか?」
蔵人は、不思議そうに再度尋ねる。
「そうだよ!《HYPER CUBE》では、ギルドみたいな継続的な集団じゃなくって、一匹のボスを討伐するためだけにレギオンという一時的に集団を結成されることが、よくあるのね。私は回復役として、ギルド『最前線』の人たちとレギオンを組んで戦った経験も多いんだ。でも、『最前線』の人たちって、火力に優れた貫通系の特殊能力を過信して、後衛とスイッチしないで前衛に居座ることがよくあったの。私はヒーラーとして後衛から冷静に戦いを観ているから、そのあたりがよく見えた。見るに堪えかねて、『そこの人早く下がって』とバトルチャットで指示を出したことが何度かある。気づく契機があるのに、全然その癖を治そうとしないの。
また戦闘中、『最前線』の人たちがヒールの対象を私に指示をすることが何度かあったの。でも、その指示はHPが少なくなっている人を伝えるだけで、間違ってて邪魔なの。
ヒールの対象は残りHPだけで決めるもんんじゃないのね。誰がヘイトを集めてるか、タゲ取り役をやってるのは誰なのか、ボスの攻撃パターンからして次に狙われるのは誰なのか、各プレイヤーの固有耐性とボスキャラの固有特性との関係で次の攻撃でHPが最も危なくなるのは誰なのか、各自のKIはどれくらい残っているのか、KIが残り少ない人の火力はどれくらいなのか、討伐に必要な残りのターン数はいくつなのか、リザレクションの使い手はレギオンにいるのか、リザの使い手がレギオンにいるとしてその者はリザを使えるだけのKIを保持しているのか、その者がKIを保持して無くてもその者あるいは他の者はエーテルやエリクサーは持っててKIを上げ得るのか、またリザを使うことによる討伐に必要な残りターン数の増加は、討伐が失敗する可能性をどこまで高めるものなのか、それらを全て計算することで完全に未来予想をしてヒールは行わなければならないのね。
現在HPが少なくなっているだけ人の情報なんて何の意味も無いの。だから、『そこの人は黙ってて』ってバトルチャットで伝えてケンカになったことも何度かあるんだよ。私の所属してるギルド『旅団幻影』は準最前線にすぎないけど、そんなことを言わないといけない人なんて全然いないし、ギルド『最前線』は困った人たちの集まりだなと思ってた。《HYPER CUBE》の東京予選くらいまでは、そう思って憂鬱になってたよ」
「今は違うのか?」
蔵人は意外そうに尋ねる。
「そうだよ。だって、それって全部私の誤解だって、最近気づいたもん」
「え?」
「だってギルド『最前線』には回復役がいないんだよ。回復をやったことが無かったら、回復のやり方が分からなくって当然だよね。HPの少ない人を教えるのも、自分としては良かれと思って善意でやってるってことに気づいたの。前衛に居座るのだって、彼らはギルド戦で回復がいないから火力にモノを言わせて、最短のターンで倒す以外に手段がないから、それが身に染みついてるってだけなの」
「でも、ギルド『最前線』の人は毒下がりの人がいても、参戦ボタンを連打して前衛に出ようとするって前に文句言ってなかったか?」
「それも東京予選よりずっと前のことだよね。時雨が転校してくるより前の。雑談で言ってたよね。よく覚えてるわね」
泉は笑う。
「それも今は違うのか?」
「うん、違うよ。《HYPER CUBE》の敵キャラの毒はやたら重いの。だから確かに毒下がりの人がいたら、その人が参戦ボタンを押して、その人の参戦の意思を確認するのが第1なの。その人がボスキャラ召喚の供物提供してる主催だったら、供物が貴重な《HYPER CUBE》だと、その主催の意思は絶対尊重してあげようってみんな思ってから特にね。そして、毒下がりの人が参戦ボタンを押してたら、他の後衛の人は、参戦を押さないことで、毒下がりの人を前衛に出して、毒下がりの人へ回復役がキュアポイズンとかの毒消しの特殊能力をかけるのを待つのが常識になってる。それなのにギルド最前線の人たちは、毒下がりの人がいても、それが主催だろうが誰だろうが、ひたすら参戦ボタンを押しまくるの」
「それって『最前線』は地雷の集まりなんじゃないのか?俺には、そう思えるんだが……」
