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陰陽師転生 神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
熊野古道

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救えない者

「主様、大丈夫ですか?」

 俺は、うっすらと目を開けた。そこには、心配げな白菊が俺を見ながら、扇子で俺に涼しい風を送っていた。足元には、白鈴がうちわを使っていた。


「ああ、又、迷惑をかけたみたいだな」

「迷惑をかけたのは、あの方々です」


 俺は、目を瞑り、彼女たちが立ち去るのを待っていたが、体を洗ったり、雑談をしたり、遊び出したりと彼女たちが自由にしている間に、湯当たりをして気絶したようだ。


 笑い声が記憶に残っている。

「誰が運んだ?」

「……騰蛇様と百虎様だよ! 清明様」 白鈴が元気に答えた。

 恥ずかしい。死にたい。


  翌日の朝、最終日。太陰は夜の内に姿を消していた。

 湯の余韻が体に残りながら十津川温泉を出立した。


 空気は冷たく、静かで川音だけが朝を満たした。行が再び始まった。

 山と谷を抜ける。景色が流れ、意識が内側へ。ただ、進んだ。


「気持ちいいな」無我の境地という奴だろうか。

「ほう、清明も良さを思い出したかい?」

 加茂役が嬉しそうに言った。

 観光地の気配と山の気配が混じる熊野那智大社が近い。


「天狗はどうなった?」

「ああ……葛葉様の眷属に始末をしてもらった」

「そうか……」


 天狗は五鬼の鬼人を狙っていた。

「天狗は、妖。鬼人は人に分類される。人を犯す妖は成敗の対象になる。その禁を犯さぬ限りは自由だ。それに妖同士の戦いに国は口を出さない」


「過去の俺も幽閉したらしいしな」

「それは、反省をさせる為だったんじゃないかな?」

 神社の石段を登り、鳥居をくぐる。人の多さに一瞬たじろいだ。


「最後は滝に打たれて、終了だ」

 那智の滝への道は、狐人たちによって閉鎖されていた。

 白虎たち三柱と葛葉待っていた。


 俺は滝を見てクラクラした。

 百メートルを超える滝。

 那智の滝は、落ちているのではなく、天から地へ貫かれている一本の柱。つんざくような爆音と水飛沫。


「これは無理だろう」

 人がそのまま、滝に打たれれば、骨が折れ、無事では済まないだろう。最悪死ぬ。

 葛葉の眷属の狐人の目が俺に注がれている。


「清明、どれくらいの者か?」と。

「皆、お前の姿を見守っています」

 葛葉の言葉に背を押された。いや、威圧だ。逃げ出したい気持ちを抑える。母に恥をかかせられない。


「さあ、行け!」

 加茂役が、滝を指し示す。冷水で体が震える。

「清明、わしらを信じよ!」


 三柱が俺を見た。

 天后が、滝の水に手を浸すと、その場が更に静謐な空間に変わった。


 三柱が俺を助ける。天后が水そのものを抑えている。白虎は周囲を固め、邪気を退ける。騰蛇は俺の内に入り、心を支える。

 頭、顔、胸、腹、両手、両足。足を踏ん張り、背筋を伸ばす。心を平静にする。


「南無不動明王」

 俺が、滝から出ると、狐人たちから拍手が起こった。

「さすが、晴明様の生まれ変わりだ!」

「葛葉様のご子息だ。当たり前だ!」


「十二天将を従え、自在に操る。稀代の天才を俺たちは観ているんだ!」


 そして、賞賛を口にする。

「主様、ご立派でした」

「清明様、カッコ良かったよ」


 白菊と白鈴は嬉しそうだ。葛葉も微笑んでいる。

「助かったよ! 天后、騰蛇、百虎」

「私たちを信じすぎじゃないか?」

「そうかな」


 俺の仕草に、三柱は、顔を見合わせて笑った。

「じゃあな、主、主人、約束の品を忘れるなよ!」騰蛇と百虎は帰っていった。

 天后も、滝壺に入ると静かに消えた。


 俺は、着替えて暖かいお茶を飲んでいると、葛葉が声をかけてきた。

「じゃあ、帰りましょう」


 車に乗り込もうとしたところに、花山の部下と名乗る背広姿の男が近づいてきた。

「清明様ですね、花山が、花の窟にてお待ちです」


「わかりました」

 理由はわからない。だが、何故か会わないといけない気がしたのだ。


「お人よしね、清明」

 葛葉は呆れていたが、特に拒否はしていなかった。

 だが、その社についた時には、日が沈もうとしていた。


「ここで待っているわ」社の駐車場所の車の中に残った。

「社でお待ちです」


 花山の執事が社の入り口で立っていた。

 もう誰もいない。しかも、暗闇に包まれつつある。


「久しぶりだな」

 黒い背中が、こっちを向いた。

「ああ、記憶が無いんだったな」

「ええ、何もわかりません」


 だが、何故か古き共に友に会ったような懐かしさがあった。

「だが、晴明は俺の師でもあり恩もある。恥ずかしい話だがするよ」


 魘魅という、妖魔に取り憑かれていたこと。そのせいで最愛の女性を死なせたこと。


「まあ、俺に取り憑かれる素養があったんだ。帝を祓うわけにはいきませんと言われて、俺は出家した」


「そうでしたか?」

「祓うことは、私を殺すことにもなりかねぬと、魘魅を流すことにした。お前はわざわざ熊野に来て共に修行をしてくれた。そうだ、俺たちを邪魔した天狗どもが又、暴れてるそうだな?」


「ええ、ですが退治されました」

「いくら生きようが、生まれ変わろうが、持っている性根は変わらないと言うことだ。お前が気に病むことは無い」


「花山様のところにも、人族解放軍が来ましたか?」

「ああ、きたよ。帝にならないかってね。もちろん断ったよ」


 やがて花の窟の神体。盤座が見える。

「ここは、冥界への入り口だ。愛する怜子に会えんかと。ここで何日も待っていたのだ。泰山府君祭をやれるお前の力なら何とかなるかなと?」


 花山は、微かに微笑んだ。

「そんな力など存在しないことはわかっているでしょう」

 俺は言葉を続ける。厳しい言葉だ。


「それに……熊野巫女の描いた絵を見たでしょう。女性の横顔」

「ああ、画廊に飾ってあるよ。見るたびに死にたくなる。たとえ、輪廻の輪が回ろうとも、俺には会いたくないと」


 彼はとめどなく流れる涙を流していた。花山の中にある魘魅は、全てが流れ出してはいない。そして、生まれ変わった今でも同じだ。だが力が弱く、帝の生まれ変わりだから、誰も手を出さないだけだ。


「何もできずに……」

「いや、充分。お前に会いたかっただけだ」


 花山と握手をして、俺は車に乗り込んだ。

 母は、俺の肩に手を乗せて言った。


「救えることと救えないことがあります」

「はい」



 熊野灘から見える海は、漆黒だった。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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