Level0:表と裏
初めて書く作品です!
構想は全て練っていますが、全て書ききる体力があるかどうかはわかりません…
評価されなくとも、
体力と時間があるうちは書き続けます!
「今日!! 今日は必ず告白するから!!」
「えー、、、 そういってもう3回目だよー。エソらんがそういって優柔不断でいるからクラスのみんなに気づかれるんだって。」
「それはあんたがバラしたからでしょ…!あんたしか私の情事話している人いないんだから!」
「それはイノセント〜。あんたが原田くんの前でもじもじしているからよ。全くたかだか男の子一人にどうしてここまで奥手になれるかね〜」
「何よあんた。六年間よ六年間!!コロコロ鞍替えしてるアバズレ女に私の純っ情を理解されてたまるか!」
「手厳しいぃ、、、火力強くない今日。」
真夏の下の午後四時、校庭脇の自販機の前に立つ、凛と雪のような白に輝くボブカットの女の子、裏室永空。高校3年の夏、彼女は受験勉強が本格的に始動する夏休み最後の登校日に、意中の人にその想いを告げようとしていた。なんてことはない普通の女子高生。夏至の炎天下、地面を犇く陽炎は彼女の感情の昂りを体現しているかのようだ。
「まあ多分これがラストチャンスだろうねー、、、 原田くんの志望校って確か東京でしょ?あの子頭いいもんねー。あんたと違ってさ。」
「ぬう…。私だって本気出せばっ…」
言葉が詰まる。彼女は運動神経では他の追従を許さないが、おつむの方はあまり聡明とはいえない。数学が特に壊滅的である。彼女を分類するならば、いわゆる元気ボーイッシュ系女子の分類だ。活発かつユーモアもあり、その性格故に女子からの信頼も厚く、男子からもピンク色の注目を集めてはいる。もっぱら彼女には中学校からの同級生「原田 要」しか眼中にはない。
「でもいいじゃない。あんたこのまま原田くんが地元の大学行くってなってたら、あんたの大恋愛はもう四年続くこと間違いなしだったよー。女は鮮度が命なんよ。おばあちゃんになって仕舞えばみんな同じ顔になるんだから。そうなる前に決断は早い方が人生何かとうまく行くのよー」
「何よ、タメのくせに偉そうに先輩風吹かせちゃって。多分私、あの人以外を今後好きになることはないと思うのよ… だから、絶対、この告白は成功させなきゃ。」
「出たよシンデレラ症候群。あんたのルックスならロマンスなんてこの先有り余るから、安心して玉砕してこいよー」
玉砕という言葉に永空は深く傷ついた。彼女は少し打たれ弱く小心者。その性格が功をなし、今まで告白するチャンスは幾度かあったものの、すべて不意にしている。
「………やっぱ、無理かなぁ……?」
この世の終わりみたいな泣き顔で無二の親友の栞を見る。栞は適当に流していたのを少し反省した。こうなって仕舞った永空はくどい。
「ってのは冗談で普通に原田くんもあんたのこと絶対悪く思ってないよ。自信持てって。あんたはすぐ顔に出るんだから、そんな顔絶対原田くんに見せんなよ。」
「それ、、本当に思ってるぅ…? グス なんかあしらってない?? グス」
「最悪おっぱい見せてやれ。 男子全員それでいける」
「やっぱり私のこと考えてくれるのは栞しかいないよぉ…ありがとうぅぅ…アバズレとかいってごめんぅぅっ!!!」
永空はバカな上に単純であった。
「そろそろ掃除当番終わるんじゃね? ほら行ってきな。ちゃんと告白したら、カラオケと銭湯いこーや。今日は私の奢り。」
「ありがと。じゃあ行ってくる。」
永空は校庭から裏へと回り、学校の正面玄関にて駆け出した。わずかな希望と抱えきれない想いと重圧を抱えて。正面玄関が見えてきた時にはもう頭の中は空っぽであった。白いモヤが頭に残り、そして『好き』という気持ちだけが永空を突き動かし、すべての行動のガソリンとなって働いていた。最後の緊張を払拭しようと彼女は走りながら、目を3秒ほど閉じた。
ーーー早く会いに行こう。そして、、、ーーー
目を開けると、絶望に満ちた黄色が彼女の視界を支配していた。
ーどうしてこんなことに…ー
永空は自身の未来の可能性が瞬く間に消失していくことを実感し、実感は震えと
あらゆる体液、細胞の極度の緊張に表出していた。人間の命は脆すぎるという現実を、
残酷なまでに叩きつけられている。
目の前には「化け物」という拙い日本語では表現しきれないほどの「何か」が迫る。
ーまだ、、彼に何もいえてないのに…! 動けっ…! 私の足…!!ー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「んえっ」
彼女は情けない声をあげた。当然だ。今まで見慣れた学校風景から目をほんの数秒開閉した
