表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
学生生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/21

太陰

俺は寄宿舎の部屋に戻ると、引き出しから人型の紙を取り出した。

「これ、バレたら怒られるんだよな」


 鉄輪の捜索に、式神を使うつもりだった。

「お待ちください、清明様」

 鈴の音が鳴り、白小袖に浅葱の袴を着たおかっぱ頭の童子が現れる。白鈴だ。


「どうした、白鈴」

「清明様は輪廻の中でご記憶を失っておられますが、紅葉様にはお会いになっています」

「そうなのか?」

 白鈴の話によると、俺は紅葉に術を教えたことがあるらしい。


「じゃあ、仲が良かったのか?」

「そう思います。ですが、紅葉様は嫉妬に狂われて鬼と化しました」

「え、俺そんなにモテるのか」

「すみません。お相手は主様ではございません」


「……そうかよ」

 鬼の一族。

 この学校でも一大勢力を築いている。油断はできないし、揉めたら大変だ。


「ですので、慎重にご対応を!」

「そういうことなら、奴らを呼ぶしかないな」

 俺は人型の紙を引き出しに戻し、壁に掛けてあったリュックを手に取った。靴を履く。

 白鈴が小さくため息をつく。


「はぁ……お姉様、どうしましょう」

 その声に応えるように、空気がゆらりと揺れ、もう一人、童女が姿を現した。


 白袴に薄紅の小袖。切れ長の瞳を持つ、白鈴より少し年上の少女――白菊だ。

 彼女は何も言わず、ただじっと俺を見つめている。無口な性分らしい。


「白菊、安心しろ。呼び出すのは太陰だ」

 その名を聞いた瞬間、白菊の肩がびくりと震えた。だが、何も言わずに小さく頷く。

 俺は部屋を出て、夜の寮を抜け、裏手の山へと向かった。そこには古い社がある。


 普段の運動不足がたたって、すぐに息が上がる。白鈴たちは少し後ろを歩き、黙ってついてくる。護衛のつもりだろう。


「わざわざ登らなくても……」

 白鈴が辺りを見回しながら言った。

「いや、他の森は別の奴らの領域だ。夜に入れば、命がいくつあっても足りない」


 暗黙のルールを知らなかった頃、俺は一度殺されかけたことがある。実は何度も死にかけてる。

「そうでしたね。失礼しました」

 白菊が無言で白鈴の手にしていた紙扇を取り上げ、こんっと叩く。


「痛いよ、お姉ちゃん」

 素が出た白鈴の声に、思わず笑みがこぼれた。

 途中から登山道を外れ、細い獣道に入る。

「ついてこい」白鈴が身振りで合図する。


 わかってるっての、と心の中で返しつつ、黙って従う。

 やがて、白菊も俺のランタンを奪って灯し、前を歩き始めた。

 前に小さな崖から転げ落ちたことがあって、彼女たちはそれ以来、やたらと過保護だ。


 しばらく歩くと、木々が途切れ、開けた野原に出た。

 中央には焼け焦げた護摩壇の跡。

 俺は息を吐き、隅の小屋に腰を下ろした。小屋は鍵が掛かっていて中には入れない。


「疲れたな……」

 白菊が水筒を差し出す。

「ありがとう。うまいな!」

 近くの小川の水だろう。冷たくて、喉が潤う。

 礼を言うと、白菊は照れたように微笑んだ。


「さて――呼び出すか」

 俺はリュックから必要なものを取り出し、地に並べた。

 香が焚かれ、夜気にゆらゆらと煙が漂う。

 符を地に並べ、印を結ぶ。指先に淡い光が走り、低く呪を唱えた。


「日・月・火・水・木・金・土――七曜の理、太陰の座に帰す。太陰よ、我が声に応えよ」

 その瞬間、風が止む。

 雲の切れ間から月が顔を出し、銀の光が結界を満たしていく。


 光はひとつに集まり、人の形を成した。

 ――銀の髪を持つ少女が、そこにいた。

 月光のように淡く輝く瞳、金色の衣が、風もないのにふわりと揺れる。


「誰? 私を呼び出したのは」

「もう、清明だよ。忘れたのか?」

「あんたじゃあるまいし、忘れないわよ。でも……久しぶりね」


 澄んだ声が響く。だがその声には、嫌味と揶揄いが混じっている。

 ――そんなわけが、あるものか。

「一番呼び出してるのは、太陰だよ!」

 彼女も又、無口な方だと思うのだが、俺とは割と話をする。


 少女は一瞬、静かに俺を見つめ、それから微笑んだ。

「そうね。あなたの結界、相変わらず綺麗」

 太陰は、足元に光の輪を描きながら、ゆっくりと俺の前に歩み出る。その瞬間、月光がさらに強く輝き、夜全体が静かに息をのんだ。


 彼女の手が俺の頬に触れる。

 白菊が、口を開こうとして、太陰に睨まれ後退りする。


「それで相談なんだけど!」

「ふん、つまんない男ね。誘惑しているのに」

 お前の中身が、老婆なのを知ってるからね。とは口が裂けても言えない。彼女は、口が硬いし頭が良い。相談相手にはもってこいだ。


 俺は、事件のあらましを話した。

「まあ、紙人形を女性寮に忍び込ませなかっただけ、進歩したわね。前に大変なことになったものね」


「ああ……」危うくそうするところだったけどな。失敗から学ばないことは無いのだ。忘れっぽいだけだ。

「それで、鉄輪はどのように保管していたの? なんで寮に持ってきたの? いつからあるの?」


「……」

 俺を軽蔑したように見る太陰は、諦めたように黙り込んだ。


「紅葉に明日聞くよ」

「駄目よ。稗田様に明日教えてもらいなさい。わかったわね!」


「ああ、そうする。早く帰って寝ないとな。明日も早い」

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