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第11話 岡凜(オカリン)

【重要なお知らせ】

 本日6回更新いたしますが、任意の1話のみをお読み下さり、他の5話は読まれないことを極めて強く推奨いたします。そうでなければ、いたずらに読者様のお時間やご労力を浪費させてしまうからです。

 呉々も6話につき全てをお読み下さることは、絶対にお止め下さい。各話の最後1行を除けば、さほど実益が存在しないからです。

 今回の試みの作意となるものは、明日更新いたします第17話にて明らかに致します。

 作意の都合上この様にならざるをえなかったことをお詫び申し上げますm(_ _)m


 繰り返しますが、今日は6つのうちどれか1つのみをお読み下さり、次に明日更新の17話までジャンプされることを極めて強く推奨いたします。


20X5年4月5日

PM04時14分


 名門・秋葉原学園の放課後のカフェテリア。


 蔵人、時雨、泉、エリチたち4人のテーブルの前へ1人の少女が現れる。



「蔵人先輩、初めましてにゃ~」


 少女は明るく元気な声で挨拶する。

 丸い顔に、パッチリとしたキレイな瞳。髪は茶色のショート。いかにも活発そうな可愛い少女。

 その少女の濃紺のブレザーは真新しく、新入生であることは明らかだった。



 少女は満面の笑顔で続ける。


「私の名前は岡凜おかりんと言うにゃ~~。

 1年A組です。凜は蔵人先輩の大ファンなので、宜しくお願いしますにゃ~!」



「そうか、宜しく」


 蔵人は、いつもの無愛想ぶあいそうな表情のままで、素っ気ない挨拶を返す。



「凜は蔵人先輩のサインが欲しいにゃ~」


 凜は満面の笑顔を崩さず、色紙とサインペンを出す。



「お断りする。今はプライベートだ」


 蔵人はニベもない返事を返す。



「えっ……」


 凜が悲しそうな表情をする。



 そんな凜の様子を見て、心優しい泉が蔵人をいさめる。


「お断りしますって……サインくらいスグできるんだから、してあげたらいいじゃない」



「そもそも、お前っていつもプライベートだろうが」


 時雨も、蔵人へツッコミを入れる。



「にゃ~と言うお前の語尾が気に食わないんだが。何かの設定か?」


 蔵人は冷淡な目で凜を見る。



「そんな……凜は猫好きだからにゃ……」


 凜は下を向きながら、気落ちした声でつぶやく。



「ダーリンらしくないわ。猫好きなら仕方ないでしょ」

「そうよ、猫好きなら仕方ないよ」


 エリチと泉が続けて凜を擁護する。



「お前たち、しっかりと周りを見てみろ。俺たちの会話は、今、カフェテリア中の注目を浴びている。これは今に始まったわけじゃない。第4回《HYPER CUBE》世界大会、そして昨日の第1回《HYPER CUBE》カップで優勝した俺は、必然、秋葉原学園の生徒たち、特に初めて俺を見る新入生たちの注目の的になっている。そして俺の返事をうかがっている空気を強く感じる。そんな今、俺がコイツにサインしたらどうなる? 簡単な3手の読みだ」



「分かった! 新入生たち全員がサインを求めて、このテーブルに殺到し、このカフェテリアはパニックになるっ!」


 泉が1番に解へと辿たどり着く。



「ハラショー! そこまで考えてるなんて、さすがダーリンね」


 エリチが感心する。



「そういうことだ。最悪の場合、将棋倒しになる。警備員のいないカファテリアで、いきなりサイン会が行われることは、生徒の安全上、許されないんだ。それにサインし続けて俺が急性腱鞘けんしょう炎になることも確実だしな」