瞬間、その目には見慣れない不気味なまでの黄色で覆われた空間が広がっているのだから。
不思議と目以外の感覚器官から察知した情報は、視覚情報が送られたのちに、数秒遅れて永空の脳を刺激した。湿ったカーペットと木造建築の重厚なカビ臭さ、沈黙が拍車をかける蛍光灯のけたたましく鳴るノイズ、靴越しからでもわかる石畳とは明らかに違うカーペット特有の接地感。全てが学校のそれとはかけ離れている。
「これ… 夢、だよね…? ここ、どこよお?」
パチンっ
自分の頬をビンタする。痛い。夢なんかではなかった。
しかし、今まで経験したことのない感覚に脳は動けずにいた。
「誰、かあ…… いませんか…?」
ジジジジジジジジ
力なき存在証明に応えるのは、空虚で無神経なノイズのみであった。
ここでようやく、恐怖と不安の感情が芽生えはじめる。
「っだ、誰かああ! いませんかあーー!!」
大声でその芽を摘み取ろうとした。明るいことが彼女の数少ない取り柄なのだから。しかし、
残酷にもその声に反応してくれる肉声はどこにも聞こえない。沈黙は不安を煽り、不安は促して恐怖に転じる。永空は今まで経験したことのない静の恐怖に襲われる。
ガチャンッ ザザッ ザッ
「っ! ねえ! 誰かそこにいるの!!」
右の廊下からの物音だ。誰かいる。この恐怖から私を救ってくれる。そう思いながら永空は静の恐怖からの解放を求め一目散に物音のする方へと駆けていく。
「すみませんっー! 助けてくださーい!! ちょっと迷子になっちゃって…」
それは廊下の曲がり角をすぐ曲がった瞬間のことであった。
永空の目に映ったのは異形の「何か」であった。形は人間の様相を呈しているものの、全身は
黒い影モヤに覆われ、本来目がある場所に電球のように輝く眼光が備わっている。人間と呼べるものでは到底なかった。
「っひぃぁあっ!!」
本日二度目の情けない声を上げながら永空は腰を抜かし、安堵を求めた脳は絶望に転じ、完全に恐怖に支配される。こんなものにであって仕舞えばもう助からないだろう。脳はそう直感していた。故のフリーズであった。永空の体は全く動かなかったのである。
ーどうしてこんなことに…ー
ーまだ、、彼に何もいえてないのに…! 動けっ…! 私の足…!!ー
「助けてぇぇぇえ!!!!」
化け物も永空を知覚し、徐々に距離を狭めてくる。動きは緩慢だが踏み込むたびに増長する禍々しいオーラは永空の恐怖を煽る。死がもうそこまで近づいている。彼女はそう予感していた。
ーお父さん、お母さん、栞、、、原田くん……ー
永空は死に追い詰められていることを自覚しつつも、自分以外のことを考えていた。自分がこんなわけのわかんないところで死んだら、育ててくれた両親に対する感謝の念も、無二の親友に対する信頼も、そして恋焦がれていた人に対する想いも、無くなってしまうのか。まだ何も果たせていないのに…
バサっ
その思いが永空を突き動かし、彼女は立ち上がる。
ーこのまま死んでなるものかー
化け物は永空の突然の行動に即して、腹部からくらげの足のような無数の触手を永空に伸ばす。
「ぬああああああ!!!!」
女子らしからぬ声をあげ、踵を返し、ミニスカートだろうがパンツが見えようがお構いなしに一目散に来た道を駆け抜ける。後ろからは無数の触手が捕まえようと伸びてくる。永空は持ち前の運動神経と野生的な勘で伸びる触手を掻い潜る。不思議と彼女に恐怖というものはさほどもうなかった。
曝け出す心さえも、全て生きる力に変えて走り出す。
走って走って走って走りまくった。
1時間くらい走り続けてだろうか、、、
それでも、まるで伸びる距離に際限がないかのように、触手はやってくる。
「いつまで追ってくるのよおぉ…!」
ーこれ以上はもう走れない…ー
永空は死期を悟る。
そして徐々に走るスピードを下げていく。
やれることはやった。自分が本当はすごく生きたかったことが分かっただけでも、自分の人生は誇れるものだと、永空は本気でそう思った。そしてゆっくりと、死を受け入れる覚悟をした。
ーお父さん、お母さん、ごめんね。栞、ありがとう。原田くん、好き。みんな元気でね。ー
ザシュッ
平成27年 7月25日 彼女は死んだ。
「は…?」
少女は様々な感情が入り乱れた一言を吐き出した。吐き出した相手は二人の警察であった。
「大変申し訳ございません。最善を尽くして捜査に三ヶ月尽力してきましたが、現場の手掛かりを検証した結果、本日をもって裏室永空の捜索活動は打ち切りとさせていただきます。ご協力ありがとうございました。」
場所は高校の玄関前。
少女の体に鳥肌が走る。
「ふざけんなよあんたら…!あいつの事を見捨てるのかよ!まだ永空は生きてる!絶対に!