「うん。前は私もそう思ってたんだ。でもね、よく考えたら、これもさっきの話と同じなんだよ。ギルド『最前線』には回復役がいない。だからキュアポイズンっていう回復役のみが持つ特殊能力を前提に戦ったことが無い。だとしたら、そんな回復を前提にした戦い方が分からなくって当然だよね。彼らはギルド戦で回復がいないからこそ、火力にモノを言わせて、参戦を連打しまくって最短のターンで倒す以外に手段がない。それが身に染みついてるってだけなの。『最前線』のメンバーの火力は圧倒的だから、誰も彼らをBLしない。ゆえに彼らは自身の行為がBLされる対象行動だって気づく契機は無いの。『最前線』のメンバーがWIKIを見ることだって絶対ないよ。だってギルド『最前線』は最初はβテスターでNo1だった月乃さんが、No2の雫さんを誘って作った集団だよ。彼らはβテスト以来現在まで、最前線として常に新しいマップに1番乗りして、1番に新マップを開拓して新ボスを1番討伐ばかりしてきた集団なんだから。WIKIを参考にするなんて発想があるわけないもん。彼らは新ボスを攻略してその動画をアップするだけ。私たちは、新ボスを倒したいから、それを分析してWIKIを編集する。でも、もうボスを倒した彼らがWIKIを見る必要なんて全く無いしそれが正しいもん。
だから、彼らは決して地雷なんかじゃない。私は彼らのことを、とても純粋な気持ちで戦っている貴い人なんだって思ってるよ」
「うん。なるほど。確かに一理あるな。ギルド『最前線』のメンバーたちは、純粋で貴い者の集まりか。そう考えると、彼らが前衛で高貫通以外を打って居座るのも、些細なことかもしれないな」
「え?なんで?」
「いや、この前、俺がレギ募集したとき、最初の1ターンだけ前衛に出て、その後ずっと引きこもりっぱなしだったくせにロットだけ参加してドロップ持っていった奴がいてな。そいつ前にも俺のレギで同じことしてたんだよな。そいつに比べればマシかなって」
「それ蔵人くんのBLがガバガバなだけでしょっ!」
泉はキツイ口調で咎める。
「ホント分かってないなぁ~」
泉はため息をつく。
「あのね蔵人くん、《HYPER CUBE》は行動力システムを取ってるから、そのあたりシビアにいかないと迷惑かけるんだよ。それに《HYPER CUBE》くらい世界中で人気の大規模なゲームになると悪意型だけじゃなくって身の丈にあわないのにも来る参戦型も含めると、とんでもない数の寄生がいるのよ。
だから、まず寄生の募集するレギオンに行かないのが絶対なの。だってレギオンが瓦解して時間どころか行動力まで無駄になったら何してたか分からないでしょ。
BLはきっちりと活用しなきゃダメなんだよ。
そして、BLがガバガバな人も地雷として、BLすべきなの。だってその人のレギには寄生が混じり得るから、同じように行動力無駄になるリスク増えるでしょ。
てことで私はこれからBLがガバガバの蔵人くんをBLしま~す」
そう言いながら泉は笑顔でスマホに入力を始める。
「蔵人くん、これからはゲーム内では私に話しかけないでね。あっ、話しかけようとしても話しかけられなくなるからいいんだったウフフ」
泉はイジワルそうな笑顔をして、楽しそうに蔵人をからかう。
「泉、ひどくないか……」
「冗談よ、冗談。でも本当にこのゲームを長く楽しみたいんだったら、ちゃんとBLを使ったりして、守るべきマナーはきっちり守り続けないとダメなんだからね!」
泉は、やや強い口調で蔵人に注意を促す。
「分かったよ。俺が初心者すぎたんだな。これで《HYPER CUBE》界に君臨せし絶対序列第1位て言われてるんだから泣けてくるよ。
ところで、泉。さっきギルド『最前線』のメンバーたちは、純粋で貴い者の集まりって言ってたよな。いつから、そんな風に考えを改めはじめたんだ?」
蔵人はそう言って、話を前へと戻す。
「いつからなんだろ?自分では意識してないよ。東京予選でのみんなの戦いっぷりが純粋で心を打たれたり、時雨と友だちになったりしたあたりかなぁ。
でも、やっぱりお正月イベントの事件があったあたりだねっ!
蔵人くんは知らないと思うけど、事件があったんだ。ちょうど蔵人くんが七里ちゃんとジンさんをDarker Than Crimson Redから奪還した直後にね。
そう。忘れもしない。激しく叩きつけるような雨の降る年末の日のことだった。ギルド最前線VSバジリスクのあの伝説の戦いは」
泉は窓の外の遠くの景色を見ながら、語り始めた。
ギルド最前線VSバジリスクの戦いへのことを。
次の更新は明日です。
次話より舞台は秋葉原学園から《HYPER CUBE》ゲーム内へと大きく移り、いよいよギルド『最前線』のメンバーたちの登場です!
タイトルは「ギルド最前線VSバジリスクへ(1)」。




