忠告
-Downtown "LAPD" -
翌日、ボッサンとユオ、それにスギポンが同行して、ダウンタウンにあるロサンゼルス市警察本部にやって来た。
ロサンゼルス市警察本部には約9,500人の警察官と約3,000人の職員が働いている。日本の警視庁とくらべると約4分の1の人員でロサンゼルス市民を守っている。
ニューヨーク市警察は、市民約230人に1人の割合で警察官を配置しているが、ロサンゼルス市警察は、市民約430人に1人の割合で、常に人員不足に悩まされている。
ボッサンとユオの活躍により逮捕された銀行強盗犯の霜月、オヴェ、モリモリは、ここロス市警本部に留置されていた。
警備員に撃たれたアオイ、ボッサンとユオに撃たれたヒゲの男の部下2人は、病院に入院していた。
霜月の取り調べをする為に、ホヘトに前もって手続きは取ってもらってあるはずだ。
3人は本部内に入ると、まず『刑事部』に向かった。
『刑事部』は「ギャング 麻薬捜査課」「科学捜査課」「少年課」「経済犯罪課」と様々な課があり、様々な人たちがひしめき合っていた。
その中の「強盗殺人課」に向かった。
強盗殺人課にいたデカいアメリカ人刑事にスギポンが掛け合った。
しばらくしてスギポンが戻って来た。
「何か手違いと言うか話が通ってないと言うか、取り調べは出来ないみたいです。すいません」
「はあ~?ホヘトが話を通してんじゃねぇの?」
ボッサンとスギポンが話している横を、さっき話していたアメリカ人刑事が通り過ぎた。
横を通り過ぎる時、ボッサンを見て鼻で笑った。そして聞こえるように独り言を言いながら歩いていった。
「 Don’t give a fuck with me . Fuck off.(調子にのってんじゃねえよ。失せな)」
それを聞いてボッサンは頭に血がのぼった!
ボッサンはアメリカ人刑事を追いかけていって肩を掴んだ!
「おいてめぇ!言いたい事があるんなら面と向かって言えってんだ!このデクノボウが!」
アメリカ人刑事は振り返って不快な顔をして言った。
「 What the fuck ?(一体何なんだ?)」
ボッサンがアメリカ人刑事の胸ぐらを掴もうとした時、後ろで声がした!
「随分威勢がいいわね!」
ボッサンが振り返ると、そこには紺色のパンツスーツを着たポニーテールの日本人女性が、腰に両手を当てて立っていた。
その女性はボッサンの前まで来ると右手を差し出した。
「私は日比野カオル。強盗殺人課のキャプテン。日本でいう警部よ、よろしく!」
ボッサンは握手をしながら言った。
「俺は荻野目、こっちは三神田巡査と高杉。うちのカミサンもかおるって言うんだ。お手柔らかに頼むぜ」
カオルは微笑みながら言った。
「そうなの?じゃあ手加減はしないわよ!
あなたたちが噂の『ボッサンとユオ』ね!
うちのスティーブが失礼な事を言ってすまなかったわ。北川キャプテンからは聞いてるわ。早速霜月の取り調べに行きましょう。
ついて来て!」
ボッサンたち3人はカオルについていった。
途中にさっきのアメリカ人刑事のスティーブが、机に腰掛けて足を投げ出していた。カオルは通り過ぎる時、スティーブのむこうずねを思いっ切り蹴っ飛ばした!
「OWW!(うっ!)」
スティーブは足を押さえてピョンピョンと跳び跳ねた!
