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ちくわ純文学

ちくわだから。

掲載日:2026/06/27


「どうして、僕の身体には穴が空いてるんだろう……」


 ちくわは、鏡を見つめながらため息をついた。


 幼い頃、両親に聞いたことがある。

 でも、呆れたような諦めたような顔をするばかり。

 今の僕と同じように、ため息をつきながら返事をされた。


 ――だって、ちくわなんだから当たり前でしょ?


「他の練り物(みんな)は、穴なんてないのに……」

「ちくわー!? 起きてるのー? 笹かまくん来たわよー?」

「今行く!」


 階段下で声を上げる母さんに返事をする。

 雑に鞄を拾い上げると、焼き目を少し整え部屋を出た。




「はよー、ちくわ」

「おはよう、笹かまくん」

「何朝からシケた面してんだよ」

「うん、ちょっとね……」


 笹かまくんは、僕の数少ない友達の1練り。

 コミュ力が高くて、察しがいい。

 よくお土産なんかに選ばれている人気者だ。

 

 そんな彼が、なぜ僕なんかと仲良くしてくれているのか、昔から不思議でたまらない。

 ただ、理由を聞いてしまったら惨めになりそうで、聞いたことはないんだけれど。


「悩み事かー?」

「まぁ、そんなところかな」


 無理に笑って返事をすると、笹かまくんが唇を尖らせた。


「幼馴染で大親友の俺にも言えないのかよ」


 ……キミだから言えないんだよ。


 そんな、ちょっと苦しい思いを飲み込む。

 だって、笹かまくんは本当にいい奴なんだ。

 人気をひけらかしたりもせず、誰とでも仲良くなれる。

 

 僕自身が、この空いた穴のように空虚なだけで——。


「まあいいや! 無理に聞いてもしゃーないしな!」


 そう笑うと、彼は話題を変えた。

 

 こういうところが人気の理由だろう。

 少し複雑に思いながらも、僕は隣を歩いた。



 

「おはよ、2練りとも」

「はよー、お前いつも早いな」

「そっちがギリギリなんだろう?」


 教室に入ると、いつメンの1練りであるはんぺんくんが僕たちに声をかけてきた。

 人当たりがよく、それでいて吸収()もいい。

 そんな彼は、いろんな場面で引っ張りだこだ。


 ……いいなぁ、はんぺんくんは。

 色白だし、口当たりがなめらかで、出汁も染みやすい。

 もちろん、穴なんか空いてないし。


「どうした? ちくわ」

「ううん。なんでもないよ、はんぺんくん……うわっ!!」


 ふいに背に重みを感じた。

 振り向くと、かまぼこくんがツヤツヤと笑っている。


「うっす! なんの話ー?」

「はよー、かまぼこ」

「おはよ、なんかちくわが元気なくてさ」

「はぁ!? なんだ!? 悩み事か!?」


 ぶんぶんと、かまぼこくんに身体を揺さぶられた。

 彼の圧倒的な弾力に、ちくわの僕は大きく揺れる。


 彼もいつメンの1練りだ。

 紅白の粋な見た目は、祝い事に招かれることも多い。

 そのためか、普段からテンションがちょっと高めだ。

 

 一方、穴が空き、地味で庶民派の僕はだいたいローテンション……。


「ちくわ! どうしちまったんだよ!!」

「お前が揺さぶるからだろ!!

 ちくわは俺らに比べて身体が弱いんだから、加減しろよ!!」

「俺もさすがにその力で揺さぶられたら、ちぎれる自信しかないわ……」


 笹かまくんがかまぼこくんを叱り、はんぺんくんが自らの身体をさする。

 僕の友達はとても優しくて、とても賑やかで、とてもいい練り物たちだ。




「——ですので、姿形は違えどみなさんは我が校の練り物()です。

 夏休みに入っても、その誇りを忘れずに生活してください」


 全校集会。

 毎年同じように、校長先生が挨拶をする。


「……姿形は違えど、ねぇ」


 それが1番問題なんだけどなぁ……。


 ちらっと辺りを見渡す。

 僕と同じちくわである子は、やはり同じように穴が空いていた。


「……気にならないのかな」

「なにがー?」

「わあっ!!」


 突然耳元で声をかけられ、僕は飛び退く。


「悪い悪い! そんな驚くと思わなくてさー!」


 かまぼこくんがニシシと笑っている。

 どうやら全校集会は終わっていたようで、生徒たちはぞろぞろと移動し始めていた。


「そんでー? 何が気にならないのかって?」

「あ……、えっと……」


 変だと思われないだろうか。

 ちくわなのに、穴を気にしてるなんて。


 だけど、誰かに聞いてほしいとも思っていた。

 気にすんなよ! って、励ましてほしかったのかもしれない。

 

 不安と緊張で、穴が塞がるほどに身が締まる。


「……僕、穴が空いてるでしょ?

