恍惚のアジト
-Little Tokyo"club STARDUST"-
「HQ、HQ!こちらパトロール!退屈で死にそうです!どーぞ。
こちらHQ!死にそうなのか?どーぞ。
こちらパトロール。あと10分で死んでしまいます!どーぞ。
こちらHQ!それは大変だ!直ちに帰還せよ!どーぞ。
帰還せよだって、ボッサン。どうする?」
携帯電話片手に1人芝居するユオ。
「バーカ。何1人でメタルギアごっこやってんだよ」
ユオの方には見向きもせず、タバコの煙の輪を飛ばすボッサン。
ユオは頭の後ろで手を組んでダルそうに言った。
「つーかさ、霜月連れて日本に帰ろうよ」
「今は霜月よりヒゲだ!あいつを捕まえねぇと俺の気が収まらん!
そんなに退屈ならどっかで缶コーヒー買って来てくれ」
「え~、この辺に自販機ないよ~」
「来る途中にスーパーみたいのがあったろ?そこで買って来い」
「え~、英語喋れないよ~」
「この辺だったら日本語通じるから。通じなけりゃ身振り手振りで何とかしろ」
「え~、日本のお金しか持ってないし」
「ユオ!グダグダ言ってねぇで金やるからとっとと買って来い!」
ボッサンが5ドル紙幣を1枚渡すと、ユオは車を降りてダルそうに歩いていった。
ヒゲの男の唯一の手掛かりのマッチを頼りに、ここ『クラブスターダスト』が見える路地裏で、スギポンに借りてきたフォードのワゴンに乗り込んで張り込みを始めて2日目の夜。既に9時を回っていた。
ラッキー市長に言われた言葉がボッサンの脳裏に甦る。
『余計な事はするな!とっとと日本に帰れ!』
あれはどういう意味なのか?
手柄を横取りするなという意味なのか?
それとも...
この事はホヘトには言っていない。勿論ここで張り込んでいる事も、スギポンに口止めしておいた。
10分後、ユオは戻って来た。
「買って来たよ~。あ~しんど」
ユオは車に乗ってボッサンにコーラを手渡した。
「はあ~?何でコーラなん?俺はコーヒーって言ったんだぞ!」
「文句があるなら自分で行って来てよ!大体ね、人にお願いしといて...」
「車が来た!伏せろ!」
ボッサンはユオの頭を引っ込めた!
車のヘッドライトがサーチライトのようにボッサンとユオの上を照らしていく。そして1台のベンツがクラブスターダストの前に止まった。
そして後部座席のドアを開けて出てきたのは、あのヒゲの男だった!
「見つけたぞ、ヒゲ野郎!」
ヒゲの男は店の中に入っていった。
それから5分後、黒のリンカーンが店の前に止まった。運転手の男が降りてきて、後部座席のドアを開けた。そこから姿を現したのはラッキー市長だった!
「ラッキー市長!......そう言う事か!」
ラッキー市長は隠れるように店へ入っていった。
ユオはコーラを飲みながらボッサンに聞いた。
「ヒゲのオッサンとラッキー市長は仲間だったって事?...ゲップ!」
「どうやらそうらしいな。
ラッキー市長とヒゲの野郎がグルになって、霜月らに銀行を襲わせた。
捕まらないはずだった霜月らを俺とお前が捕まえちまったんで、ラッキー市長はおかんむりって訳だ!」
ボッサンはコーラのプルトップを勢い良く開けた。
30分後ラッキー市長は店を出ていった。
それからしばらくしてヒゲの男が店を出てきた。
「今度は逃がさねぇぞ!」
ボッサンとユオはヒゲの男の尾行を開始した。
気付かれない距離、そして見失わない距離を保つ。
ヒゲの男が乗ったベンツはチャイナタウンに入っていった。
-Chinatown-
チャイナタウンはダウンタウンの北に位置する中国人街である。カラフルな街並みや漢字の看板が印象的で、中華料理店や雑貨店が所狭しと隣接している街である。
ヒゲの男が乗ったベンツは、2階建ての建物の地下駐車場へと入っていった。
ボッサンは近くに車を止めて、ユオと2人で地下駐車場へ入っていった。
壁の陰から様子を伺うボッサンとユオ。
ベンツのドアを閉めて、建物に入っていくヒゲの男と部下1人。
「ここがヒゲのアジトか!」
「ボッサン、ホヘトさんに応援要請した方がいいんじゃない?」
「いや、まだいいだろう。取り敢えず中の様子を見てみよう」
ボッサンとユオは壁沿いに進んで建物の入り口に入った。
ボッサンはホルスターからガバメントを抜くと、セフティを外した。ユオもホルスターからニューナンブを抜いた。
2人は1階に続く階段を上がる。
1階は事務所のようだ。窓から中を覗く。誰もいない。
2階から機械が動くような音が聞こえて来る。
ボッサンはユオを見て上を指差した。ユオは頷いた。
2階に続く階段を慎重に上がっていく2人。
2階の部屋のドアが開く音がした!ボッサンとユオは急いで1階の階段の裏に隠れた!
