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第13話 矢沢京介

 矢沢京介。24才。大阪府大阪市出身。東京大学と並ぶ最難関といわれる名門浪速大学の理学部を卒業。同年浪速大学大学院へ入学する。

 

 だが大学院での京介を担当する定年まぎわの老人教官は京介の研究テーマを否定し、他の研究テーマへ変更することを強要する。京介が理論により自らのテーマの大きな将来性を説明しようとしても老人教授は聞こうとすらしないで、口答えするなと怒り、そのテーマで研究することを一切禁止してしまう。


 その教官は時代の流れについていけず、既存の固定観念に縛られ新しい概念を理解しようとすらしない典型的な老害だった。




 生きることは退屈すぎる――京介にとり人生で初めて感じた挫折であった。




 丁度その頃、京介は《HYPER CUBE》に出会う。《HYPER CUBE》はプレイヤーのDNA、外骨格や脳神経などの現実(リア)世界()での情報を解析して初期レベルが設定される。それでも多くの者はレベル1でスタートであるのだが、頭脳明晰な京介の開始レベルは38。異例の高さであった。


 しかも《HYPER CUBE》は世界中のゲーム愛好家より戦略ゲームとも言われており、知略を働かせることができる者は圧倒的な効率でレベルを上げることができる。知略を働かせることを最も得意とする京介はこのゲームに魅了される。京介にとって《HYPER CUBE》内に退屈はなかった。京介は飛躍的にレベルを上げていき、ゲーム開始3ヶ月には最前線に立っていた。《HYPER CUBE》に京介は退屈でない人生の可能性を見つけた。

 

 このまま大学院を出て一流企業に就職して働くか、それとも《HYPER CUBE》のプロになるか。今から3ヶ月前、京介は人生の岐路に立て悩んでいた。ギルド「最前線」でフィールドボス討伐を終えたある日、京介は自分の悩みを「最前線」のメンバーに話してみた。ギルドのメンバーとは、いつもは目標となっているボスをどう攻略するかといった話がほとんどである。雑談も最近買ったラノベや今クール面白いと思うアニメの話が中心でリアルの深刻な話をするのは初めてであった。意外にもメンバーはみんな誠実に答えてくれた。そんなの一流企業に決まってるよ、ゲームのプロと一流企業では将来の安定さが全然違うでしょ、メンバーの意見は圧倒的多数が就職であった。


 そんな中、前回の《HYPER CUBE》アメリカ選手権の優勝者ロックコが口を開く。「たった1回きりの人生だからね。僕はキョウスケの本当の心が渇望するもの、悔いのない生き方をするのがベストだと思うよ。」ロックコはそうチャットした。その言葉が京介にとてつもなく強く響いた。京介は《HYPER CUBE》のプロの道を選択した。

 


 一方で京介には美沙という年下の彼女がいた。美沙の友人はみんな結婚しており京介もそろそろ美沙と結婚したいと思っていた。だがゲームのプロでは美沙の両親の理解を得ることは難しいと京介は思っていた。次の《HYPER CUBE》の世界大会で優勝するという実績を持って美沙の両親のところに挨拶に行こう、京介は決意した。そうと決まれば手段を選んではいられなかった。《HYPER CUBE》世界大会で優勝するために最も障害になる相手は皮肉にもギルド「最前線」のメンバーであった。「最前線」のメンバーが世界大会に進出してくるのは1人でも多く阻止しておきたい。



「ごめんなシグレ」――今から3ヶ月前そう呟きながら京介は《HYPER CUBE》東京予選のエントリー画面へ入力をしていた。


 

              ◇



 《HYPER CUBE》東京予選決勝開始前10秒からのカウントダウンが開始された。同時に全対戦者の俯瞰画像に選択したスターティングポイントが対戦者と観戦者たちに公開される。


