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陰陽師転生 神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
熊野古道

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24/28

修験道

夏休みに入った。

 花山と連絡を取ったが、彼は仕事で山科をしばらく離れており、戻ったら花山の方から連絡を入れるとのことだった。


「おい、清明。トレッキングに行くぞ!」

 同クラスで山岳部の加茂役が誘ってきた。役小角の御魂を宿している男で、額に小さな角が生えており、顔は日焼けで登山家そのものだ。


「いや、俺にはやることがある」

 せっかく陰陽寮の中でゆっくり過ごせているのにとんでもない話だ。


「それよりも優先だ。何せお前の母親からの依頼だからな」

「はぁ?」


 俺は、白菊に事実か確認させたが、どうも事実らしかった。

「清明の霊力を増やさないと」と立ち話で会話したようだ。


「超初心者なのはわかってるから、安心しろ!」

 半ば強制的に、俺は前鬼の集落へ連れて行かれた。


 そこは、役行者に仕えた前鬼・後鬼、その五人の子――五鬼の名を残す村だ。

 学園からの移動は長かった。


 奈良、橿原の街並みを抜けると、景色は次第に山へと変わっていく。車は幹線を離れ、曲がりくねった山道をひたすら登り続けた。


窓の外は闇と木立ばかりになるり、ようやく目的地に辿り着いた頃には、すでに夜だった。


「楽しみだなぁ!」

 加茂役は、地元の飲み物を口にして、彼ら鬼たちと楽しい宴会を繰り広げていた。宿坊に泊まり、翌朝早くから山に入ることになる。


村に日が差し込むと、一日が始まる。

「清明様、装束にお着替えしましょう」

 白菊が、白装束に、摺衣。頭巾、結袈裟。を取り出した。


「これじゃ、山伏だし、修行みたいじゃないか?」

 だが、俺は一言も文句を言わなかった。

 なぜか、葛葉が同行して居たからだ。

「うん、とても凛々しいわ、清明」


 俺は、仕方なく、覚悟を決めてハイキングに行くことにした。


「行ってくるよ!」

 舗道路が無くなり、谷沿いの細道を行く。人家は消え一本道を、登って尾根と水脈の交点の場についた。


「今日はここに泊まろう」

 知らぬ間に夕刻だった。体は汗にまみれていた。

 テントを張り、横になってたらいつのまにか気を失っていた。


 何者かの話をする声が聞こえたが、俺は無視して寝ていた。

「清明、起きろ!」

 加茂役に起こされ、朝、目を覚ました。

「気にならなかったのか?」


「喋り声か? 別に」

「ふうん」

 森や山の闇の深さや、異界のものの気配、物音に怯えて寝ることすら出来ないのが、初心者らしい。


「それより疲れてて。加茂役がなんとかしてくれるだろうし」

「何だそれ! 修行にならんだろ?」

「いや、歩くだけで俺は精一杯だし」


 襲われる恐怖は、微塵も感じなかった。脅かそうなんて、加茂役は悪趣味だなと素直な感想を持った程度だ。


「しかし、山が荒れてるな。こんなもんなのか?」

「いや、お前の言う通りだ。水は汚れ、獣の死骸が多く、倒木だらけだ」


 山の標高がどんどんと上がっていく。岩場と鎖場ばかりだ。雲は足元を流れ、見晴らしも良くない。

 やがて弥山の山小屋についた。


「何だ、人の小屋か」

 だが、それは俺の勘違い。人ならざるものしかいなかった。まあ、いつもの学園と変わらない。いや、学園の方が、背筋が寒くなるやつばかりだから、とても気楽だ。


「気をつけろ、異形のものが訪れる」

 加茂役が呟く。

 俺はゆっくり休みたいのだ。


「はぁ、じゃあ。騰蛇か白虎あたりを呼び出しとく。俺は寝たいから」

「こらこら、それなら戦さになってしまう」

「でも、順番に呼び出していかないと、俺が怒られるからなぁ……」


 俺はしぶしぶ諦めた。散歩だと加茂役の目を盗んで、山小屋を離れた。

 何せ、修行というか、登山を始めてから自分の中の霊力が溜まりすぎて痛いくらいだ。それに今なら十二天将を三柱でも余裕で呼び出せそうだ。


「やはり、呼び出そう!」

 俺は、リュックを手に小屋を飛び出すとリュックの口を開く。


 香炉。線香。墨と符。使い込まれた小さな布。地に座り、一つずつ並べていく。

 夜気が張りつめ、香に火を入れると煙が真っ直ぐ立ち上った。符を円に並べ、印を結ぶ。


 指先に、熱と鋭さが同時に走る。

……来る。低く、呪を唱えた。

「日・月・火・水・木・金・土――七曜の理。火炎と剣威、その両座に帰す。騰蛇、白虎。我が声に応えよ」


その瞬間、風が止む。

 赤い火花が弾け、白い光が空気を切り裂いた。二つの気配が、同時に人の形を取る。


 小麦色の肌、赤い短髪。

 露出の多い山岳民風の装束に短パン、腕のブレスレットが揺れる騰蛇。

 騰蛇は、縦に尖った目で俺を見た。


……その直後、隣に立つ存在を見て顔が歪んだ。

 白い肌を毛のコートで覆い、こちらも鋭い目だけが夜を射抜く白虎。


沈黙

「……は? 何で白虎いんの?」騰蛇が先に口を開いた。

白虎は眉一つ動かさない。

「俺が二柱を呼んだんだ!」


 こんな場所でないと、彼女たちを呼び出すは危険だ。

「主よ、用はなんだ?」白虎は、騰蛇を無視して俺に尋ねた。


「いや、何でも異形のものが出るらしくて……」

「主人、それは、どんな悪さをするんだ?」

「さあ」

「さあって?」

「何が困り事なんだ?」


 俺は、二柱に問い詰められている。正義感と責任感の強い彼女たちに、「俺の寝るの邪魔する奴がいそうだから」とは言えない……。俺は、ふと式盤が目に入った。


「これは俺の予知だ。この地一帯が良からぬものが現る」

「主人、そういうことなら、そう言え!」

 肩をぐるぐる回して、騰蛇は今にも駆け出しそうだ。


 白虎は深く考え込んでいる。

「主は、まだまだ非力。晴明なら、時も場も敵すらぴたりとあてた」

「ああ、だから二人に来てもらった。会いたかったしね」


 なんとか、物語になった。俺は深く息を吐いた。

「それで、報酬は何だ? 主、主人」

 二柱の息が珍しくあい、同じことを言った。


 タダより高いものは無い。山小屋の食事なんかでは納得してくれないだろうかな。

「俺、ただの学生だし。バイトしてないし……」


「主、青龍兄と、雨乞いしたの聞いてる。報酬もらったはず!」

「主人、我らは飯では釣られん。子鬼ですらブレスレットを貰ってた。兄者も……」

「わかったよ!」


 二柱に、アクセサリーをプレゼントすることになった。


 騰蛇と百虎は、「どっちが先に獲物を捕らえるか?」と競争して夜の山に消えて行った。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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