第14話 皇帝の復活
観客たちは気づいた。
今、スクランブル交差点の中央で誰も動いていないという事実に。
ギルド『最前線』のメンバーも、そしてホワイトナイトも。
だが、ただ1人の少年だけは、ゆっくりと歩く。交差点中央のホワイトナイトへ向かって。
「ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョ」
少年は雄叫びをあげる。そして続ける。
「ウヒョヒョヒョヒョヒョ。いいねえ、いいねえ、いいねえ。お前、面白いね、最高だよ。だが、雑魚に4連勝したくらいで自分が最強って勘違いしてるんじゃないだろうな?
最強はな、俺を倒してから名乗れよ。なぁ、三下。あ、ゴメン、お前、今指先ひとつ動かせないんだったぁ。ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョ」
世界最凶のプレイヤー、『皇帝ネロ』ことロックコ・ビンセントは特殊能力『絶対時間』を発動していた。
『絶対時間』。この特殊能力が発動された場合、発動者と同じバトルフィールドに立つ全プレイヤーは2ターンにわたって完全に移動の自由を奪われ、全ての動きを停止させられる。もっとも、発動者のみはその自由を奪われない。
そして、京介に撃たれた直後にロックコは自らにリジェネをかけていたことから、すでにロックコのHPはフル。
観客たちも次第に事態を把握する。
ホワイトナイトはピクリとも動けない。
新国立競技場が状況を理解した観客たちからの再度の大きな絶叫に包まれる。
ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
ウオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ
ウアアアアアアアアアアアアアアアアアァァ
ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
エンペラーズタイムウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
皇帝ネロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ
今や観客たちは誰もが気づいた。
皇帝ロックコが帰還したことを。
皇帝が復活したことを。
皇帝ロックコは、背中から大剣を抜刀する。
「ああああああ、これ使うの久しぶりだわぁ。嫁入り前のレディー相手には手加減して顔面素殴りにしてたんだけどよぉぉぉおおお、お前は2ターンで倒さないといけないからなぁぁぁああああ。どっから斬り刻んでほしいかお前に決めさせてやるよ、三下っ」
ホワイトナイトは沈黙する。
「はぁぁぁああああ。ビビッて声も出せねえのか三下っ」
ロックコは大剣を上段へ構え、全く身動きできないホワイトアウトへ斬りかかる。
ホワイトアウトの右腕が肩口から、ふっ飛ぶ。
カランカランカラン
ホワイトナイトの右手に握られていた長剣が地面へと転がる。
ホワイトアウトのHPは460から250へと激減する。
「ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ。いいねえ、いいねえ、いいねえ。俺にされるがままにされる雑魚っぷり、面白ええよ。なぁ、三下。これが最強の実力ってやつだよ。雑魚に4連勝したくらいで調子に乗んなって言っんだよぉぉぉおおおおおおお」
ロックコが雄叫びをを上げる。
◇
「やっぱり『絶対時間』はホワイトナイトにも有効だったんですね」と粟山さん。
「え?」と泉。
粟山さんは続ける。
「今回も、私は時雨と蔵人さんの訓練をサポートしてきました。そして昨日の作戦会議にも立ち会ったんです。ここまでの展開は、完全に蔵人さんの読み筋どおりです。
昨日の作戦会議での蔵人さんの時雨への指示は、きわめてシンプルで痛快なものでした。指示はたった2つでした。
1つめの指示は、ゲームスタートから中央での派手な戦いになるだろうからテキトーにつきあっておくということでした。蔵人さんは、『最前線』のメンバーの心理を分析し、バトルフィールドの中央で、ノーガードの撃ち合いが行われることを予測していたんです。それは『心理の重要性。それはどれだけ高く見積もっても過大評価となることは決してない』という第16代チェス世界チャンピオンのガリル・ガスパロフ氏の言葉に裏付けられた戦略だとのことです」
「ゲーム開始前から、そこまで計算を……」
泉は驚く。
粟山さんは続ける。
「そして、2つめの指示。それはスタート開始から10分経過した時点前後にホワイトナイトが出現するから、その時、パターンSという行動へ移るということです」
「パターンS?」と泉。
その時。
◇
「ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ」
ロックコは再び雄叫びを上げる。
「さっきの右腕は、お前が殺めた雑魚4匹の分だ。そしてな……」
そう言いながら、大剣を中段に構えたロックコは、ホワイトナイトへゆっくりと近づく。
「これは俺の分っ」
そう叫びながらロックコは長剣の突きをホワイトナイトの胸部へ食らわす。
ホワイトナイトのHPバーが赤色へと変わり、一気に縮む。
HP表示カウンターも一気に下がる。
250……200……100……50……10……3……2……1
0が表示されたかと思われたその瞬間、2ターンにわたった『絶対時間』は終了した。
フィールド上の全プレイヤーは、再び体を動かす自由を獲得した。
と同時に。
無数のナイフが超高速度でロックコを襲う。
それは特殊能力『Unlimited Knife Phenomenon』の発動によるものだった。
特殊能力『Unlimited Knife Phenomenon』。術者が操作する無限の数のナイフが、超高速度でターゲットへ襲いかかる。ターゲットはこれを躱すことができない。
「キヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
粟山さんの悲鳴が観客席へ響きわたる。