 京介たちは自分たちらしい王道の戦い方を選択した。優位にある者が小細工をすれば、かえって裏目になるだけ、作戦上手の京介は勝負の真理を理解している。


 世界最高の遠隔狙撃者である京介は絶好の狙撃ポイントである2つの丘のうち南の丘をスターティングポイントとして選択した。京介の射程範囲は2500メートル。半径1Kmの円状の今回のステージは、全てが京介の射程範囲に含まれる。そして丘の上という高所をスターティングポイント選択することにより死角は著しく減少する。


 他方、矢沢月乃は、町の大きな道路の真ん中をスターティングポイントに選択した。相手が京介の狙撃を回避して、死角となる飲み屋や宿場の裏側をスターティングポイントとしても、それを攻撃することで相手に場所の移動を強いる。だが、移動した先の場所は必然として死角の外、すなわち京介の狙撃範囲を意味する。それが京介たちの戦術であった。


 俯瞰画像から草原中央の町の道路の中央の月乃のスターティングポイントより3mほど前の真正面に時雨のスターティングポイントが設定されているのを京介は確認する。


 他方、京介が草原の南端の丘の頂上をスターティングポイントとしていたのに対し、蔵人のスターティングポイントは草原の東端の丘の頂上。


 月乃が近接戦闘で時雨に遅れをとるとは考えがたい。そう考えた京介はカウントダウンが0秒となった瞬間に蔵人が存在するはずの東の丘の頂上にライフルの照準をあわせる。



「【キャスリング】は使うまでもなかったな。美沙、この大会が終わったら……」


スタートの8秒前、京介はつぶやいた。


カウントは続く。7秒、6秒・・・2秒、1秒、スタート!



 その瞬間、京介はスコープ全面が強力な明るい光に被われ眼を開けていられなくなる。




ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドン

 同時に耳の鼓膜が破れるかと思うほどの大きな雷鳴。

 京介も東京ドームの観客たちも、みんなが東京ドームに落雷があったと思った。雷鳴の余韻に空気が震える。


 だが、その強い光と爆音の源は草原の中央にいる時雨。『(ドラゴニア)()(ンダー)』の最終形態『竜神の逆鱗』が発動した瞬間であった。



「時雨が……ここまで出力をあげたの……今までとは明らかに質が違う」


 驚嘆した泉がつぶやく。レギオンで時雨と共に戦ったことのある泉であるから、今回の特殊()能力(キル)が今までの『(ドラゴニア)()(ンダー)』とは異質の強力さを持っていることが分かる。


「時雨の特殊()能力(キル)である『(ドラゴニア)()(ンダー)』は最前線でも屈指の貫通力を誇ります。ですが矢沢兄妹の固有特性である『(アンチ)雷神(サンダーゴッド)』。これは時雨にとって天敵みたいな特性で時雨の『(ドラゴニア)()(ンダー)』の与ダメージを90%軽減できました。それでは月乃さんのHPの7%しか削れませんでした。つまりフルのHP450ですからHPにして31.5を削れるだけ。これではリジェネの1ターン分で簡単に回復できました。

 そこで時雨はこの2ヶ月間毎日ひたすら『(ドラゴニア)()(ンダー)』の火力を上げることに特化する形で強化し続けました。この特異な行動の結果として出現したエクストラスキル、それこそがこの『竜神の逆鱗』なんです。これにより時雨は火力を従来の6倍以上にまで高めることができました。つまり月乃さんはHPを200近く削られ今の月乃さんのHPは250くらいなはずです」


 粟山さんが泉に説明する。粟山さんは、さらに続ける。


「蔵人くんと時雨との作戦会議での蔵人さんの指示はこうです。障害物の多いステージなら『(アンチ)雷神(サンダーゴッド)』を有する矢沢兄妹に対して時雨は真正面から打ち合わず、ゲリラ戦で相手を消耗させること。他方、障害物の少ないステージならゲリラ戦が不可能なので真正面から戦うこと。ゲームスタートと同時にできるだけ至近距離で最大火力まで高めた『竜神の逆鱗』を月乃さんに打ち込む。近い方が貫通力が高まるから。時雨が月乃さんに勝機があるとすれば、これしかないとのことでした。だから時雨は絶対定跡とは真逆のあんな無茶なスターティングポイントを設定したんです」


