第18話 泉と粟山さん
東京ドームの観客席がざわめき始める。
「戦っているのは『隻眼の使徒』なんだ……よな……」
「『隻眼の使徒』がやられっぱなしって……どういうこと?」
自分たちの前に再来した伝説の英雄『隻眼の使徒』。
《HYPER CUBE》世界に君臨せし絶対的序列第1位。
そんな『隻眼の使徒』が矢沢月乃の攻撃を前になんの抵抗もできないまま打ちのめされている。観客たちは目の前の光景の意味を全く理解できず、混乱をはじめる。動揺した観客たちのざわめきが徐々に東京ドームに広がっていく。そんな中で。
「さ、最悪です。こ、これは……想定されていたものです。私たちが想定していた中での最悪のシナリオへ突入してしまいました。そして蔵人くんがゲームオーバーするまで、この流れを変えることは絶対にできません……この最悪のシナリオが選択されてしまったからには……」
粟山さんは、つぶやく。泉は粟山さんを見て驚く。粟山さんの顔はすっかり青ざめ、その唇は小刻みに震えていた。
「そ、それってどういうこと? ……」
泉は粟山さんに問いかける。
「どうして蔵人くんは全く月乃さんの攻撃を躱せないの? それに月乃さんが瞬間移動で移動するんだから、蔵人くんも瞬間移動で逃げれるよね? それに蔵人くんは『隻眼の使徒』なんだから『集極の波より来たりし闇』で1撃で月乃さんを倒せるんじゃないの?」
泉は一方的にやられている蔵人を見ながら次々に浮かぶ疑問について粟山さんに問いかける。
粟山さんは泉の瞳に大きな不安の色を読み取る。そして、粟山さんは、その不安の原因が自分の言動にあったことを瞬時に察する。ここでもし粟山さんが普通の10代の少女であれば、自分の不安な気持ちをそのまま直情的に泉に伝え、2人で一緒に泣き崩れていたかもしれない。
だが、粟山さんは違った。粟山さんは時雨と幼なじみであった。幼い頃から我が儘な時雨が問題を起こす度に、時雨の後始末をし続けてきたのは常に親友である粟山さん。
そんな中でフォロー上手になっていった粟山さんの中学時代のあだ名は「フォロ山さん」。そんなフォローの達人であるフォロ山さんこと粟山さんの臭覚が、今自分のフォロースキルを発動する場面であることを告げる。
なお、念のために言うと、このフォロースキルは、《HYPER CUBE》世界での時雨の『竜の雷槌』や月乃の『爆発する小剣』などの特殊能力とは全く関係がない。現実世界で普通のサラリーマンのおじさんたちや、町内会のおばちゃんたちが仲間内で使ってるあのフォロースキルである。そもそも粟山さんは《HYPER CUBE》が、あまり得意ではなかった。ここだけの秘密だが粟山さんには一生懸命自分が考えた新しい攻略MAPのアプデやイベントが非公式掲示板でエアプ運営と叩かれているのを見て、トラウマになった経験が何度かある。閑話休題。
フォロー名人の粟山さんは、それまでのフォロー経験から、人間には2種類のタイプがあり、必要なフォローも、それに応じて違うことを知っていた。
感情的な人間のタイプには理論よりも感性に訴え、感情を静める言葉をかけること。
理性的な人間のタイプには感性よりも理論を積み重ねることで納得を促すこと。
それがフォローの極意であると粟山さんは知っていた。そして、粟山さんは今日の今までの泉との会話の中で泉が論理的に物事を考えることが出来る頭の良い人間であることに気づいていた。つまり、泉は後者のタイプであった。こういう人間を相手にするときは、自分の感情を交えずに、生の事実と、その事実から自分の評価を経た事実とを峻別しながら、生の事実から評価への過程を丁寧に説明することで論証を積み重ね、これにより納得を促すのが最善のフォローになる。
それが粟山さんのフォロー術。粟山さんはフォロースキルを発動する。
「泉さんのその3つの疑問は、一見すると尤もなものです。ですが、その疑問は3つとも残念ながら誤りであると私は評価します。すなわち、これは事態が我々の想定した最悪のシナリオへと突入したことを意味するのです。これより証明を始めます」
粟山さんは不安な表情を意図的に消して、静かに語り始める。
