第6話 心理掌握(メンタルアウト)
「次の質問がラストです。俺が言うキーワードから連想するものを言うだけでいい簡単な質問です」と蔵人。泉の発言を無視する。
「蔵人くん、泉くんが言うように、こんな不毛なやり取りは止めにしないか。それに私は君に一刻でも早く言わなければならない1つの事実があることを思い出した。それを先に私は言いたい」と困惑顔で白河院先輩が言う。
白河院先輩は、無意識のうちに右足を上にして組んでいた足を、左足を上へと組み替える。ミニスカートから白くて長い脚が露わになる。
だが、蔵人は、もう白河院先輩の脚を意識していない。白河院先輩の瞳のみを見つめ、冷たく言い放つ。
「ダメです。最初に裁判官役は俺だと言ったはずです。ならば、訴訟指揮権も俺に専属します。先輩の意見は却下です」
泉は2人の仲裁に入らなければいけないと感じた。
「蔵人くん、もういいじゃない。そろそろ先輩相手に失礼になっちゃうよ。じゃあ、折衷案でどう?蔵人くんはキーワードを言う。白河院先輩は言いたいことを言って下さい」と泉。
「……お前が言うなら仕方ないな」
蔵人は本意ではないが、泉の意見を飲む。それはコンピ研部長代行というこの部屋の管理権者の意見に配慮しないわけにはいかないという学校内での正当な権限分配を考慮した大人な理由からであったのだが。
「じゃあ、私が『せ~の』って言ったら、2人とも言いたいこと言うってことね。いくよ」と泉。
「せ~の」
その瞬間、泉は見た。今まで困惑した顔だった白河院先輩の顔が冷静な表情へ戻り、やがて口元を歪めながらニヤリと笑ったのを。泉の背中に強烈な悪寒が走る。
「Pure Sublimity White」
蔵人は言い放つ。
全く同時に、白河院先輩は言い放つ。
「《HYPER CUBE》の真の役割は地球外生命体ビグース殲滅スキル保持者を選別し訓練する装置。ゆえに人色蔵人、お前はビグースに狙われている。この『ホワイトナイト』にな!!!」
白河院先輩は手を拳銃のようにして構え、その銃口を蔵人へと向ける。
泉の悲鳴が学校中に響き渡る。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「ばーん」
白河院先輩はあまりに軽い銃声を笑いをこらえながら言う。
だが、何も起こらない。
蔵人は全く元気なまま。
「え?」
「え?」
蔵人と泉はぽか~んと口を開けながら、お互いの顔を見合わせる。
「……先輩、そのギャグ寒くないですか?」
蔵人は面倒くさそうに白河院先輩を見る。
「テヘッ☆」
白河院先輩は舌を出しながら自分で自分の頭を軽く叩き、誤魔化す。
「すまない。ちょっと後輩の君が一方的に話し続けるのにイラっとして、脅かしてみたくなったんだ。しかし泉くん、君のリアクションすごすぎだぞ。前時代のバラエティー番組のひな壇芸人たちも真っ青だろう」
白河院先輩は面白そうに軽口を叩く。
「も、もう、白河院先輩、わたし本当にビックリしたんですよ!冗談だったんですね! 本当に先輩がホワイトナイトって思ったじゃないですか!! 今、自分がホワイトナイトって嘘つくなんてタイムリーすぎますよ」
泉は目に軽く涙を浮かべて抗議する。
「いや、すまない。君が、そんなに驚くなんて思わなかったから。ネットでは、ホワイトナイトが神殺しの特殊能力『ホワイトアウト』で蔵人くんを狙ってるという話で持ちきりだ。神殺しの特殊能力で、《HYPER CUBE》界に君臨せし絶対的序列第1位にして『隻眼の使徒』との異名を持つ蔵人くんを狙っているとね。だから、さっきの話を教えなければと、ずっと思っていたんだ。だが、昨日の昼休みは周りに人が多かったから、そんな話をするのは、さすがの私も躊躇した。今、やっと言いたかったことが言えてよかったよ」
「あれ? でも、白河院先輩って何で《HYPER CUBE》の真の役割が地球外生命体ビグース殲滅スキル保持者を選別し訓練する装置って知ってるんですか?」と泉。
