第3話 二神時雨
かくして人色蔵人は二神時雨の大邸宅を訪れた。
屋敷の前。夏の暑さを和らげる美しい噴水を中央に配置したロータリーで車が止まる。
「広いな」
蔵人は重厚な作りの玄関扉を前に感想を述べる。
「こんなところに住んでるお嬢さんが俺になんの用がある?」
「それはご本人からお聞きになってくださいませ」と黒野。
「人色蔵人様のお着きです」
と大きめの声で黒野が言う。
一拍。
ガガガ――と、扉が開く。
赤い絨毯の敷かれた広大なエントランスホールが広がっていた。
メイド姿の女数人がホールの両端に控えている。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
その全員が恭しく頭を下げている。
「ご苦労。さあ人色様、こちらへ」
黒野が蔵人を先導して歩き始めた。
エントランス正面にある大理石の大階段をのぼっていく。二階にあがると長い回廊がつづいた。
長い回廊の中央付近に差し掛かかると、そこには一際大きな扉があった。
黒野が足を止め、 ノックを二回する。
「失礼します。時雨お嬢様、人色蔵人様をお連れしました」
「ご苦労! お前は下がってよいぞ」
「はっ!」
黒野は扉の向こうに一礼して、「では私はこれで」と蔵人に会釈してその場を離れていった。
「何をしている。早く入ってこい」
部屋の中からまた少女の声がする。
何はともあれと、蔵人は扉を開けて中に入ることにした。
50畳ほどの広い部屋。床やソファーには沢山のぬいぐるみが雑然と置かれ、大きな棚いっぱいに漫画やゲームソフトがびっしりと並べられていた。
その部屋の中央で、両腰に手をやって堂々と佇んでいたのは身長は蔵人より低く160cm程度、年齢は同じくらいの白いワンピースを着た100人いれば100人が認めざるをえないレベルの美少女。ツインテールにした炎髪に小さな顔。緋色の瞳は大きく、意思の強さを感じさせる強い眼差しを放つ。右耳にはルビーのピアス。
「よく来たな、私が時雨だ」
灼眼の少女は蔵人を睨み付けて、そう言った。
「はじめまして。粟山千秋と申します。よろしくお願いいたします。」
美少女の横にいた眼鏡をかけた愛嬌のある時雨と同年齢くらいのピンクの髪の女の子が、対照的な丁寧な挨拶をする。