◇
「まず、第1の疑問、なぜ蔵人くんが全く月乃さんの攻撃を躱せないか? これは蔵人くんが《HYPER CUBE》の全くの素人だからです。『集極の波より来たりし闇』を持つ蔵人くんが《HYPER CUBE》で屈指のプレイヤーであるのは事実です。他方で、蔵人くんが《HYPER CUBE》のド素人だというのも、また両立する事実なのです」
粟山さんは続ける。
「泉さん、いいですか? 私も驚いたことなんですが、2ヶ月前に時雨と契約を交わすまでは蔵人くんはバビロン事件のときしか《HYPER CUBE》にログインしたことなかったんです。《HYPER CUBE》はプレイヤーの知能、DNA、外骨格や脳神経などの現実世界での情報を解析することで初期レベルが設定されます。そんな現実世界での情報が極めて高質なものだったことから蔵人くんには『集極の波より来たりし闇』という最高の特殊能力が付与されている、それだけなんです」
「それに対して、《HYPER CUBE》内での防御の熟練度というものは、ゲーム内での実戦経験に応じてしか上げられないという仕様です。月乃さんのような世界最巧と言われる近接戦闘家の連続攻撃に対しては、ゲーム内で実戦経験を積みまくって熟練度をカンストしている古参グループでなければ対処できないでしょう。他方、蔵人くんはゲーム内での実戦経験が皆無同然であるから、防御の熟練度が極めて低いという事実があります。そんな蔵人くんは《HYPER CUBE》のド素人であると評価せざるをえないでしょう。これにより、そんな蔵人くんは月乃さんの連続攻撃を躱すことができないという結論が導かれます。
よって、なぜ蔵人くんが全く月乃さんの攻撃を躱せないかという泉さんの第1の疑問は誤りであるQ.E.D.」
証明を終了した粟山さんは、泉を見る。
泉の瞳から不安は消えていた。泉の瞳は真理を探究する者のそれに変わっていた。粟山さんの論理に綻びがなければ、それは蔵人の敗北を意味する。だが、粟山さんの論理に1つでも綻びがあれば、そこに蔵人が勝利する可能性が生まれる。泉にとって誰よりも大切な蔵人、そんな蔵人の敗北を受け入れるわけにはいかない。数%でも、いや1%でも勝つ可能性があれば、そこを起点に蔵人なら勝利できるだろう。今、泉は一生懸命にその1%を見つけ出そう、粟山さんのわずかなものでいい、わずかな論理の綻びを見つけよう、蔵人の勝利のために、そう思っていた。
他方、粟山さんも、その1%の可能性を見つけて欲しい、自分を論破して欲しい、そんな気持ちをこめて泉を見つめる。
「証明は……完了……してる。次をお願い」
泉は粟山さんの論理の綻びを見つけられない。
粟山さんは、自分の表情に失望が表れるのを全力でこらえる。
◇
失望を感じ取られないよう気をつけながら、粟山さんは続ける。
「次に、第2の疑問、なぜ蔵人くんが瞬間移動で逃げないのか? これは蔵人くんが瞬間移動で逃げたくとも逃げることが物理的に不可能だからです。蔵人さんは東端の丘から南端の丘へという長い距離の瞬間移動、そして『集極の波より来たりし闇』、さらに南の端の丘のあった場所から草原中央への再度の長い距離の瞬間移動をしています。大きな気(KI)を消費する特殊能力を既に3回も発動しています。そんな蔵人くんの気はゼロ、とっくに枯渇しています。そんな蔵人くんが瞬間移動で逃げることは不可能なんです。
よって、なぜ蔵人くんが瞬間移動で逃げないのかという泉さんの第2の疑問は誤りであるQ.E.D」
そう言うと粟山さんは、鋭い眼光で泉を見る。
粟山さんは、ここで1つの罠を張っていた。実は粟山さんの証明は完了していない。だがQ.E.D証明終了ということで、粟山さんは泉を試す。泉による論破を信じて。
『粟山さんの論証ガバガバじゃないの』そう答えてくれてたら自分はむしろ嬉しい、粟山さんはそう思い、そんな言葉を期待していた。
「これ……も証明完了……ね。3番目を……お願い」
辛そうな泉。またも粟山さんの論理の綻びを見つけられない。
粟山さんは失望のため息を懸命に押さえるながら、議論の継続を決意する。泉を信じて。