「ああ、そこが1番話したかったところなんだ。さっきも少し話したように私は先進国の諜報機関へのハッキングを趣味としている。そんな中で偶然だが、《HYPER CUBE》世界大会のスポンサー企業が、わら人形として介在させた出資者にすぎないという情報を発見したんだ。そこに興味を持った私は、さらにハッキングで調査を続け、数十億の費用の本来の出資者がT&W財団であり、財団の総帥が水鏡恭一郎という情報を次に発見した。《HYPER CUBE》みたいな世界中で大人気のゲームが完全無課金で、どうして広告以外で収益を上げようとしないのかは世の中で不思議がられてるよね。でも、さらにT&W財団が、多額の費用をビグースに対抗する兵器の開発に投じているって情報も入手できた。ここまで情報が揃ったら、ちょっと考えるだけで簡単に分かったよ。《HYPER CUBE》は、ただのゲーム機じゃないんだって。水鏡恭一郎があれだけ派手な制作発表会見をしたり、世界大会を自らスポンサーとなってまで開催し、続けている事実まで踏まえると、水鏡恭一郎の目的は、《HYPER CUBE》を広め、その有能なプレイヤーを集めている。そして、《HYPER CUBE》というものはビグースを殲滅するスキル保持者を選別し訓練する装置とね」
そう言って白河院先輩は得意げに泉を見る。
「さすが白河院先輩です!! 蔵人くんと私も、先輩と同じようなハッキングのルートを辿って、ちょっと前にその結論に達したんですよ!」
泉は、自分たちと同じ力量の人材が現れたことに嬉しさを隠せない。
だが、そんな泉とは対照的に蔵人は無表情のまま真剣な眼差しで白河院先輩を見つめ続ける。
そんな蔵人の様子に気づいた泉は驚く。
「え? 蔵人くん? どうしたの?」
そう泉が言おうと瞬間、先に口を開いたのは白河院先輩だった。
「蔵人くん、失礼。テストはまだ終わってなかったんだな。私は、まだ君の質問に答えていなかった。つい話しすぎてしまった。謝るよ。『Pure Sublimity White』から連想するものだったな。直訳すると『純粋にして崇高なる白』か。美しい言葉だは。そこから私が連想するのは……そうだな、南極大陸などでの自然現象としてのホワイトアウトだろうか」
白河院先輩は、クールビューティーそのままに特に表情を変えず答える。
◇
蔵人も無表情を変えない。
「では、第4の質問です。あなたの特殊能力は、ヒールとリザレクションだけじゃない。あなたは『心理掌握』を使える」
無表情のまま蔵人は続けて言い放つ。
「ちょっと待ってくれ。質問は3つのはずじゃなかったのか?『心理掌握』なんて使えないよ。君の質問の意味が分からないんだが……」
白河院先輩は困惑を浮かべる。
蔵人は、おもむろに立ち上がる。
「ああ、4番目は質問じゃない。これは命令だからな。俺は、言わば間接的な方法であなたに命令したんだ。今、この俺に『心理掌握』を使ってみろとな」
蔵人は、そう言うとピシっと人指し指を白河院先輩へと向ける。
「白河院先輩。あなたの正体は『ホワイトナイト』。そして、あなたは『心理掌握』という特殊能力を使える。あなたは、とても優秀だ。『ホワイトドゥークー』というウィルスを使って国家機関から機密情報X、すなわち《HYPER CUBE》についての極秘情報を入手して隠蔽した手口は見事だよ。そして、『ホワイトナイト』としてのあなたの立ち振る舞いも、見事だった。俺は今まで『ホワイトナイト』 の正体に辿り着けなかったのだから。だが、あなたは京介さんとの戦いで、ただ1つのミスをした。しかし、そのミスは致命的だった。そのミスのおかげで、俺はあなたが『心理掌握』を使えることに気づいた。あなたは俺があなたが『心理掌握』を使えることに気づいたという事実を知らなかったようですがね。そして、あなたがその事実を知ったのは、今の俺の第4の質問をした時。だから、あなたは身の危険を感じ、今、俺に『心理掌握』を発動した。ゆえに第4の質問は、質問というより命令だ。最初の3つの質問なんて前座にすぎないよ。この命令のためのな。だがな、白河院先輩、いやホワイトナイト。あなたは、それにより俺の罠にかかったっていうことなんだ!あなたは、あなた自身で自分が『ホワイトナイト』だと証明したことになったんだからな」
蔵人は力強く言い放つ。
「そ、そんな……」
泉は言葉を失う。
そして。




