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第5話 白河院京子

「分かったわ。蔵人くん。でも、この部屋でいいの?だとすると、ホワイトナイトはこの学校の私たちの近くにいるってことになるはずじゃ……」


 泉は言い終わらないうちにコンピ研の部室がノックされ、扉が開かれる。

 そこに立っていたのは、長身に細身の体型。モデルのような顔立ち。透き通るように白い肌。そしてロングの銀髪。


 謎の転校生、2年の白河院京子、その人だった。


「し、白河院先輩?」


 泉は言葉を失う。

 ハッキリした目鼻立ちをし、顔立ちもスタイルもモデルのような白河院先輩は、女性の泉にとっても、憧れの存在だった。クールビューティーという言葉を具現化したような、そんな白河院先輩の突然の登場に、うっとりした泉は言葉を失っていた。




「失礼するよ」


 白河院先輩はロングの長い銀髪を棚引かせながら、コンピ研の部室へと入る。

 蔵人と泉は、部室のほぼ真ん中にあった長椅子に並んで座っていた。その正面には、普通の教室で使われている机と椅子が置かれている。

 白河院先輩は2人の正面にあるその椅子ではなく、直接、机の方に座る。そして、右足を上へ交差させて組んで座る。この小説の舞台である20X4年という近未来の東京でのJKのスカート丈のトレンドは極端に短いものとなっていた。それは2014年から2015年の京都、滋賀でのJKのスカート丈に匹敵すると言われるほどだった。しかも、白河院先輩は身長が170cm近くあり、細身でモデルのような体型。脚も非常に長くて白く美しい。そんな白河院先輩が、蔵人の目の前で短いスカートで脚を組んで机の上に座るのだから、その白くて長い脚が一際(ひときわ)強調される。常にクールな蔵人ではあるが、思春期の健康な男子でもあることから、思わず意識して脚から目を逸らせる。


 泉は女性であるから、そこには意識しない。


「は、初めまして。白河院先輩。私は水内泉、このコンピ研で部長代行をやってます」


 泉は礼儀正しく挨拶する。



「ごきげんよう。私は白河院京子、4日前に転校してきた。2年生だ。君のことは昨日の昼のカフェテリアで見かけた気がするが、まぁ初めましてと言っておこうか」


 泉は白河院先輩が自分のことを覚えていてくれていたことが嬉しく、頬を少し赤らめる。


「コンピ研に入部したいんだ」白河院先輩は素直に本題に入る。


「白河院先輩なら、もちろん大歓迎で」


 泉が全てを言い終わらないうちに蔵人が大きな声を被せて、泉の言葉を(さえぎ)る。


「ダメです!入部には俺の出す入部テストに合格するという条件がありますから」


「は?」


 泉は蔵人に叫ぶ。


(あんた、部員ですら無いくせに入部テストするとか何言ってんの? そんなテストなんて今までやったことないんですけど)

 泉はそう言おうとするが、それを言葉にしなかった。

 蔵人が鋭い眼差(まなざ)しで泉を牽制したからだった。蔵人のそんな鋭い眼差(まなざ)しを見るのは初めてだった。だから、蔵人には、何か分からないが、確固とした考えがあるのだろう、それにとりあえずは従っておこうと泉は思った。




「白河院先輩。率直に言うと、俺は、あなたの正体を『あの方』だと疑っている。あなたが『あの方』であれば、あなたの入部は認められない。『あの方』が誰を指すかは今は言えません。あなたが『あの方』であると私が疑う根拠の1つは、あなたのその銀髪です。でも、安心して下さい。その疑いは5%という(わず)かなものです。そして私はこれから、あなたに3つの質問をします。この質問を全てクリアーされれば、あなたの疑いは0%とはいきませんが、0.1%つまり限りなく0に近い数値となります。ですので、その場合はあなたの入部は認められます。これは、テストと言うよりは、審判に近いものです。もっとも、この審判は現在の欧米で行われているような3面構造の公平なものではありません。糾弾する、いわば検察官役は俺。弁護側は白河院先輩、あなたです。そして、ジャッジする裁判官役も俺です。そんな2面構造による公平性が担保されていないものを受け入れるのであれば、この審判は開始されます。」蔵人は一気に説明する。



「蔵人くんもコンピ研の部員だったのか……。クラスの友人から聞いた話とは違うが……」


 いつもはクールな表情の白河院先輩だが、困った表情をして言った。


「……でも、PC(パソコン)は私の唯一の趣味だからコンピ研に入れないのは困る……『あの方』とか君の話はさっぱり意味が分からないが。仕方ない、その審判とやらを私も受けてみよう」