◇
「では、第3の疑問、なぜ蔵人くんが『集極の波より来たりし闇』で月乃さんを倒さないか? まず、先ほど言いましたように蔵人くんの気は尽きておりゼロなんですから、『集極の波より来たりし闇』という多大な気を消費する特殊能力を発動あうること不可能です。この点は、第2の疑問への解答と同様です。
もっとも、その前に第2の疑問への私の証明は厳密な意味では完了していなかったことを私は謝らなければなりません。気がゼロになった蔵人くんが瞬間移動で逃げることが不可能なのは、月乃さんとの戦いが始まった時点を前提にしています。その前提条件を論証に付加させていなかった点を私は謝ります」
粟山さんは自分が罠を張っていたことにつき、泉に謝罪する。
「その後、蔵人くんは気の蓄積し続けているでしょう。ですから十分な気を蓄積した蔵人君という前提条件があるならば、蔵人くんが瞬間移動で逃げることはできるのです」
粟山さんは1拍置く。
「戦況は刻々と変化している以上、それに連動させて私たちも気を蓄積した状態を前提にしなければ議論は実益を失います。ですから十分な気を蓄積した蔵人くんならば『集極の波より来たりし闇』により月乃さんを倒せるのかというのが、今私たちが検討すべき真の第3の疑問といえるでしょう。ですが、たとえ蔵人くんが十分な気を蓄積できたとしても『集極の波より来たりし闇』により月乃さんを倒すことは不可能なんです」
粟山さんは言い切る。
「100mほどの高さの丘のようなオブジェは被ヒット認定がかなりアバウトにプログラミングされてます。先ほども蔵人くんは直接には京介さんをヒットしたんでしょうが、オブジェは自らもヒットを受けたとの認定をして消滅しました。 それに対して、対人戦闘での被ヒット認定は非常に厳格にプログラミングされてます。『集極の波より来たりし闇』といえども月乃さんの身体に直接当てない限り被ヒット認定はされません。
ですから、月乃さんは今のように瞬間移動で移動し続けることで、これを躱し続けられるでしょう。短距離の瞬間移動での気の消費は僅かですから、月乃さんは移動する中で機をみて『爆発する小剣』をあと2回発動すれば蔵人くんのHPはゼロとなります。
よって、今私たちが検討すべき真の第3疑問、すなわち十分な気を蓄積した蔵人くんならば『集極の波より来たりし闇』により月乃さんを倒せるのか、その疑問も誤りであるQ.E.D」
証明を終了した粟山さんは、泉を見つめる。泉による論破を信じて。
「その証明完了してない。証明は不完全だと思う」
と泉。期待に粟山さんの目が輝く。
「でも、なんで証明が完了してないかは分からない。私の勘なんだけど……」
泉の声は次第にトーンダウンする。
粟山さんは一転して気落ちする。泉が勘などという非科学的なことを根拠にしたことにがっかりしたというのもある。だが、それ以上に粟山さんは、自分が泉のことを勘違いしていたのかもしれないと思った。勘を持ち出すということは、泉は理性的な人間のタイプでなく、感情的な人間のタイプであったかもしれない。ならば、論証を積み重ねてのやり取りにより、自分は泉を傷つけただけではないのか。粟山さんは深い後悔の念に襲われていた。
だが、そんな粟山さんの大きな気落ちは、東京ドームの観客全体を俯瞰した時、相対的には必ずしも大きいものとは言えなかった。
◇
2年前、《HYPER CUBE》運営がクリスマスイベント企画を行ったことがある。粟山さんが、まだ運営に参加していない頃のことである。そのイベント企画の1つとして、《HYPER CUBE》プレイヤー人気投票が行われた。運営は、1位の人気プレイヤーを当てた応募者全員に1位のプレイヤーの壁紙をクリスマスプレゼントとして応募者各自のギフトボックスに配布すると、大々的に告知した。 運営は、1位の人気プレイヤーに最強ギルド「最前線」のメンバーが選ばれると考え、このイベントを実施していた。この年の《HYPER CUBE》世界大会決勝の入賞者全員が、ギルド「最前線」のメンバーであったのだから、そう考えるのも当然だったのかもしれない。運営は、あらかじめ「最前線」メンバーたちの協力を得て、事前にメンバー1人ずつの撮影を行っていた。とくに、美少女プレイヤーである時雨と雫の二神姉妹や矢沢月乃は、1位の可能性が高いと、いろいろなコスチュームとポーズのものが複数用意されていた。
