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神様も人間の家族がいます

 神代光、十七歳。凡庸を結晶化したような顔プラス中肉中背という何とも平凡な容姿。髪型くらいはインパクトを持たせようと元々黒かった髪をピンクに染めた結果、艶やか過ぎてむしろ気持ち悪いと思える仕上がりになってしまった。

 それが今の俺である。

 なぜに美の女神(妹)すらも嫉妬すると言われた超絶美形だったはずの俺がこんな感じで生まれたのかわからないが、遺伝ではないことは確かだ。

 なぜなら今の俺には人間社会での家族がいるわけだが、どいつもこいつも一定水準以上の容姿を持つからだ。

 以前の俺なら激しく劣等感を抱いた兄弟の容姿であったが、神だった頃の記憶を取り戻してしまえば鼻で笑う程度のものでしかないと悟る。

 とは言ってもそれを悟ったのは昨日の就寝直前のこと。丁度十七年前に俺が生まれたとされる時間だ。なぜいきなり思い出したのか正確なことはわからない。ただし予測は立てることが出来る。あれもそれもこれも全部神王のせいに違いない。どうせ今も暇だからとか言ってちょくちょく覗き見てるんだろうなと思うとげんなりしてくる。

 まさか記憶を封じられるとは思っていなかった。いや、封じられていたのは記憶だけではない。どうやら俺の神としての能力までも封じられていたようだ。まったくもって忌々しい。そのせいで俺は苦労しているというのに……


 ベッドに横たえていた体を起こし、ハンガーにかけてあった制服に着替える。そう、俺は現在学生という身分だ。真っ白な学ランを着た姿はお世辞にも似合っているとは言いがたい。ぶっちゃけると俺はこの制服が好きではない。だってカレーうどんを食べると悲惨なことになるからな。


 着替え終わった俺は自分の部屋から出て、顔を洗うべく洗面台へと足を向ける。俺の住む家は一般的な広さを持つ一軒家であり、一階は両親の部屋やリビング、キッチン、風呂、トイレットがあり、二階に俺と兄弟の部屋、物置と化した部屋がある。階段を降りたところからはリビングが見え、そこにはすでに登校する準備を終えた我が兄が新聞を片手にコーヒーをすすっていた。

 神代拓弥(かみしろたくや)俺と年子の兄であり、俺の通う学園で生徒会の副会長を務める秀才。光の加減で金色に見えなくもない綺麗な茶髪に整った顔立ち、頭いい奴がもれなくかけているインテリ眼鏡。すらりと伸びた足を組む姿がよく似合っている。これがカッコつけではなく本当に頭が良いのだから非常に腹が立ったものだ。

 しかしそれも昨日までの話。フハハハ、今の俺には粋がっている小僧にしか見えん。


「ようやく起きたかクズめ。まったく、飯を食って寝ることだけは人より優れているのだな」


 俺に気付いた拓弥が声をかけてくる。拓弥は俺を嫌っている。なぜなら俺は学園でも最低ランクの成績をたたき出す劣等生だからだ。それもこれも神の能力を封じられていたからに過ぎない。だがそんなことは拓弥はおろか俺でさえ昨日知ったばかりなのだから仕方ない。別にこいつに好かれたいわけでもないのでどうでもいいことだ。


「お前は兄に朝の挨拶をするという脳のメモリーも不足しているのか。まったく、お前は本当に我が家の恥部だな」


「おはよ」


「ふん、今更挨拶をするとはな。人に言われなければ行動に移せないようならとんだ大間抜けだ。いますぐその生命活動を停止したほうがよっぽど世のためになる」


 逆にお前の生命活動を停止させてやろうか。覚醒した俺の神の能力の一つの『君に注ぐ熱視線(目からビーム)』で……

 いや、やめておこう。俺は神だ。クールにいこうぜベイベー。


「さっさと顔を洗って来いのろま。せっかく僕が用意してやった朝食が冷めてしまう。ただでさえお前に食されるという残飯にも等しい扱いをされた食材が本当に残飯になってしまう」


 これはたかだか人間という矮小な存在が言った言葉であり気にすることはない。気にしちゃダメだ気にしちゃダメだ気にしちゃダメだ気にしちゃダメなんだ。


 なんとか気を落ち着けて顔を洗い終えた俺は一人分の食事の用意されたダイニングのテーブルにつく。

 なるほど、今日の朝食はステーキにサラダ、オニオンスープにパンか。うまそうじゃないか。

 ステーキにナイフを入れて切り分け、口に運ぶ。溶けるようにして噛まずに口に消えてしまったような錯覚に陥る。マジでうまい。人間になって得をしたと思えるのは食事という楽しみを知ることが出来たことだな。神は食事を必要としないからこんなに楽しいことをしたことはなかった。一応知識では曾遊行為があるということだけ知っていたくらいだ。

