第11話 奇跡の林檎(ミラクルアップル)
「次は、お前だ、二神時雨」
ロックコは、ゆっくり時雨へ歩み寄る。だが、時雨はロックコが発動した特殊能力『絶対時間』のために完全に動きを停止させられており、指先1つ動かすことができない。
「おや?」
ロックコはニヤリと笑う。
今日の時雨のコスチュームはゴシックロリータの赤と黒の衣装。赤いスカートに、黒のニーソをあわす。両手には深紅の皮の長手袋、右手には先端に大きなルビーを備えた漆黒の杖。ツインテールにした炎髪と、大きな緋色の瞳に、この衣装は映える。
そして赤いスカートの丈は膝上20cm。ゆえに黒のニーソの上部にある白い肌が強調される。
ロックコは思春期真っ盛りの14才の少年。考えることは1つしかなかった。
「いいこと考えたもんね~、ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョョヒョヒョヒョヒョヒョ」
ロックコはさらに大きな雄叫びをあげる。
「黒かな、それとも赤カカカカカ、カキキキキキキキキキクク……クククケケケケケケケココ……コココココ」
奇声を上げながらロックコは時雨のスカートへと手をかける。
「らめええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
時雨の悲鳴が新国立競技場に響き渡る。
ズキューーーーーーーン
重い銃声が雪に覆われた渋谷の街に木霊する。
銃弾がロックコのこめかみを撃ち抜く。
ロックコは、ゆっくりと雪のつもるスクランブル交差点の真ん中へ倒れる。
こめかみからの鮮血が、白い雪を一気に赤へと染める。
「やりすぎだ、バカ」
スクランブル交差点に隣接する109のビルの屋上で、まだ硝煙を上げるライフルを手に、男はつぶやく。
「ギリギリ間にあったな。」
と男はさらに続ける。
その男の名は矢沢京介。
世界最高の遠隔狙撃手。矢沢月乃の実兄。そしてギルド『最前線』8人のうちの1人。
京介の特殊能力は『奇跡の林檎』。
『奇跡の林檎』。それはライフルによって2500メートル離れたビルの上からでも、少女の頭上にあるリンゴだけを確実に打ち抜くという特殊能力。
京介の発動した『奇跡の林檎』が『皇帝ネロ』ロックコのこめかみを捕らえ、ロックコが地面に伏したのを京介は確認する。
《HYPER CUBE》は世界中のゲーム愛好家より戦略ゲームとも言われており、知略を働かせることができる者は圧倒的に優位に立てる。そして、知略を働かせることを最も得意とする京介は、戦略を練ることで、レベルを上げていき、最前線に立つまでになった。
戦略的見地より、京介は『最前線』のメンバーの心理を考察し、スクランブル交差点の中央でのノーガードの撃ち合いが行われることをスタート前から予測した。そして、京介は、その中で最も警戒すべき相手は皇帝であると考えた。『絶対時間』により2ターンもの間なにも出来ないことは、自分の死と同義ですらあるから。京介は当初こそスクランブル交差点の中での戦いに参加したが、やがて抜け出してスクランブル交差点に隣接する109のビルの屋上へ上り、狙撃ポイントを探した。そして、皇帝へ照準を定めた瞬間に『絶対時間』が発動された。指先1つ動かせない京介は、ライフルの引き金を引くことができず、月乃が攻撃を受けるのを傍観するしかなかった。だが、時雨が辱めを受けようとした瞬間、2ターンにわたる『絶対時間』が終了し、京介は『奇跡の林檎』の発動に成功したのだった。
「間にあってよかった。」
京介は再び安堵のつぶやきを漏らす。名門浪速大学の大学院に在籍していた京介が、大企業の平凡なサラリーマンとなって不本意だが安定した生活を送るか、本当にやりたい《HYPER CUBE》のプロになるかとの岐路に立たされたとき、京介がプロになるのを後押ししてくれたのはロックコだった。結果としてニートとなった京介だが、そんなロックコに京介は感謝していた。
だが、勝負の世界は非情なもの。京介の最大の目標。世界大会で優勝し、恋人の美沙の両親のところへ結婚の挨拶に行くこと。そのための最大の障壁の1つとなったのも、またロックコだった。
「悪く思うな。ロックコ」
京介はつぶやく。
ロックコのHPが半減したのを確認し、京介は安心した。最大の障壁となる強プレイヤーをひとまず足止めできたという事実に。なお、ニートのロックコが公衆の面前でハレンチな行為をすることで、同じくニートの京介が風評被害を受け、月曜にコンビニにジャンプを買いに行きにくくなるのを回避できたということにも京介は安心していたのだが、それはここだけの内緒である。閑話休題。
「よし! 女の敵がやっつけられて安心だよ」
泉はガッツポーズをして、隣の席を見る。
粟山さんは、スクランブル交差点での戦いを観ないで、真剣な表情で、ひたすらタブレット上の文字列を追い続けている。《HYPER CUBE》運営としてアプデやメンテを担当する粟山さんが、システムログへアクセスしているのだけを泉は理解できた。だが、なぜ今そんなことをするのか理解できなかった。
「え? ……粟山さん? どうしたの?」
驚いて泉は粟山さんに尋ねる。
「間もなくです。予告状のとおりなら、あのスクランブル交差点の中央へ『侵入者』が現れるんです」
粟山さんは真剣な眼差しで泉を見る。
泉は驚き、言葉を失う。
「その『侵入者』って、も、もしかして……」
次の更新は明日です。
タイトルは「侵入者」。