 他の練り物(みんな)には、なくていいなぁって……」


 僕の言葉に、かまぼこくんが目を皿のように丸くする。


 やっぱり……、僕がおかしいんだ……。


 口にしてしまったことを後悔した。

 父さんや母さんが言うように、穴が空いてるのが当たり前。

 僕のように、疑問に思うのがおかしいんだ。


 だけど、かまぼこくんは僕の肩を抱くと楽しそうに笑った。


「そういやお前、穴空いてるな! 気にしたことなかったぜ!」

「え……?」

「もしかして、そんなこと気にして元気なかったのか?」

「笹かま……。相手が気にしていることを、そんななんて言うなよ……」


 いつの間にか、笹かまくんもはんぺんくんも集まっていた。

 誰かに聞いてほしかっただけなのに、僕の悩みはいつメン全員に伝わってしまったようだ。


「あ……、えっと……、その……」


 どう誤魔化したら、笑いに変えられるだろうか。

 必死で考えるが、こういうときに限って頭は全く働かない。

 

 それどころか、頭はどんどん白くなっていくばかり。

 まるで空っぽな僕を嘲笑うかのようだ。


「そんなん言ったらさ、俺はお前が羨ましいけどなー」


 笹かまくんが、頭の後ろで手を組む。


「俺なんか、土産で選ばれはするけどさ、冷蔵庫に常駐とかないぜ?

 あ、たまに食うの忘れられて、もう期限切れたとかはあるけどな!」


 笹かまくんの言葉に、はんぺんくんも頷く。


「そうだね。俺も煮物やらおでんに呼ばれることはあるけれど、天ぷらには呼ばれないし。

 そもそも生食できることを、知られていない場合もあるくらいだから」


 自嘲気味に笑う彼の言葉に、かまぼこくんも乗っかる。

 

「そうそう!! 俺なんかさー、ほぼ出番ないぜ!?

 うどんとか、そばとか? 稀に呼ばれるけどさ!!

 祝い事も呼ばれるけど、ちょっとよ? ほんの数切れ!!」


 かまぼこくんの悲痛な叫びに、他の2人が首を縦に振る。


「要するに、ちくわにはちくわのいいとこがあんじゃん!

 冷蔵庫常備!! 天ぷら、サラダ、煮物、おでん、つまみ、そのまま食える!!」

「おい、かまぼこ! そのまま食えるって雑かよ!

 それに、俺たち全員そのまま食えるじゃねーか!」


 かまぼこくんと笹かまくんがぎゃいぎゃい騒いでいる。

 それを見ていた僕の隣に、はんぺんくんが並んだ。

 

「チーズ包んだり、きゅうり包んだり、俺はちくわの穴が羨ましいよ。

 俺たちもチーズ入りとかはあるけれど、消費者が手軽にアレンジできるのがちくわの良さだと思うな」


 穴が僕の良さ……?

 そんな風に、考えたことなかった。

 僕の穴は、僕の欠けている部分だと思っていた。

 

 それどころか、僕も父さんや母さんと同じだった。


 笹かまくんは、お土産で人気者だから。

 はんぺんくんは、吸収()がいいから。

 かまぼこくんは、紅白で華やかだから。


 これも、僕が勝手にそういう物(当たり前)と思っていただけだ。

 見えているところにばかり目がいって、みんなのことを勝手に羨ましがって……。

 僕が穴で悩んでいるように、みんなにも悩んでいることがあるんだ。


 みんなの良いところが個性であるように、僕の穴も個性なのかもしれない。

 気に入らなくても、好きになれなくても、きっと僕にしかないものなんだ——。


「……そっか、ありがとう」

 

 静かな僕の言葉に、3練りが嬉しそうに笑う。


「よし! じゃあ明日から夏休みだし、予定立てようぜ!!」

「あ、俺お盆はパス。その時期は贈答品で忙しいんだよ……」

「なら、笹かまが忙しくなる前に予定を立てようか」

「「さすが、はんぺん!!」」


 ハモるかまぼこくんと笹かまくんの言葉に、僕は思わず吹き出す。


「ほら、ちくわの予定も教えろよ!!」


 かまぼこくんの言葉に、2練りが僕を見つめる。

 僕は大きく息を吸うと、3練りに向かって笑顔で答えた。


「僕、冷蔵庫の常備品だからいつでもいいよ!」



 

 おやまはちくわ食べたの1年前くらいです。


 こんなに練り物のことを書いていますが、あまり好んでは食べません。

 なぜでしょうね。わかりません。


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― 新着の感想 ―
はんぺんはフライにしても美味いよ 間にハムやチーズを挟んで揚げましょう
ちくわを崇めよ! うちは冷蔵庫に常駐してます! ちくわくんの、成長を楽しみにしています!
練りも、そうですが 吸収(あたま)とかツヤツヤ笑うとか センスが凄いんですよ 第3弾も待ってます!
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