カオルは歩きながら言った。
「あなたたちは北川キャプテンの事をホヘトって呼んでるのね。
そのホヘトが、銀行強盗犯を捕まえたあなたたちの事を、かなりアピールしてたわ。
そんなあなたたちの事を『よそ者に手柄を取られた!』って心よく思ってない人間もいるのよ。スティーブみたいにね。
だから気を付けてね」
「なるほどな。忠告ありがとう」
取り調べ室で霜月の尋問は始まった。
霜月は部屋の中で手錠を掛けられて1人で椅子に座っている。
その様子を隣の部屋から大きなマジックミラーを通して見ている。
尋問はマジックミラー越しにマイクを使って行う。当然霜月からは鏡にしか見えずこちらの様子は分からない。
カオルはジャケットを脱ぐとマイクに向かって喋り始めた。
「幾つか質問するから正直に答えなさい」
鏡の向こうの霜月はこっちを見てニヤニヤしながら言った。
〔お!日本人のオネエチャンやな?顔見せてくれるんやったら喋ってもええよ〕
「正直に答えたらね。あなたのボスとは何処で知り合ったの?」
〔ボスって、サングラスにヒゲの帽子かぶったオッサンの事か?
スキッド・ロウをフラついてたら声を掛けられたんや。儲かる仕事があるからやらへんかって〕
「それで簡単に引き受けたの?」
〔いやそれがな、警察のお偉いさん知っとるから絶対捕まらん仕事やっちゅうんや〕
「警察のお偉いさん?名前は言わなかった?」
〔言わんかった〕
「それで?」
〔そんで、俺らが捕まった所、あそこに来いって言われたんよ。
行ってみたら、車と銃とピエロのマスクとバッグとみんな揃っとった。そん時にモリモリとアオイとオヴェに会った〕
ボッサンが横からマイクを取った!
「奪った金はどうした!」
〔ん?誰や、このオッサン〕
「金はどこに持ってったんだ!」
〔さ~あね~。オネエチャンにしか喋らんもんね~♪〕
霜月はマジックミラーの向こうでヘラヘラ笑っている。
「テメェ~!ふざけた...」
横からカオルがマイクを取り戻して目でボッサンを制した。
「あ、ごめんなさい。邪魔が入ったわね。それで奪った金はどうしたの?」
〔ぜ~んぶあのヒゲのオッサンに渡したんよ。最後に分け前やるからって言われて。
で、最後に他のメンバーみんな殺せって言われた。けど出来んかった。
最後に奪った金を4人で分けてトンズラしようと思たら、バレてもうて危うく殺されるとこやったわ〕
「奪った金は何処で渡したの?」
〔リトルトーキョーのオリエンタルビルの地下駐車場〕
ボッサンは腕組みをして呟いた。
「オリエンタルビル...どっかで聞いた事あるな」
カオルはマイクをOFFにしてボッサンに聞いた。
「何か聞きたい事ある?」
「そうだな、ヒゲの男の立ち回りそうな所を聞いてくれ」
カオルはマイクをONにした。
「ヒゲの男の行きそうな場所ってわかる?何か好きな物とか...」
霜月は天井を見上げて考える。
〔う~んと...分からん。あ!〕
「何?」
〔大した事ないんやけど、あいつのヒゲ、付けヒゲやった。近くで見たら分かった〕
「付けヒゲ...変装してたって事ね」
その後の尋問でも有力な手掛かりは得られなかった。
ボッサンは敢えてマッチの事は言わなかった。
尋問を終えて廊下を戻る途中、正面から子分を従えている殿様みたいな奴が歩いてきた。
カオルがボッサンの耳元でささやいた。
「ラッキー市長よ!」
周りを取り囲んでるのは子分ではなくシークレットサービスであった。
ラッキー市長はこっちに気付いたらしく、側にいる男に何か聞いている。そしてこっちに歩いてきた。
ラッキー市長は右手を出しながら言った。
「Are you two heroes?(君たちが英雄の2人か?) 」
ラッキー市長はボッサンと握手をして、笑顔でハグしながら耳元で日本語でささやいた。
「余計な事はするな!とっとと日本に帰れ!」
そして笑顔を振りまきながら通り過ぎていった。
ユオが隣で聞いた。
「ラッキー市長何か言ってた?」
ボッサンはラッキー市長の後ろ姿を見据えて言った。
「これから楽しくなりそうだ、よろしくな。だとよ」