 白河院先輩は戸惑いながらも、決断を口にする。




                ◇




 コンピ研の部室は絶対的な静寂に包まれる。


「では、これより審判を始めます」


 蔵人はゆっくりと審判開始を告げる。

 白河院先輩は黙って真剣な顔で(うなず)く。



「まず、第1の質問です。白河院先輩、あなたは《HYPER CUBE》のプレイヤーですか?」

と蔵人。



「YESだ」


 白河院先輩はそう言って(うなず)く。


「と言っても、最前線とは遠い。前線に辿(たど)り着いたばかりのプレイヤーにすぎないよ。《HYPER CUBE》界に君臨せし絶対的序列第1位だとか伝説の英雄『隻眼の使徒』と言われて世界的に有名な人色蔵人くん、君の足下にも及ばないよ。前線の小さなギルドに所属しているが、ギルドでは後衛としてヒーラーを担当してる。

 《HYPER CUBE》でヒールはレア特殊()能力(キル)だが、さらに私はリザレクションという超レア特殊()能力(キル)も持っている。これだけは自慢しておこう。・・・すまないが、この質問が何かコンピ研の入部と関係あるのか?私には何の関係もないとしか思えないんだが……」


 リザレクションのことを話すときの白河院先輩は鼻高々だったが、やがて質問の真意が不明なことに気づき、白河院先輩はまた戸惑った表情に戻る。



「安心して下さい。今の質問は前提にすぎません。そして、先輩は今の質問をクリアーされました。そして、先輩が『あの方』であるとの疑いは5%から3%まで低下しました。『あの方』なら、NOと言ってしらばっくれるはずですから」


 蔵人はやや大げさに両手を広げて答える。


「白河院先輩、私もヒーラーなんですよ。でも、リザレクションなんて超レア特殊()能力(キル)初めて聞きました! すごいです!その調子で、あと2問頑張って下さい!」


 泉も蔵人がコンピ研の入部テストに何故(なぜ)ゲームの質問なんかするのかと不思議に思いつつ、それに律儀につきあう白河院先輩を(ねぎら)って笑顔で応援の言葉をかける。


「ありがとう」


 白河院先輩も笑顔で泉に(うなず)く。




「では、第2の質問です。白河院先輩、あなたは《HYPER CUBE》を運営してるイリュージョン・アーツ株式会社にハッキングかけてユーザーデータを入手できますか? そのデータはインターネットから隔離されたスタンドアローンのPCにあるとの前提条件がありますが」



「!」


 泉は、いま蔵人の真意が分かった。それは先ほど蔵人と話したばかりのことだったから。泉は蔵人が白河院先輩はホワイトナイトであると疑っているのだと分かった。ホワイトナイトであれば、ユーザーデータを入手されては困るから、ここでNOと言うはず。そして仮にYESと言えば、白河院先輩がホワイトナイトだという嫌疑は晴れる。でも、物理的にYESと答えることは不可能……白河院先輩は入部テストをクリアーできない……心の中で泉はそう思い、大きく落胆した。



「やっとコンピ研の入部テストらしい質問だな。それもYESだ」



 泉は目を見張って驚く。



 白河院先輩はクールな表情で、ゆっくりと説明を始める。


「イリュージョン・アーツ株式会社なんてゲーム会社でなくとも、もっとセキュリティーな厳重な国家機関相手からでも私はデータを持って来れるよ。ここだけの秘密なんだが、私は某先進国の諜報機関のスタンドアローンのPCに侵入してAランクの機密情報を入手したことがあるよ。種明かしすれば、こうだ」


 白河院先輩は、よほどPCが好きなのであろう、話しながらテンションが上がり、以前より早口になってきている。そして話を続ける。


「まぁ私自身の保身のため、その機密情報はXと呼んでおこう。私はそのXという情報を入手したかった。だが、某国の諜報機関のオンライン接続されたPCに片っ端からハッキングをかけても、Xを発見することはできなかった。そこで、私はXが諜報機関のスタンドアローンのPCにあることを確信した。そして、私は『ホワイトドゥークー』というウィルスを作成した。『ホワイトドゥークー』は、侵入したPCを全探索してXについての情報を収集し、その情報を私が利用可能で且つ私が利用していると絶対に探知されない、あるPCへ送信するという機能を持つウィルスなんだ。だが、『ホワイトドゥークー』をスタンドアローンのPCへ送り込まないと情報収集のための全探索をできない。だから、私はプロトタイプの『ホワイトドゥークー』を変異させ、『ホワイトドゥークー』をUSBメモリなどのリムーバブルメディア経由で、あらゆるPCへ拡散されるように組み替え操作を行ったんだ。いくらスタンドアローンのPCであっても、新たな情報移転の際にUSBメモリなどのリムーバブルメディアが接続される瞬間が必ずある。そこに『ホワイトドゥークー』 を侵入させる隙が生まれるってわけだ。そして、その諜報機関のネット接続されたPCに対し私は猛攻撃を開始して大量の『ホワイトドゥークー』を送り込んだ。『ホワイトドゥークー』は隠密裏に行動するから、その諜報機関は私に攻撃されてることすら気づかなかった」


