消える世界
空に近い場所に腰を下ろして、二人は空を見上げていた。
「空って遠いね」
届かない。掴めない。解っていながら、彼女は空に手を伸ばす。
空を掴んでは下に落ちていく手。それはまるで舞っているようで、それだけで美しい。
「空は遠いよ。だから求める」
どれだけ高いところに行っても、どれだけ空に近付いてみても、空には届かない
舞う手を見つめながら、彼はそっと呟く。
「求め、すぎるくらいに」
呟きは彼女の耳に届かなかったようだ。訝しげな顔で彼を見つめている。
「なんでもないよ」
おどけたように肩を竦めて笑ってみせると、それにつられて彼女も笑った。
二人で笑って、同時に無表情になる。
「不思議だね」
彼女が言って、風が吹いた。言葉をかき消し、かき回すように。
「何が?」
それでもなんとか彼女の声を聞こうとした。拾おうとした。
けれど
「――――――、」
なにも、聞こえなかった。
そして風が強く、激しくなっていく。
彼女が消える、失える、無える。
最後にはっきり聞こえた声は。
「またね」
消える世界にさようなら。そして、またいつか。
閲覧ありがとうございました!
小学生とか中学生の時は小説は主にノートでときたま作文用紙に書いていました。
本作は偶然にも作文用紙を使う予定があり、引っ張り出してきたら中に入っていたのでほんの一部だけ変えて掲載しました。
下手したら今の自分より書けてるんじゃ……? とか思ったり、思わなかったり。