第三話
直径二メートル、そこにあるマンホールは、まるで演劇場の演出に使われる奈落を思わせる。
しかし、そこに現れたのは役者ではない。
ヘルメットだった。
いや、言い方が悪いだろう。
そう、これは…。
ヘルメットだった。
仕方が無いじゃないか、だって、そこにヘルメットがあるのですもの。
ではこう言えば良いのだろうか?
自分の身長より少し低く、横幅は1メートルほどだろうか…。
「とんでもなく大きなヘルメットですが、何ですかこれ?」
小林総理にそうは聞くものの、何かしらの嫌な予感があった。
何を隠そうこのヘルメットには、照明であろう横一文字のライトはまるで人間の目の様な雰囲気があり。
下の辺りに、口のような排気口、このヘルメットはまるで人間の顔を模していたのだから。
「…まさか、これがホームステイ?」
なので、自然とこんな質問してしまう。
だが、まだ自分の頭の中には、あの排気口は開くものだと。
何かしらの出入り口なのだと思う『救い』みたいな考えもまだあった。
『始めまして、今日から、お世話になります』
しかし、そんな字幕が、ヘルメットの表面の周囲をグルグルと回りだして、自分の中の残っていた救いを見事に打ち壊す。
そして、自分が…いや、家族一同がなんでこんな事になったのか、説明が始まった。
「あ、あの、つ、つまり地上の現在の文化レベルが上がったのを確かめるために、地底のこの方を住まわせたいと言いたいのですか…?」
自分の父である、小山 ナオトが、総理大臣の隣に座っている…のか、そのままでいるヘルメットを見つめ、大統領達も見て恐る恐る質問する。
すると総理大臣が頷き、通訳を受けた各国大統領は頷いていく。
「あの…見てのとおり、一般的な家庭なんですよ…。
だから、何の…」
『収穫も無いと思いますよ?』と小さく聞く父の姿勢は、小さかった。
しかし、この状況、誰がどう見ても『受けざるおえない』状況だった。
そんな中で、ここまで質問をするのだから、自分の父親が大きく見えたのは言うまでも無い。
だが、一般市民とは余りにも無力だった…。
「ここからは私が説明しようと言ってます」
その『受けざるおえない』状況にすべく、最大の刺客が口を挟んで来たのだ。
「……」
美人な通訳が父に微笑みかけるように言った。
その微笑に父はだらしなく笑みを浮かべる、しかし、父は顔はすぐに血の気が引いた。
息子である自分にも、顔に諦めの色があった。
総理大臣を退けて、そのまま席に座ったのは、某ユナイテッドステイツ、黒人の大統領ナバトだったのだから。
「突然なのはわかりますが、今までは確かに家柄、資産うんぬんで国家レベル…。
いえ、世界レベルで選出して、ホームステイ先を決めてました。
ですが、地底側から『それは地上の文化レベルを計る上で、ホントにフェアなのか?』と質問を受けたのです」
大統領の威風堂々とした英語を典型的なブロンド美女が通訳して、自分達に説明を始める。
「フェアって、公平ではないという事でしょうか?」
緊張も手伝って思わず父は、大統領ではなく通訳にそう聞いた。
しかし、彼女は大統領の言葉の後で、冷静に対処する。
「こういう場合は、大統領を見て質問をしてください。
貴方でも経験はあるはずです。
大事な客人が、家にやってくる時は掃除をしたり、少しでも見栄えを良くするような事が…。
その姿勢は確かに私達にもあって、今まで君たちもそう言った人達の元で私達をホームステイ先を決めている事を黙っていた。
だが、そう言った概念を取り払ってこそ、初めて文化レベルを計れるモノではないのか?
次回からは一般的な家庭を、こちらから選ばせてもらう事にする。
というのが地底側の要望なのです。
そして、地底のコンピューターがはじき出した結果…。
貴方達が選ばれたのです」
後でこの通訳の名前はローリィさんとわかったが、余りにも現実離れした説明に少し目眩を覚えていた。