 白河院先輩は一気に話す。


「すごい! すごいですよ白河院先輩!」


 泉は感嘆の声をあげる。


「ありがとう」


 白河院先輩は、賞賛をする泉に笑顔で礼を言うと話を続ける。


「諜報機関のネット接続されたPCに侵入された『ホワイトドゥークー』は、やがて諜報員のUSBメモリを経由してスタンドアローンのPCへ侵入し、スタンドアローンのPCをウィルス感染させることになったよ。あとは、そのスタンドアローンのPCに再度USBが指しこまれ、そのUSBがネット接続されたPCへ指しこまれるのを待つだけさ。かくして私はスタンドアローンのPCから機密情報Xを入手できたってわけさ。

 余談だが、私のPCや外付けハードディスクには『ホワイトドゥークー』の痕跡なんて何もないよ。自分の作ったウィルスをDropBoxに保管してFBIに発見されるなんていう2013年あたりの片山ゆうちゃんのやり方なんて論外だ。そんな初歩的なミスを私はしない。それどころか私は完全なる証拠隠滅に成功したよ。FBIをはじめ、世界中のどんな優秀な捜査機関も『ホワイトドゥークー』から私へ辿(たど)り着くことはできないと断言できる」



「白河院先輩さすがです!」


 泉は両手を挙げて賛辞を送る。

 泉は白河院先輩の話に心から感心するとともに、これで完全に白河院先輩の嫌疑が晴れたことを確信し、安心した。



 無表情のまま白河院先輩の話を聞いていた蔵人は、表情を変えないまま口を開く。


「おめでとうございます、白河院先輩。先輩の嫌疑は3%から0.5%まで下がりました。欧米の証拠法則では被告人の不利益供述は信用性が高いと言われています。それに習い、私の心証でも、嫌疑は3%から2.5%下がり0.5%となりました」と蔵人。



「でも、まだ0.5%はあるのか……」と困惑した表情の白河院先輩。


「ねえ、蔵人くん、もういいんじゃない。希有な人材だよ! 白河院先輩に入部してもらおうよ」 


 泉は無実の白河院先輩を責めることを気の毒に思って、蔵人にテストの終了を懇願する。



「次の質問がラストです。俺が言うキーワードから連想するものを言うだけでいい簡単な質問です」と蔵人。泉の発言を無視する。



「蔵人くん、泉くんが言うように、こんな不毛なやり取りは()めにしないか。それに私は君に一刻でも早く言わなければならない1つの事実があることを思い出した。それを先に私は言いたい」と困惑顔で白河院先輩が言う。


 白河院先輩は、無意識のうちに右足を上にして組んでいた足を、左足を上へと組み替える。ミニスカートから白くて長い脚が(あら)わになる。



 だが、蔵人は、もう白河院先輩の脚を意識していない。白河院先輩の瞳のみを見つめ、冷たく言い放つ。


「ダメです。最初に裁判官役は俺だと言ったはずです。ならば、訴訟指揮権も俺に専属します。先輩の意見は却下です」



 泉は2人の仲裁に入らなければいけないと感じた。


「蔵人くん、もういいじゃない。そろそろ先輩相手に失礼になっちゃうよ。じゃあ、折衷案でどう? 蔵人くんはキーワードを言う。白河院先輩は言いたいことを言って下さい」と泉。



「……。お前が言うなら仕方ないな」


 蔵人は本意ではないが、泉の意見を飲む。それはコンピ研部長代行というこの部屋の管理権者の意見に配慮しないわけにはいかないという学校内での正当な権限分配を考慮した大人な理由からであったのだが。



「じゃあ、私が『せ~の』って言ったら、2人とも言いたいこと言うってことね。いくよ」と泉。



「せ~の」


 その瞬間、泉は見た。今まで困惑した顔だった白河院先輩の顔が冷静な表情へと戻り、やがて口元を(ゆが)めながらニヤリと笑ったのを。泉の背中に強烈な悪寒が走る。




「Pure Sublimity White」

 蔵人は言い放つ。




 全く同時に、白河院先輩は言い放つ。


「《HYPER CUBE》の真の役割は地球外生命体ビグース殲滅(せんめつ)スキル保持者を選別し訓練する装置。ゆえに人色蔵人、お前はビグースに狙われている。この私、『ホワイトナイト』にな!!!」




 白河院先輩は手を拳銃のようにして構え、その銃口を蔵人へと向ける。


 泉の悲鳴が学校中に響き渡る。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



次の更新は1月3日です。

タイトルは「心理(メンタル)掌握(アウト)」です。

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