そして開票結果が発表される。
第1位は『隻眼の使徒』。得票率99.2%という圧勝だった。
運営は『隻眼の使徒』の壁紙など準備でしてないし、行方も誰であるかも分からない『隻眼の使徒』の撮影などできない。
クリスマス当日、1位を『隻眼の使徒』として応募した者たちのギフトボックスに入っていたのは、お詫びのメッセージと大量のゲーム内アイテムだった。
世に言う『クリスマスの消失事件』である。
この事件で消失したのは、『隻眼の使徒』の壁紙へのユーザーたちの期待であった。
この事件のことは、今でも非公式掲示板で無能な運営の象徴として、よくネタにされる。
だが、実際のところ《HYPER CUBE》の運営は無能でなく、非常に有能であった。バビロン事件を除けば、ゲーム開始以来、事故らしい事故はない。たまにエアプ運営と叩かれる痛いアプデが入るのは愛嬌として、メンテ延長や緊急メンテがされることは皆無であるし、ほとんどのアプデは初心者から最前線までが高い満足をするものばかりである。それでも、ネット上でよく無能の運営と叩かれるのは、それだけ2年前に、みんなが『隻眼の使徒』の壁紙が欲しかったからだった。
日本では余り普及していないが、欧米の繁華街には必ず《HYPER CUBE》カフェという紳士の社交場がある。このカフェでは、《HYPER CUBE》をプレイしたり、客どうしが《HYPER CUBE》についての会話を楽しんだりする。そして《HYPER CUBE》カフェに3人の紳士が集まれば必ず行われる会話と言われているものがある。それは、「もし『隻眼の使徒』が《HYPER CUBE》世界大会決勝に参加すれば何位になるか?」という話題である。
この話には続きがある。そんなとき、3人の紳士は必ず笑顔で3人揃って「Yes!Sito!」と言ってハイタッチをすると言われている。《HYPER CUBE》世界大会決勝に参加して何位などというのは全くの愚問、『隻眼の使徒』はダントツの1位に決まっている、紳士たちは皆そう確信している。そんな『隻眼の使徒』が世界大会決勝に出場するのを是非見てみたい。そんな熱い願望を紳士たちはハイタッチで示すのである。
《HYPER CUBE》には、固定的な討伐集団であるギルドや、一時的に特定のボスを討伐するための集団であるレギオンが実装されている他に、仲の良い者たちが雑談するための場であるグループチャットというものも実装されている。そんなグループチャットで毎日、挨拶代わりに行われている会話、それもまた《HYPER CUBE》世界大会に『隻眼の使徒』出ないかなというものだった。世界大会は予選とは違ってバトルロイヤルで行われる。
「『隻眼の使徒』なら1人でギルド「最前線」の8人全員を倒せるはずだよ」
「そうだよ」
「『集極の波より来たりし闇』があるから一瞬で8人が消えるでしょ」
そんな会話は、あまりにありふれた光景だった。
《HYPER CUBE》世界に君臨せし絶対的序列第1位。
それが《HYPER CUBE》のユーザーたちの『隻眼の使徒』への不動の格付け。
そして『隻眼の使徒』が出現したバビロン事件以来、常に存在し続けた『隻眼の使徒』の《HYPER CUBE》世界大会出場待望論。
そのような中で、突如《HYPER CUBE》東京予選決勝に再来した伝説の英雄『隻眼の使徒』。
ゆえに東京ドームは大熱狂の渦に包まれた。
しかし。
『隻眼の使徒』が矢沢月乃の攻撃を前になんの抵抗もできないまま打ちのめされるという光景。観客たちは目の前の光景の意味を全く理解できず、混乱した。動揺した観客たちのざわめきが徐々に東京ドームに広がっていき、今、東京ドームの観客席は新たな意味での完全なる混沌。
《HYPER CUBE》プレイヤーの男女比は、現実世界の男女比よりは、やや男性が多い程度なので、東京ドームの観客席にも沢山の女性客がいた。そんな女性客の大半は『隻眼の使徒』の苦戦を目の前にして泣いていた。女性客だけではない。嗚咽を漏らす男性客も多い。
