第八話
そして、次の日にギギ達がその写真に関して、何も言わなかったのはこういう事だったのだろうかと思った。
「ええ、転校生を紹介します」
担任だけじゃない、このクラスの生徒達は『またか』という雰囲気を感じ取る。
「入って来なさい」
それは、やって来たのである。
「アリア・フレイヤット・バイスです」
三枚の内の一人の女性に自分は思わず、後ろに鎮座しているギギを見たのは言うまでもない。
外人だがモデルのような容姿に、その流暢な日本語は周りを華やかにさせる辺りはギギとは違うが、自分は関係者なのだろうかと、そう思っていると自己紹介はあっという間に終わったらしく。
紹介された席に向かって行った。
自分の遠隣り、だったのだが…。
「……」
その時に自分を睨まれていたのを、その時の自分は知る由もなかった。
そして、休憩時間になる。
「なあ、こういうのを差別と言わないのか?」
ギギは『バフンッ』と蒸気を上げていた。
「無理無いって、あの容姿に、まるで優等生を絵に描いたような授業態度、周りに良い印象を与えるよ」
「それなら、オレだってやってた」
「お前は授業態度だけだろう?」
「人は外見で判断するとは良く言ったものだな」
トイレの芳香剤のような、お前に言われたくないだろう。
その時にもアリアは転校初日の独特に他の生徒に囲まれ出すが、そちらに目を向ける事無くこちらにやって来て、まるでどこかの貴族のようなお辞儀をして言った。
「ギルルル・ギッタン・ギメルリ・ギギー…様」
それも、あの長ったるい名前を丁寧に答えながら。
「お会いできて光栄ですわ」
ギギが意図的に黙り込んで反応をみせるので、不愉快にしていた事だけはわかる。
「やっぱり現れたか、まさか、こんな手段でやって来るとは思わなかったよ」 「とんでもございません。
ギルルル・ギッタン・ギメルリ…様に、地上の良さを知らせるのはこれくらいやってのけますわ」
「ギギと呼べ、お前達は担当じゃないだろう。
担当者はこのサトルだ」
妙な緊張感が、このギギから発せられていた。
そして、ここでこの彼女が自分に敵意を向けていた事に、この時に始めて気付いた。
「このような下賎なモノが…。
私どもは納得出来るワケありませんわ。
ギルルル・ギッタン・ギメルリ…様、者どもを代表させて言わせてもらいますが、私どもは断固、抗議しますわ」
ギギはずっと黙っていた。
そして、この事が彼女にとって一人が騒がしくさせた事を浮き彫りにさせる形となった。
そのまま席に戻っていき、ギギもアリアもお互い機嫌が悪いままだった。
だが、これが思わぬ恩恵を呼ぶ事になる。
「な、なあ、何なんだよ…」
昼休みになると、誰かが声を掛けて来たのだ。
「誰だ?」
「誰だって、お前な…。
同じクラスだろう、喜多村 タクゾウ。
サトルの知り合いだよ」
まだ恐る恐るではあるがギギを見て、タクゾウは掛けていたメガネを掛けなおしていた。
多分ではあるが、先ほどのやりとりで親近感を覚えたのだろう。
「察してくれよ…」
申し訳なさそうに自分を見ていたが、この憎めない性格は、高校入学以来の付き合いなので。
「…んで、俺と小山と、このサンペイとこの戸隠町にある。
戸隠高校二年の腐れ縁ってヤツさ」
そう自己紹介をすませていると、もう一人、この小太りの男、サンペイは嫌そうに言った。
「何でオレだけ名前で呼ぶんだよ?」
「だってお前の名前、良子 サンペイじゃねえか?
苗字で呼んだら、どれだけの良子さんが振り向くと思ってんだ。
一応、遠慮はしてんだぞ?」
そして名前も親の釣り好きが災いして名づけられたという逸話を持つ、サンペイは不服そうにしながらだが。
「…なあ、小山、昼飯一緒に食おうぜ?
ど、どうした…」
自分にとってようやく声を掛けてくれた事は、よほど嬉しく。
「涙が出そうになった」
「いや、もう出てるって。
ギギも一緒に、どうだ…?」
「いいのか?」
「ここで一人で飯を喰うのは、味気ないだろ?」
「そうだな、てか、階段上れんのか?」
喜多村はふと疑問を浮かべていたが、サンペイは言う。
「お前は、ここが二階だという事を忘れてないか?」
とりあえず二人は昼飯前に、このヘルメットに詰め込まれた高等技術を見る事となるだろう。
「器用だな…」
階段を滑らかにホバリングで上り、屋上にある両開きの扉をギギは器用に開けるのを見て、喜多村はそう感想を漏らす。
それを見ていた、外野は驚いて道を開けるのは相変わらずだが、自分達がいつも集まるベンチにたどり着いた。
「おお、何もかも懐かしい…」
「小山、お前、この数日で歳をとったな…?」