 一心不乱に食べ続けるとあっという間に平らげてしまっていた。


「お前が食事をするさまはまるで犬のようだな。意地汚いとしか言いようがない。そら、僕が豆から厳選して炒れたコーヒーだ、ありがたく飲むがいい。だが勘違いするな、自分の分のおかわりを入れようとしたら量を間違ってしまったので仕方なくお前に恵んでやるだけだ」


 ちょうど食事を終えたタイミングでコーヒーが入ったカップが目の前に置かれる。俺はそのいつも通りに置かれたコーヒーを一口飲む。うん、これもうまい。正直コーヒーなんて苦くて好きではないのだが拓弥のはいい感じで砂糖とミルクが入っているので飲みやすい。唯一の例外って奴だな。


「ほら、ハンカチとティッシュだ。頭の出来がよろしくないお前でも持ち歩くべきものを持たないなど僕のプライドが許さん。あと、今日の弁当を僕の分を用意するついでに作ってやった。僕の慈悲に感謝しながら昼に食べるがいい。さらに貧乏なお前の財布にわずかだが金を補充してやる。もし、早弁などという愚かな行為に及んで昼に食べるものがないようなら購買だろうと食堂だろうと行くがいい。だが、お前が無駄遣いをしてしまうことを予期している僕の思考を甘く見るな。お前が最新型の通信デバイスを衝動的に購入しようとも十分な金額をすでに財布に仕込んであるのだからな」


 拓弥が嫌味ったらしく言ってくる。毎朝のように繰り返される言葉に辟易とする。拓弥は学園でも劣等性である俺がこれ以上恥を晒せば自分の評価のマイナスになると思いこのように干渉してくる。こいつは本当に俺が嫌いなのだ。


「そういえば親父たちは?」


「父さんも母さんもすでに仕事に行った。惰眠をむさぼるお前と一緒にするな」


祐樹(ゆうき)もか?」


「……さあ?僕は知らん。秀才の僕でも全知全能ではない。だが、ひとつ確かなのは僕がお前より優れていることだ。それよりもさっさと学園に向かうぞ。さあ、お兄ちゃんについてこい」


 そう言うと拓弥は鞄を持って玄関へと向かう。渋々ながら俺もあとに続く。本当は一緒に行く必要はまったくないのだが拓弥は俺が学園をサボることを危惧しているらしく頑として別々に登校することを認めない。それは生徒会の用事で自分が早く出なければいけないときも例外ではない。そんなのに付き合わされて朝早くに起こされるこちらはたまったものではない。


「やばい!寝坊したーーっ!!」


 玄関で靴を履き替えているとそんなことを叫びながら階段を駆け下りてくる存在がいる。拓弥によく似た整った顔立ちに寝起きで爆発したような頭を携えた少年。奴は俺の弟である祐樹だ。同じ学園の一つ下の学年に在籍している。


「なんだ祐樹いたのか早くしないと遅刻するぞ」


 拓弥が俺に対するものとはまったく違った態度で祐樹に話しかける。


「お、兄ちゃん達おはよう。ってゆーか起こしてよ!」


「善処しよう。ところでなぜ下半身に何も着用していないんだ?」


 その言葉の通り祐樹の下半身は丸出し状態だ。


「きゃ、い、いいじゃん。関係ないじゃん。別に昨日一人でシコシコしてそのまま寝たとかじゃないんだからな」


「そうか、それでは遅れないようにな。さ、光行くぞ」


 話は終わったとばかりに拓弥は祐樹に背を向けて玄関の扉を開けて外へと出て行く。自分勝手を絵に描いたような奴だ。さて、俺も行くか。拓弥に遅れると何を言われるかわからん。


「兄ちゃん兄ちゃん……」


 そう思った瞬間祐樹に声をかけられる。


「なんだ?」


「実はさっきのは嘘で、オレ本当は一人で奮闘してそのまんま寝ちゃったからこんな格好なんだ……」


 凄く深刻な顔でそんなこと言われてどう返せばいいんだ?つかどうでもいいし、そもそもわかってたからな!!


「いってきます」


 オレはそのまま外に出た。

 本日は快晴なり。

 天気もそうだが弟の頭の中もな……




  

 

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