チェスの世界では、1997年、無敵のGMであったガリル・カスパロフがIBMが開発したチェス専用コンピュータ・ディープブルーに敗れ、世界中のチェスファンが涙したと言われる。
将棋の世界では、20XX年、史上初の永世7冠制覇をした第19世永世名人の羽生善治がスーパーコンピューターに敗れ、日本中の将棋ファンが落胆したと言われる。
チェスファンたちはGMカスパロフの勝利を信じ、将棋ファンは羽生永世名人の勝利を信じ切っていた。だからこそ、そのときの落胆は、とてつもなく大きなものであったと言われている。
そんな落胆よりはるかに大きい落胆が、今、東京ドームを支配していた。
絶対的静寂の東京ドーム。そんな中で。
「使徒、頼むよー」
「お願いだ、使徒。勝ってくれー」
時折、感情を抑えられない男性客たちが懇願の絶叫をする。
◇
自分と泉との議論により、自分は結果として、泉を傷つけただけではないのか。粟山さんは深い後悔の念に襲われていた。
「泉さんに謝ろう」粟山さんが心の中で思ったそのとき。先ほどから真剣に何かを考えている顔であった泉が口を開く。
「ねえ粟山さん、真の第3の疑問について、もう少し聞かせて? やっぱり違和感があるの。
真の第3の疑問、つまり十分な気を蓄積した蔵人くんならば『集極の波より来たりし闇』により月乃さんを倒せるのかってやつ。これは月乃さんが瞬間移動で移動し続けることで、『集極の波より来たりし闇』を躱し続けられることを論拠の骨子としている。ならば、瞬間移動能力者に対して『集極の波より来たりし闇』は効力を持たない、そう考えていいんだよね?」
粟山さんは、泉の瞳に光りが蘇っているのを見た。泉の気持ちに応えるためにも、しっかりと正確に答えよう、粟山さんはそう思った。
「その解答は正確ではありません。「意思を持った人間である」瞬間移動能力者に対しては『集極の波より来たりし闇』は効力を持たないというのが正確な表現になります」
正確に確実に解答することで粟山さんは泉の気持ちを最大限まで汲もうとする。
「え? それは「意思を持たない」瞬間移動能力者に対しては『集極の波より来たりし闇』は効力を持つことはあり得るということ?」
「そうなんです。時雨が蔵人くんと契約するときのテストの相手は、NPCの『騎士の亡霊』でした。『騎士の亡霊』は瞬間移動できるNPCです。この『騎士の亡霊』戦を蔵人くんは『集極の波より来たりし闇』により勝利しているんです。それはNPCである以上、『騎士の亡霊』の行動には法則性がありましたから、人外の事象観察力と高速度物理演算能力を持つ蔵人くんが『騎士の亡霊』の瞬間移動を事前予測することができたからなんです。
なので、「意思を持たない」」瞬間移動能力者に対しては『集極の波より来たりし闇』は効力を持つことはあり得ると言えるわけです。
それに対して、月乃さんは「意思を持った人間」であることから、『騎士の亡霊』のようなプログラムによる法則性を持って動くわけではないので、そんな瞬間移動能力者に対しては『集極の波より来たりし闇』は効力を持たないということなんです」
粟山さんは、誤解が生じように細心の注意で正確に解答する。
「そうだとすると……」
泉がそう言いかけた瞬間。
東京ドームに響き渡る大きな爆発音。
矢沢月乃は蔵人に対して2撃めとなる特殊能力『爆発する小剣』を発動する。蔵人のHPは230から80まで減少した。そして蔵人へ月乃は追い打ちをかけて3撃めの特殊能力『爆発する小剣』を発動した。
東京ドームの観客たちは絶叫する。
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えええええええええええええええええええええええええええ
やめてええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
観客席はパニック状態に陥る。
「さよなら、チートさん」
月乃はつぶやいた。




