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陰陽師転生 神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
熊野古道

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天狗の沈黙


 五鬼の村にも、彼らは取引を持ちかけたという。

「加茂役を解放してやる。代わりに協力しろ」

「役君の命でなければ、動けません」


 一切の交渉を拒む態度に、彼らは何も得られぬまま帰っていった。

「さて、どうしましょう」


 加茂役が、葛葉の顔を見た。

「そうね。清明どうする?」

 葛葉は、俺を試した。ここは、かっこよく見せたいところだ。


「それじゃあ、騰蛇は、天狗たちを捕まえてきてくれ! 白虎は、天后と共に、山を清めて廻ってくれ!」

「主人、すぐに連れてきてやるよ!」

「主、じゃあ、天后を呼んでくれ!」


 従順な式神たちは、勢いよく立った。

 いや、違う。葛葉がいるから素直なのだ。

「主人、主。これは二つ目の依頼だからな!」


 再び合唱する。こう言う時はなぜか息が合う。玉置川で天后を呼び出した。もちろん、天后は報酬に厳しい。


「明日の夜は、良い宿を手配してある。報酬も国からもらえるから、欲しいものを言ってくれ!」

「契約は食事で充分だ。奴らみたいにうるさくない」


「そうだったな。広範囲で大変だけど頼むよ!」

「ああ、任せておけ。清明、少し大人になったな。白虎乗せていけ!」


 式神を三柱呼び出しても余裕のはず……と思ったのだが、彼女たちを見送ると俺は倒れたようだ。


 俺は、社務所で葛葉に膝枕されていた。

「ゆっくり、休みなさい」

「何故だろう……」

「呼び出してるだけでなく、激しく動いているからね。あなたの霊力も消費される」


「じゃあ、十二天将をずっと呼び出していた晴明は凄かったんだな」

「調べたのね。でも、焦ることはないわ」


 彼女は、俺に霊力を与え続けている。暖かい力が流れ込んでくるのがわかる。彼女の背に、九尾の尻尾が、ふらふらと揺れている。


「だけど……使役もできない」

「ははは……清明にそんな力は必要無いわね。だって、みんな貴方のこと大好きだもの」


 母は、愉しむ色を帯びた笑みを見せた。

「そうは思えないけどな」

「魂の色は自分では見えないものね。ほら、白菊や白鈴も心配してるわよ」

 部屋の扉の向こうに、姉弟の影が見えた。


「清明様、起きられましたか! 」

 俺は、慣れない山歩きと霊力の使いすぎ、それと精神もすり減っていたのだろうか。


 元気な白鈴の声だ。

「ああ、起きたよ!」

「それでは、準備致しましょう?」

「え?」


 俺は、ゴールに辿り着いたと思っていたのだが、まだ残っていたようだ。普段の運動不足から、全身筋肉痛だし、全身傷だらけ、足は靴擦れ。


 三柱が徹夜で働き、加茂役や葛葉も、尋ねてきた人では無い者たちと会合をしていた。

 俺だけサボっていたからな……。


 白菊と白鈴が、薬を塗り、包帯を巻いてくれている。

「主様、あと二日です」

「清明様、こんばんは温泉だよ! 頑張って!」


 加茂役は、全く疲れた様子を見せていない。

「さあ、行こう!」

「ああ」


 沢に沿って、下り坂を降りる。湿った土の匂い、人の気配が再び消えた。

「なあ、役君。お前、朝廷に流罪にされたんだよな?」

「珍しいな、お前が他人のことに興味を持つなんて!」


「恨んで無いのかなって」

 沢の音だけが聞こえる。自分が自然に溶けていく感覚だ。

「ははは、天狗が恨んでる話をしたからか? 俺は何とも思ってない。よくあることさ。紅葉もそうだったろ?」


 役君が橋を作ることを鬼人たちに命じた。だが、鬼人たちは、自分たちの醜さを恥じて、その姿が見えぬ夜にしか働かなかった。


それで作業が進まず、その首領の一言主を役君は谷に突き落とし、呪術で岩に縛りつけた。


 怒った一言主は、宮女に取り憑き、役君が鬼軍を使い攻めてくると諫言した。結果……流罪に。


「ああ、ということは、デマなのか?」

「当たり前だ。ともに鬼人の賀茂一族。つまり内輪揉めさ」


 醜男だとか、醜女だとか。加茂役は口の悪い奴だと、学校では思われていて距離を置かれている。


「じゃあ、俺が誤解を解いてやるよ!」

「いや、俺は事実しか言えん!」

 こいつの言い方にも問題がありそうだ。俺は、ブサメンだし、心が弱い。俺も距離を置こうと思った。


 なんて、考えていたら、十津川村の里に到着した。

 民家と田畑が見えて来た。

「温泉宿で、合流だが、その前に」


 騰蛇が、天狗たちに縄を数珠繋ぎにして、俺の方に向かって歩いてきた。

「主人、捕まえて来たよ! ほら、さっさと歩け!」


 うん。相手が悪いね。俺は天狗たちに少し同情した。

 誰も文句の一つも言わず、下を向いてとぼとぼ歩いている。


 俺は、尋問とか苦手だし、誰かに頼もうかと考えたが……

「人権侵害やろが! はよ放さんかい!」

「せやせや! おんどれ、晴明の生まれ変わりなんか? この蛇女、何とかしてみいや!」


 天狗たちは騒ぎ出した。

「滝の裏にでも、閉じ込めておけば良い。縛りつけようか? 今度も死ぬまでかな……」

 加茂役は冷たく言い放った。


 いやいやいや、可哀想だろう。昔の晴明と今の俺は、倫理観が全く違うのだ。それはきっと前世の記憶が俺には無いからだ。

「何だ、そんなことならわざわざ連れて来なかったのに……」


 騰蛇は、紐をぐいぐい引っ張って歩いている。紐が蛇のようにも見えるし、巻き付いて辛そうだ。


「いや、天狗さんたちは、そんなことしなくても自白してくれるよね?」

 俺は庇ったつもりだったのだが、彼らの視線は俺に集中して、冷たかった。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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