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神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
学生生活

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7/21

稗田さん

寄宿舎の部屋に戻ると、制服を脱いでベッドに潜り込んだ。


 その日は、久しぶりに夢を見た。

 俺の――思い出したくもない過去の夢を。

 俺は、小さい頃から、孤独だった。


 両親は若くして火事で亡くなった。なぜか、一人っ子の俺だけが助かったらしい。

 幼い俺は風呂場に逃げ込み、奇跡的に生き延びたという。


 その時の記憶は、煙の中に溶けてしまったように曖昧だ。

 そして、一人暮らしの祖母に引き取られた。


 祖母は他人との関わりを持たない人で、俺は親戚を誰一人知らなかった。

 その祖母は、なぜか俺にだけ厳しかった。

 俺が“見えるもの”について話すと、決まって顔をしかめ、気味悪がった。


 やがて、必要最低限の言葉しか交わされなくなり、俺は蔵に閉じ込められた。

 そこには座敷牢があり、簡易なトイレと小窓がついていた。


 食事の時間になると、牢の扉から膳が差し入れられた。

「まるで、独房だったな」

 まあ、その蔵にあったのは、金鳥玉兎集とか、難解な古書ばかりだった。


「物心がついた時には、もう写本をしていたな」

 まあ、それしかすることがなかったし。

 近所に遊ぶ友達もいなかった。


 俺という存在は、祖母以外、誰も認識していなかったし、外出なんて許されなかった。

「まあ、飯は食えたからな。米だけだけど」

 ……それは言い過ぎか。


 でもそのせいか、同級生より一回り小さい。

 今は必死に食って、大きくなろうとしてるけどな。


 義務教育ということで、学校に通えるようになった。役所のおかげだ。

 だが、俺の孤独は変わらなかった。

 “見えるもの”の話をすると、次第に友人たちは離れていったからだ。


 もちろん、勉強もできなかった。

「お前と話すなって」

「それにお前、いつも同じ服を着て汚いしな」

「馬鹿が移ると言われるしな」


 そうだ。あの頃の俺は、靴はサンダル、サイズの合わない大人の服を着て替えもなく、

 風呂に入ることもなかった。


 俺は蔵から通い、蔵に帰る。

 祖母が鍵をかけ、外には出られない。

 まるで、世界の端で生きているようだった。


 見かねた先生たちが筆記用具や体操服をくれた。気を回してくれる大人もいた。

 それで、なんとかやっていけた。

 風呂代わりは川だった。


 冬場は修行になるけど、もちろん入らない。風邪なんてひいても、誰も助けてくれないからね。


 俺も次第に世の中のことがわかってきて、

 余分なこと――とくに“見えるもの”の話は他人にしなくなった。


 今にして思えば、祖母という人間が、自分と血のつながりがあるとは到底思えない。

 ただ、俺を殺すことだけはしなかった。


 その老婆は、ある時、殺されて死んだ。

 そして、俺は再び引き取られた。

 紅葉が「優しい」といった保名先生のもとへ――。


 夢の中の炎が消えると、朝の光が差し込んできた。遠くで鳥の声がする。

 目を開けると、寄宿舎の天井。


 現実が、ゆっくりと戻ってくる。

「学校のお時間です、清明様」

 白鈴の声が、やわらかく響く。


「うるさい、白鈴……」

 俺の耳元で、もう一つの声が被さった。

「へ?」

 目を開けると、俺のベッドに少女が寝ていた。


「太陰⁉︎ ここ、男子寮だぞ!」

「それがどうかした? 月も沈んでるし、眠いんだから起こさないでよ……」


 彼女は、白菊が手配しただろう白い絹の寝衣で丸くなっている。

 ……おいおい、完全にリラックスしてやがる。


「はあぁ……」

 俺はため息をつき、洗面所へ向かった。

 太陰を呼び出しているだけで、使役はしていない。


 まだ、そこまでの力は俺にはない。

「行ってきます」

「ちゃんとご飯、食べなさいよ!」

 寝室から、のんびりした太陰の声が響いた。


 食堂へ行って、朝食を取る。

 バイキング形式だ。

 やけくそ気味に皿へ山盛りに盛った。

「朝から食欲があるな!」


 声をかけてきたのは、朝練帰りの賀茂だ。

「食べないと持たないからな!」

 十二天将のような式神は、呼び出しているだけでも霊力を消費する。


 今の俺には、二体が限界だ。

 一体でも、身体が怠い。

 体力と霊力には直接の関係はないと思うけど、少なくとも健康である方がいい。


 この学校は、少人数クラス制で、一クラスが少ない。

 それなりに生徒数はいるんだけど、まあ、諸般の事情があって。


 俺のクラスは比較的大人しい生徒ばかりで、生徒数は十二人だ。

 授業中、睡眠学習している俺を起こすのは出雲だ。


 陽キャの制服を着崩した、おしゃれな女子。ダンス部の天才ダンサーだ。

「ねえ、清明。稗田様、今日も図書室にいるの?」


「……だと思うけどな」

「だってさ!」

「じゃあ本、借りに行こ!」

 俺の周りに、クラスの女子全員が集まっている。


 別に俺が人気なわけじゃない。

 彼女たちは、稗田のことを知りたいだけだ。


「眼鏡っ子が好きなら、うちにもクラス委員長の辛島女史がいるじゃん!」

 俺が冗談を言った瞬間、女子全員から冷たい視線が突き刺さった。


 ああ、この感じ……俺には心地いい。

「阿部くんは、馬鹿なのですか? 彼女たちにとって稗田さんは“崇敬の対象”ですよ」


 卜部が、眼鏡の奥から呆れ顔で言う。

「あ? お前だって眼鏡男子じゃん!」

 女子たちの視線がさらに鋭くなる。


 ……命の危険を感じた俺は、反射的に席を立った。

「本、借りに来たら、受付は稗田さんにしてもらうから許してくれ!」


 どうだ、俺の捨て台詞。完璧だろ

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