白い作業着にマスクをした男が2人、喋りながら階段を降りてきた。
「我们的老板使用人粗暴。(うちのボスは人使いが荒いな)」
「别提词句。在今晚中做完!(文句を言うな。今晩中に仕上げるぞ!)」
2人は1階の事務所に入っていった。
ボッサンとユオは足早に事務所の前まで行くと、静かにドアを開けて中に入った。
しばらくして、ボッサンとユオは作業着にマスクを着けて、段ボール箱を抱えて事務所から出てきた。勿論作業着を着ていた2人は縛って眠らせてある。
「あの2人はこの空の段ボール箱を持って行こうとしてたよな」
ボッサンとユオは空の段ボール箱をそれぞれ抱えて2階に上がっていった。
ユオはボッサンに聞いた。
「バレないかな?」
「マスクを着けて目しか見えないからバレないって」
2階の部屋のドアを開けて中に入る。
部屋の中には、釜のような物、撹拌機、プレス機、様々な装置が動いている。人影はない。
側のテーブルの上に置かれた箱に何か入っている。
ユオが覗き込む。
「ボッサン、何これ?」
ボッサンは空の段ボール箱を床に置いて、中に入っているビニール袋を取り出してみた。
袋の中に白い粉が入っている。
ユオはボッサンに聞いた。
「覚醒剤?」
ボッサンは袋を開けて指で触って少し舐めてみた。
「ヘロイン......にしては粒子が荒いな。これは...モルヒネの結晶だな!」
「モルヒネって、麻酔のモルヒネ?」
「そうだ。モルヒネはヘロインの原料だ。多分これを精製して、もっと純度の高いヘロインを作ってるんだろう。
どうやらここはヘロインの精製工場のようだな」
「まじか!」
「芥子の実からモルヒネの結晶を取り出し、それを精製してヘロインを作る。一昔前はデカイ工場が必要だったが、今はこんな手狭な所でも精製出来るって事か!」
と、その時!奥から男が現れて怒鳴りながら手招きしてきた!
「哎!到什么时候让等!快速拿来瓦楞纸板箱子!(おい!いつまで待たせるんだ!早く段ボール箱を持って来い!) 」
ボッサンとユオは顔を見合わせた!
「ボッサンどうする?なんか呼んでるよ?」
「多分段ボール箱を持って来いって言ってるんだろう。行くしかねぇだろ!」
ボッサンとユオは段ボール箱を抱えて、呼んでいる男に向かって歩き出した。
ボッサンは小声で言った。
「ユオ、いつでも銃を抜けるようにしとけ!」
「わかった!」
ボッサンとユオは男の前で立ち止まった。
すると、男はいきなり銃をボッサンとユオに向けて叫んだ!
「是你们谁!举起双手!( お前ら誰だ!両手を上げろ!) 」
「どうすんの?バレちゃったみたいだよ」
「やべ~な。取り敢えず両手を上げとくか」
ボッサンとユオは段ボール箱を床に置いて両手を上げた。
男は自分のマスクを指差して言った!
「取面具!加快!(マスクを取れ!早くしろ!) 」
ユオは両手を上げながらボッサンに言った。
「多分マスクを取れって言ってるよボッサン!どうする?」
男はボッサンに銃口を向けたまま撃鉄を起こした!