 観客たちも光と大音響は落雷ではなく時雨の化け物のような特殊()能力(キル)発動によるものだと気づく。『竜神の逆鱗』の副産物として生じた煙幕が次第に晴れようとしているその箇所に観客たちの注目が集まる。



 そこに立っていたのは時雨……




 そして笑顔の月乃だった。




「めっちゃびっくりするやん。さすが時雨ちゃんやな」



余裕を持った笑顔の月乃に絶句する時雨……。東京ドームのバックスクリーンには各対戦者のHPバー、KIバーとそれらの数値が表示されている。


 時雨がバックスクリーンを見やると月乃のHPは412……時雨の『竜神の逆鱗』は月乃のHPをわずか38削っただけだった。



「そ、そんな……」


 粟山さんは信じられないという表情。


「粟山さん、これを見て」


 泉は時雨にタブレットを見せる。この大会を運営する組織委員は対戦のバトルログや対戦者のステータスをリアルタイムでインターネット上に開示しており、観客は対戦映像とともにそれらの情報をスマホやタブレットで見て楽しむこともできる。このバトルログには1ターンめに時雨が『竜神の逆鱗』を発動したとの表示がある。『竜神の逆鱗』が発動したことは間違いなかったことを泉は示す。続けて泉はタブレットの画面を切り替える。それは矢沢月乃のステータス画面。


「ここなんだけど」


泉は指し示す。

そこには月乃の固有特性『(アンチ)雷神(サンダーゴッド)ⅩⅨ』が表示されていた。



「『(アンチ)雷神(サンダーゴッド)ⅩⅨ』……そんなの信じられません。固有特性でⅩⅨだなんて……最前線でも昨年の《HYPER CUBE》南米選手権優勝者ネルソン・セレーゾさんが物理耐性ボーナスⅩⅤの固有特性を持ってますが……ⅩⅤを4段階も上回る固有特性ⅩⅨ……そんなのデタラメじゃないですか」


目の前の数値を信じられない、というよりは信じたくない粟山さんは感情を泉にぶつける。


「たしかにⅩⅤを超える固有特性なんて聞いたこともないし、月乃さんの『(アンチ)雷神(サンダーゴッド)』も大会前はⅩⅣだったはずだわ。

 でも、こうは考えられないかしら? 月乃さんも時雨だけを念頭に置いて、とんでもなく特化した努力で固有特性の上昇をさせた。

 固有特性の上昇はランダムだし、ⅩⅤ以上は未知の領域でなんのデータもないわ、まして『(アンチ)雷神(サンダーゴッド)』なんて超レア特性……上昇しないかもしれないっていう不安を抱えながら、ⅩⅣからⅩⅨ……5段階も……どれだけの時間と忍耐力が必要になるのかって気が遠くなりそうだけど……ここまでやる人がいたってことよね……」


 時雨が火力を上げることに特化した特異な強化をする一方、月乃はそれを想定しそれへの防御へ特化した固有特性を上昇させていた。その結果、2人の力は、およそ相殺されあうこととなったのであった。


「時雨ちゃんには悪いけどな。美沙は私の中学時代からの親友やからね」


「へ?」と時雨。


「ううん、なんでもないねん。こっちの話やから。これからが本番やで」


 月乃はミスリルの小剣を構える。




 煙幕が晴れた草原の中央で月乃が時雨の攻撃によるダメージをさして受けていないことを確認した京介は、再度、ライフルの照準を東の丘の頂上に定める。だが、そこに蔵人の姿はなかった。


「消えた? ……だと……」

京介は呟く。


「俺ならここにいるぜ」

 京介の背後から声がする。驚きながらも瞬時に京介はライフルを手放して後ろへ3mジャンプする。着地と同時に腰より近接戦闘用の白銀の大剣を抜刀して、声の主を見る。



「不意打ちは俺の流儀に反するからな。ここからが本番だ、矢沢京介」



そこには蔵人が立っていた。



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