「そういうことらしい。お前は、これで我慢しとくんだな」


 時雨が名刺くらいの大きさの紙片を凜へと渡す。



「え? え? これって……」


 凜は戸惑いながら、紙片を見る。



蔵人こいつのメアドだ。1枚5000円で絶賛販売中だ」



「お金取るんかイイイイイイイイ」


 泉がつっこむ。



「時雨、何を勝手なことをしてるんだっ!」


 蔵人が厳しい口調で時雨をとがめる。



 凜は即座に山中伸弥教授の肖像のある5千円札を財布から取り出す。

 時雨はスグに受け取る。



「最近、金欠きんけつでな。お前のメアドで稼がせてもらってるよ。今日だけでも新しくクラスメイトになった奴らから、かなり稼がせてもらったよ」


 時雨は平然と言ってのける。



「近頃、やたらリアルな自己紹介のある迷惑メールが多いと思っていた……携帯会社の本アドで迷惑メールって、どんだけ馬鹿な業者だと思いながら全部通報してたんだが……業者じゃなかったのか……まさかお前が諸悪の根源とはな……」


 蔵人はあきれる。



「? だが、お前は二神財閥の令嬢だろう。なんで金欠になる?」


 いぶかしがる蔵人。



「VRMMOの微課金プレイヤーには、絶対的限界がある。廃課金に負けないだけ課金しないとテッペンには行けないからな」



「何を言ってるんだ? 《HYPER CUBE》は完全無課金ゲームだろ?」


 蔵人は不思議そうに時雨を見る。



「私は《HYPER CUBE》のサービス開始された5年前からプレイしてきた古参だぞ。《HYPER CUBE》なんて、とっくの飽きてるに決まってるじゃないか。今は大航海時代を舞台にした別の某VRMMOも、平行してやっててな。そこでガチャを回し続けないとテッペンには行けないんだ」



「他ゲーか……だが、お前は月に30万も小遣いを貰ってるんじゃなかったか?」


 新たな疑問に、またも蔵人はいぶかしがる。



 時雨は馬鹿にしたような口調で反論する。


「お前は相変わらず本当にゲームのこと分かってないんだな。月に30万円なんて、1回500円のガチャをわずか600回引けるだけだ。そして、今はSRの上位にSSRがあるから、欲しいものを引ける確率が極端に下がってるんだ。そんなSSRで新しいやつが実装され、それが自分のユニットにとって有用なものだったら、30万円なんて端金はしたがね一瞬でけるわ。そして、今のネトゲの廃課金の頂点に君臨しているのは、会社員サラリーマンたちだ。アイツらは、半端ない。ボーナス時には、全額ブチ込んでくるからな。100万円越えなんて、ザラだぞ。そして、私はアイツらを越えなければテッペンに行けない。

 ゆえに、こうして新しく考えたビジネスで、ガチャ10回分の5000円を、つつましやかに稼いでいるわけだ」



「俺のプライバシーはどうなる?」


 蔵人は厳しい口調で時雨へ詰問する。



「お前のプライバシーは私のもの。私のプライバシーは私のものだ」



「お前は、どこのジャイアンだ」


 蔵人がツッコむ。



 凜がオドオドしながら、蔵人へ紙片を差し出す。


「蔵人先輩……凜は知らなかったから……これは返すにゃ~……」



「その必要はない。これはお前が5000円という高校生にとって少なくない対価を払って時雨から得たものだ。この紙片の所有権はお前のみに専属する。その所有権の所在につき、俺が口を差し挟む権限も筋合いも無いからな」


 凜に気を使ってか、蔵人の口調には、それまでほどのとげは無い。



「やったにゃ~!」


 凜は蔵人のメアドをゲットできた喜びに、思わず右手を挙げて喜ぶ。



 蔵人は、即座に釘を刺す。


「だが、意味も無くメールしてくるなよ。俺にメールしてきて良いのは、俺にとって極めて有用な情報があるときだけだ。たとえば、俺の身に危険が迫っているというたぐいのな。それ以外のメールは一切禁止だ。雑談などは論外だからな」



