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そこにある光

掲載日:2026/07/15

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶつぶ、あんたさ。身の回りで変わったこととか起きてない?

 いや、別に大々的な事件じゃなくてもいいわ。ちょっとした変化でも、あんたは気にかけることができているかしら?

 子供のころ、大人に守られている間は全然かまいやせずに過ごすことができた。そのために無頓着になっていてもおかしくないわ。でも、いざひとりでいろいろこなすようになると、どれだけのことをやってもらっていたかを、実感する機会が生まれたりね。

 自分がやったことは、やってある。やっていないことは、やっていない。

 当たり前のことだけど、この法則が破られることがあったなら、少し気を付けたほうがいいかもね。

 ちょっと前に、あたしが体験したことなんだけど聞いてみない?


 あれは、今住んでいるところに移ってから、少し経ってからのことだったわ。

 この暑い時期だから、夜に寝る時はカーテンを開けて網戸にして寝るようにしているのよねえ、あたし。

 エアコンもくっついてはいるけれど、自然の風に当たっていないと涼む感じがしないというか。どうも体調を崩しがちなのよねえ、人工の風に当たったあとって。

 だからその夜も、家へ入ってくる風を頼りにうとうとと眠りについたわけなんだけど。


 ふと、目が覚めちゃった。

 あたしって、一度眠ると途中で起きることは滅多にないタチ。だから、まだ寝入って3時間ほどの真夜中だと知ったときは、驚いたわ。

 こういうときは、地震の揺れをいち早く身体が受け取ったケースもあるのだけど、今回はじっとしていても揺れがやってこない。

 起きるにはさすがに早いし、二度寝というのもあたしはあまり好きじゃなかったわ。半端に区切られた睡眠時間を経て、もたらされるパフォーマンスは決して高いものじゃなかったから。

 それでも寝不足よりはマシかな……と、気乗りしないまま目を閉じたんだけど、どうにも寝付けない。


 風がやんでしまって、部屋の中がむわっとしているばかりじゃない。

 なんか、やたらと明るいの。

 分かるでしょ? 目をつむっていても周りの暗さや明るさって。部屋中の照明は落としているし、最初に寝入ったときには閉じた視界の中でも、暗さを実感できたわ。

 なのに今回は、つむった視界がやたらと白い。明るさを強く感じたの。

 いったん起きてから、またまぶたを閉じるまで、明かりをつけるどころか余計なものは目に入れていないはず。それがどうして、ここまで差ができる?

 不審に思いながら、再び目を開けるあたし。布団へ潜ったまま、ゆっくりと視線だけを動かして部屋を見やったわ。


 そして、気づいたの。

 開きっぱなしにしている、部屋のカーテン。そのあたしの頭に近い側のカーテンの表面に光が浮かんでいるのを。

 外からの光とは考えづらい。端へ寄せたカーテンは雨戸が重なる方向で、外から光が当たらない。かといって、部屋の内側からの光源がほとんどないのは、あたしが確かめられている。

 にもかかわらず、カーテンの生地中央に白い十字架らしき模様が浮かんでいたの。

 あたしがくっつけた覚えはない。汚れにしては、あまりにきれいにつき過ぎている。そしてこの光ないはずの闇の中で、それが放つものはあまりにまぶしかった。

 当然、寝る前にこのようなものはなかったわ。あたしは気味悪く思いながらも起き上がって、十字架の部分をまじまじと見つめたわ。

 そこでふと、指を伸ばして十字架の端っこからこそぎ落とすように動かしたの。


 それは、まるでシールをはがすかのような手触りだったわ。指へぴとりと張り付きながら、十字架はきれいに取れる。

 けれども、次の瞬間。部屋の全部が真っ暗闇に沈むとともに、あたしの足元の感覚が失せる。

 うっすらと見えていた家具たちの影はなく、足下を支えてくれていたフローリングの感触も消えて、身体が落ちようとしていたの。

 とっさに、サッシふちの部分にしがみつけたのは幸運だったわ。理解は追い付かないけれど、何をするべきかは反射的に分かったわ。

 ぐっと身体を引き上げたあたしは、手に張りついている十字架をカーテンに張り付け直す。すると、あたしの部屋の家具たちが目に見えるようになって、床も元通りに戻ったの。


 その不思議な体験は一度きり。また引っ越しを検討しているところ。

 でもあのことがあってから、考えるようになったわ。あたしたちとそれを取り巻くものって、本当に存在しているのかしらね?

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