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神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
序章

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4/21

序 九尾の狐

「お世話になりました。それでは、又」

 俺は、土御門さんという初老の優しげな老人と葛葉と共に、家に帰ることになった。


 神社で、白鈴と白菊が見送りをしてくれる。

「お早いお戻りを」

「清明様、待ってます」

 二人とも、泣き出しそうな顔だ。

 俺は、再び二人の手を取り、霊力を与える。


「ああ、近いうちに必ず来るよ」

 そして、二人の頭を撫でてあげる。そうしてやっと、二人は笑顔になった。

 家には、土御門さんが運転する、黒鉄自動車に乗った。

 後部座席に、俺と葛葉。


「白菊も白鈴も、本当はもっと強いのよ。それと今はあの場からそれほど離れられないけど、そのうち清明について来れるようになるわ」


 後部座席に後ろの窓から、手を振る二人の姿を見て何故か俺は後ろ髪が惹かれた。

 車は、やがて洛外に出て、桂川にかかる橋を越える。


 葛葉から教わることは、俺の知らないことばかりだ。

「生まれ変わりですか?」

「それも清明だけじゃないわ。神も鬼も多くの存在が、人の形をとり現世に現れているわ」

「……そうですか」


「あまり驚かないのね? まだ小学生だから意味がわからないか」

「いいえ。晴明に予知の力があっても、千年後生まれ変わる理由が別にあるような気がするんです」


 葛葉は、車の窓から外を眺めていた。道路の両脇に工場が黒煙を吐いている。

「ふふふ、でも人の世は相変わらず面白いわ。楽しみましょう」


「ここです」

 俺がどんなところに住んでいるのか、生活をしているのかは話をしている。阿部王子神社の近くの一軒家。


 葛葉は怪訝な顔を一瞬したが、老人に先に家を訪ねるように指示を出した。

「帰ってきていないようです」

 俺は、心を撫で下ろした。


「少し待ちましょうか、土御門、弁当でも買ってきて」

「わかりました」

 老人が、車に乗って家から離れた。

「清明君かな? 何度か来たんだけど、やっと会えたね」


 どこから現れたのか、警官がいきなり、俺に声を掛けてきた。

「はい。どうしたんですか?」

「君のおばあちゃんが事故で重体なんだ。ちょっと一緒に来てくれるかな?」


 俺は激しく動揺したが、葛葉は、うすら笑いを浮かべて言った。

「おじさん、関西弁じゃ無いんだね」

「はぁ、何を変なこと言ってるんだ。警察の仕事を邪魔すると逮捕するぞ!」


 俺は、かなりきつい大人の男の重い声にびびっていたが、葛葉は、動じず言い返した。

「面白い。ユーモアはあるんだ!」

 警官は、葛葉の言葉を無視する。


「はぁ、そんなことより、清明くん。こっちだ」

 俺は、警官に引きずられるように、熊野街道に止まっているパトカーの後ろにある輸送車の中に連れ込まれた。

 そこには、十人以上の警官が乗り込んでいた。


「え?」

 俺を連れて来た警官が後ろを振り向いて言った。

 そこに、葛葉の姿があったからだ。

「どうしてお前がいるんだ?」


「ついて来いって言ったじゃない」

 だが、少しも気配を感じられなかった。

「何を連れて来てるんだ!」

 俺の手を強く握っている警官が他の警官たちに叱られている。


「何とは、失礼ね」

「そいつをバスから降ろせ!」

 指揮官らしい恰幅の良い年配の男が、隣にいる蟷螂のような顔をした男に、耳打ちをされていた。


「待て待て、心配なんだろう。一緒に来るか?」

 指揮官が、警官たちの声を制して言った。

「はい。清明くんのおばあちゃん……」

「そうかそうか。じゃあ、ここに座って」


「ううん。清明くんの隣がいい」

 彼女は、俺の隣の席に座っていた通路側にいる警官に退くように指差した。