「分かったにゃ……」


 凜は淋しそうにうなく。



 蔵人は、とがめられてバツの悪そうな顔をしている時雨を見やる。そして、時雨に言う。


「時雨、お客さんは、俺にだけじゃ無いようだぞ」


 そう言って凜の後ろを見やる。




 そこにいたのは、小柄で可愛らしい美少女。炎髪をポニテにして黒いリボンで結ぶ。その少女は、クリクリとした瞳を輝かせながら時雨を情熱的な瞳で見つめていた。


「わ、わ……私は火口ひぐちミヨでございますわ……」


 その少女のブレザーも真新しく、新入生であることは明らかだった。少女は勇気を振り絞っているような懸命な表情で続ける。



「わ、私、時雨先輩のファンですわ。時雨先輩のこと、お、お、お姉様って呼んでもいいでございますか?」



「私をか? 構わんぞ。火口さんだな。私は生意気な姉がいるだけだからな。ずっと前から、妹が欲しかったんだ。その変わり上から目線でビシビシ指導するから覚悟するんだな」


 時雨は嬉しそうに火口さんに声をかける。



「よかったですわ~」


 火口さんは安堵した表情を見る。



「ひぐちん、よかったにゃ~」


 凜は火口さんを祝福する。



 火口さんは、時雨に快心の笑顔を見せる。


「私、お姉様のことを第4回《HYPER CUBE》世界大会を見て大ファンになったんですわ」



「え? 第4回なのか?」


 第4回《HYPER CUBE》大会では、さほど目立った活躍をしたと思っていない時雨は不思議そうに火口さんを見る。



「そうですわ。あの大会で、お姉様はサンダース大佐のサーモバリック手榴弾から、体を張って、そこの隻眼を守りましたわ。お姉様のそんな御活躍がなければ、あの時は二人ともゲームオーバーだったはずですわ。お姉様のあのときの勇敢なお姿を見て、私はお姉様の大ファンになったのですわ。あの優勝は、お姉様あっての優勝ですわ」



「それに戦いの中にあっても、お姉様は常にお美しいですわ。そのお顔立ちも、ご容姿も、全てがお美しいですわ」


 火口さんは、うっとりとした眼差しで時雨を見る。



「ほう! 私あっての優勝とは、よく分かってるじゃないか。良い着眼点をしてるな。私の妹分に相応ふさわしい」


 時雨は満更まんざらでもなさ気にする。




 蔵人は、凜と火口さんに対し真剣な眼差しで見つめる。


「凜、そして火口とやら。お前たちが、1年生の仲良し3人グループのうちの2人というところまでは既に推認済みだ。残りの1人は、どこだ?」



「「え? え?」」


 凜と火口さんは戸惑った表情をする。



 凜が困った表情で答える。


「凜とひぐちんは、今日同じクラスになったばかりにゃ~。中学も、世田谷と品川の公立だから、全然違うにゃ~。まだ、凜はひぐちんとしか友だちになってないにゃ~。質問の意味が分からないにゃ~」