だからもう少しだけ探してくれよ…!」
少女の名前は表迫 撓。行方不明になった永空の無二の親友である。今から三ヶ月前の七月二十八日の午後五時、裏室永空が在籍中の高校内で行方不明になった。連絡が取れなくなってしまい、痺れを切らした撓が永空を探しに学校中を探し回り、それでも見つからなかったために警察に通報したことにより事件は発覚した。そこから約三ヶ月間警察による事情聴取と捜査活動が行われたが、結果は水泡に帰し、今日に至る。
「しかし、これ以上捜査は打ち止めにしろと上からの判断でありまして、我々も非常に遺憾ではありますが、ご理解の程をお願い致します。」
「それをどうにかするのがあんたらの仕事じゃないんけ!?お前らあいつを見殺しにするんか?やってること殺人と変わらんよ!」
「我々は捜査に尽力しました。決定的な証拠と確証がない以上、これ以上の進展はないと
上からの判断です。どうかご理解下さい。」
「いやっ 確かめることならまだあるでしょ!あいつは行方不明になる直前に原田 要に会いに行ったんだよ!しかも、永空が行方不明になったのと同時に、原田も学校に来なくなった!十中八九あいつが怪しいんだよ!」
「再三申し上げた通り、奴は出生情報や全ての経歴が出鱈目でした。そのため原田要は重要参考人として指名手配をしております。今や奴に逃げ場などこの“日本”には存在しません。捜査が進展するまで今しばらくお待ちください。」
「っっ…!くっそ…」
撓の心にはいくつもの感情が互いを助長しあい、それは年頃の少女が維持できるほどの程度を優に超えていた。
悔しさ、寂しさ、悲しさ、憤り、絶望、殺意。
到底計り知れるものではなかった。
警察と別れ沈黙が訪れる。沈黙は彼女の感情を爆発させるには十分であった。撓は年甲斐もなく大声をあげて泣いた。
泣いて泣いて泣いて、涙も枯れ果てた頃、
撓は永空と初めて出会った時のことを思い返した。
撓は転校生であった。小学校五年生の時に親の都合により北海道から東京へと引っ越し、東京の小学校へと転校した。五年生までいた前の学校の友達と一切の関わりを断たれ、新たに友達を作るのは、内気で友達作りが上手い方でもなかった彼女にとってかなりの苦行であった。加えて当時の彼女の同級生らは完全にソトから来た人間を仲間だと認めず、仲間内にと交流の輪を広げてあげるような計らいをする行動力もなかった。総じて彼らのしおりに対する態度はどこかよそよそしく打ち解けようとする雰囲気も気概も毛頭なかった。
「ねえねえ。君って隣のクラスに転校してきた子でしょ?名前なんていうの?」
しかし、永空は違った。分からないことが怖かった当時のマセガキ達とは違い、彼女だけは、クラスが違えどその垣根を超えて声をかけてくれた。
「くぜ しおり…」
「しおりちゃんっていうんだ!私えそら!
しおりちゃんのクラスの隣のクラス!
よろしくね!」
そう言って彼女は手を広げ、ハイタッチを要求してきた。そういった何気ない一言、何気ない所作に彼女はどんなに救われたことか。
そこから永空を介して色々な友達と仲を深めていった。クラスで浮くこともなくなり、永空は撓のちっぽけな世界を鮮やかに変えていった。
ー私が原田を諦められたのも、あんたが原田のこと好きだって言ってきたからよ。けど、
こんなことになるなら、私が先に原田と…ー
永空が撓に初めて恋愛相談をしてきた高校一年の夏を想起する。永空の身代わりになれたかもしれないという後悔が彼女の五体を駆け巡る。
もう死んでしまいたい。校門の前で撓はうずくまる。
ーあなたがいなきゃ、私はこの先、何を希望にして生きればいいの…ー
泣きながら彼女は目を閉じる。
ー絶望とは前触れなく来るものだー
再び目を開けるとそこは、
黄色の空間であった。