「ああ……」

 警官は、しぶしぶ席だが、素直に席を立った。

 大型バスの形をした輸送車が、ドアを閉めてゆっくりと動き出した。

 俺たちを取り囲むように、大人しく警官が席に着いた。


「すいません、どこに行くんですか? 勝手にいなくなると、おじさんが心配するかも知れないので」

「ああ、さっきの車の人か。おじさんって、何者なんだ?」


 よく知らない俺は、葛葉の顔を見たが彼女はやりとりを楽しそうに見ているだけで、何も答えない。


「土御門さん……」

 俺は、ぼそっと、葛葉に尋ねたが、警官たちに聞こえてしまったようだ。輸送車は、熊野街道を南に走っている。


「ほお、土御門か……これは大物を引いたかもしれん」

 報告を受けた指揮官が、揺れるバスの中を歩いて近づいてきた。

 しまった。俺はいらぬことを口にしてしまったのかも。


「問題無いわ」

 俺の焦った様子に、顔色一つ変えずに、葛葉が俺の手を握る。彼女の暖かい霊力が俺に流れ込んでいる。


「おい、全員、戦闘準備をしておけ! まだ、覚醒してないはずだが、変な技を使うかもしれん」

 警官たちが、銃を手に取った。俺は、やっとこの男たちによって誘拐されたことを確信した。


 葛葉の身にも、危害が及ぶかもしれない。まずい。変なことに巻き込んでしまった。

「ははは、安心しろ。お前を守る為だ」

 嘘だ。騙されやすい俺でもわかる。彼らの銃が俺たちに向いている。


「それで、祖母はどこですか?」

「もう少し先の病院だ。ところで、制服の女の子、貴様の名前は?」

「他人に名前を聞く時は、自分から名乗るものよ!」


「はあ……そうだな、失礼した」

 葛葉に睨まれると、指揮官の態度が急に変わった。

「私は、人族解放軍の誘拐部隊長 中江だ。清明が、化け物だと聞いて捕まえにきた」


「中江、そろそろ車を止めてくれない」

「だれが……まあいいだろう」

 何故か、素直に彼女の言葉に従って、車を停めた。


「着いたわ、ここよ。信田森の稲荷よ」

 まるで、バスが停留所に着いたと言わんばかりに、葛葉は俺の手を取って降りようとした。


「おい待て! 何を勝手に!」

 警官全員の銃口が俺たちを向いた。

 俺は貴人を呼び出そうとして、彼女に止められた。

「霊力の無駄遣いよ。貴方の危機じゃないから、出てこないわ!」


「何を喋っている。こいつらを眠らせろ!」 

「待って。名を名乗ってなかったわね。葛葉よ。うーん。九尾の狐って言った方がわかるかしら」


 その名を聞いた瞬間。警官が一斉に銃を撃った。

 ぷすり、ぷすりと、催眠弾が撃たれた。

 俺にでは無い。彼女にでも無い。自分に向けてだ。

 彼女から僅かな妖術のようなものが出ていたのは気づいていたが……。完全に彼らを支配していた。


「これくらいすぐにできるようになるわ、さあ、降りましょう。運転手さん。警察に行って自主しなさい」

 俺たちが、降りた場所。信太葛葉稲荷神社の前だった。


 パトカーは異変に気づいて逃げ去り、輸送車は、警察署に向かったようだ。

「気にする問題は無いわ。パトカーが彼らのアジトを教えてくれるし。そんなことよりお腹減ったわ。私の家にようこそ」


 参拝に来ていた人々から、悲鳴が上がった。

「大変だ! 神主、葛葉様だ」

「葛葉様が、お帰りになられたぞ!」

 葛葉は、囲まれて恥ずかしそうな顔をしている。


「葛葉様、連絡くらい下さい! 全然帰って来ないし。そちらは?」

 女性の神主が走ってやって来た。


「森田。息子よ。見つかったの!」

 葛葉の言葉に彼女の目が驚きで大きく見開かれて、その話を聞いていた人々が言った。


「え? 晴明様の生まれ変わり……」

「祭りだ! 祭りをしよう!」

「ああ、知らせだ。知らせを回せ!」


 その場は、一気にハレの気配が広がった。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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