 泉とエリチも、蔵人を不思議そうに見る。



「はっ!」

 泉は息を飲む。



 泉は思い出した。今朝のコンピ研の部室で話していた蔵人の言葉を。



『いるんだよ。新たなビグースが。新入生かどうかは分からない。だが、この秋葉原学園高校の中にな。新たなる刺客がいるんだよ』



 そんな言葉を泉は思い出していた。



(蔵人くんは、凜さんと火口さんが、昨日、『Cocytusコキュートス』でイタリア半島を完全凍結させた3人のビグースだと思っている」


 緊張に泉の顔は引き釣る。



「凜はホントに意味分かんないにゃ~」

「私も意味分かんないですわ……」


 凜も火口さんも困惑の表情を見せる。



「そんなことより私、蔵人先輩に見て欲しいものがあるにゃ~」


 凜は自らのブレザーのポケットに手を入れる。

 そしてグーにした手を蔵人の目の前へ差し出す。



 泉は見た。その瞬間、凜がニヤリと笑うのを。


 凜は、ゆっくりと手を開く。



 そこにあったのはルビーのピアス。それこそは《HYPER CUBE》の特殊能力スキル現実世界リアルで発動可能とする出力装置。



 ガタッ


「貴様、やはり特殊能力スキル保持者かっ!」


 蔵人が叫びながら立ち上がり、身構える。



 エリチも、瞬時に立ち上がり、二神の守護者ガーディアンとして凜と時雨の間に立って、大盾を顕現させ時雨を守る体制を作る。




「きやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 


 泉の悲鳴が秋葉原学園のカフェテリアへ響き渡る。




            ◇



「ちょ、ちょっと、ちょっと……待って欲しいにゃ……」


 突然の事態に、凜は困惑しきった表情で、涙組みながら、蔵人とエリチを制止する。



「り、り、凜はロックコくんが入学祝いに贈ってくれたプレゼントを見せて驚かそうとしただけにゃ~……先輩たち驚きすぎだにゃ……」


 凜は動揺に声を震わせる。



「ロックコから……もらったのか?」



「そうだにゃ~。この前、野良でボス討伐した後、2人で雑談してたにゃ~。凜が秋葉原学園に入学するって言ったら、興奮して、どんな参考書使ったらいいかとか、1日何時間勉強したらいいかとか聞いてきたから、いっぱいアドバイスしたにゃ~。そしたら、お礼として贈ってくれたんだにゃ……」



「そのピアスの本来の機能を知ってるか?」



「うん、絶対に秘密と言われたけど《HYPER CUBE》の特殊能力スキル現実世界リアルででも使えるにゃ~」



「あの野郎……」

「あのおしゃべりバカ……」


 最高機密をロックコが、簡単にベラベラ話していたことに、蔵人と時雨は頭を抱える。



 同時に、蔵人の心証は、凜はビグースでないというものへと変わっていた。

 仮に凜がビグースであれば、何も言わずに、不意を突く形で蔵人を攻撃することが、最も勝利の可能性を高める。だが、凜は、それと真逆の行動を取ったことによることを根拠として。



「凜とやら、どうやら俺が誤解していたようだ。すまない」


 蔵人は頭を下げる。



「反省するなら、許すにゃ~。さっきは本当にビックリしたにゃ~」


 凜はまだ浮かべた涙が渇かない瞳で言う。



「お前は善良な《HYPER CUBE》プレイヤーだったようだな」


 蔵人は凜に微笑む。



「そうにゃ~。凜のうちは厳しいから、唯一の趣味が《HYPER CUBE》にゃ~。

 《HYPER CUBE》は凜の魂と言っても過言ではないくらい大切なゲームにゃ~」


 凜は爽快な笑顔で、蔵人へ自身の《HYPER CUBE》への熱い思いを語る。




 その時、カフェテリアでウェイトレスをやっている多賀部たがべのオバチャンが、沢山のケーキを積んだワゴンを押しながら、蔵人たちのテーブルへとやって来る。



「あなた達、さっきから元気に盛り上がってるわね~。若いって、いいわ~」


 オバちゃんは、笑顔でみんなに声をかける。



「あっ、多賀部のオバチャン! お騒がせしてます」


 泉は恐縮しながら頭を下げる。



「いいのよ~。最近の子は元気が無い子が多いからね。その点、あなたたちは五月蠅うるさいくらいに元気ありまくりで、いいわ~」



「美味しそうなケーキだな」


 時雨がワゴンのケーキを見ながら、つぶやく。



 オバちゃんは、みんなに声をかける。

「お一ついかが? タイムサービスで、モンブランケーキだけは、1つ200円!安いわよ」



「蔵人先輩、おごって欲しいにゃ~」


 凜が蔵人におねだりする。



「ふざけるな。それに、これから俺はドンキに行く」


 そう言って蔵人は断る。


 秋葉原学園高校の生徒たちは、購買のことをドンキと言う。秋葉原学園は、購買業務をドンキホーテに業務委託していることに由来する。なので、秋葉原学園高校の購買は、品揃えが日本一豊富なことで有名だった。



「凜は蔵人先輩と、お茶したいにゃ~」



「ダメだ」

 蔵人は取り合わない。



 蔵人は今までの光景に当然、既視感など感じない。


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