紅葉会
俺は彼ら事情を聞いた。
鬼武たち鬼。それは、俺たちと同じ魂の転生者。国として見つけ、保護する者は格によって決められている。彼らは、市井の者だ。
彼らは、魂に導かれて戸隠に来るうちに知り合い徒党を組んだ。最初は、徒党と言ってもただの歴史研究会だ。
そんな彼らの元に、知らせが届く。
「紅葉が学園に捕らえられている」と。
国家は昔、紅葉を、俺たちを冤罪で討伐した。取り戻さねば、悲劇が繰り返される。
「逃走を手伝う条件に、仕事をしてもらおう! 難しいことじゃない。俺たちも人が足りてないから」
人族解放軍の攪乱部隊と名乗る者達だった。だがこちらから連絡をとる方法は無い。
「良かったわ。国から討伐対象になる前に止められて」
「だが、湖を汚してしまった」
「それは、清明先輩がなんとかしてくれる」
※
天后が、汚れた湖の淵に立つ。
「やっと私の出番」
彼女はそっと手をひたした。波紋が、湖全体に、波のように広がっていく。湖面に白い霧が立ち込める。湖の濁りが蒸発しているようだ。やがて、長い音が終わるように、波紋も消える。
「清明、これで契約終了よ。また会おう」
天后は天に舞い上がり消えた。
鬼武たちが貸し切っている宿坊で、その日は宴会だった。三郎も混ざっている。
「もう、無理。帰って寝る。紅葉は……」
彼女を捜すと楽しそうに、鬼たちと会話している。
「え? 二人は九州に生まれたの? 仕事は何してるの?」
「俺は、豊後の国東半島から来ちょる。大工しちょる」
「おれは、日向の奥、椎葉山から来た。林業だ」
俺が話した奴らも、生まれた場所もばらばら。年齢も仕事も。そして、今日いないメンバーがあと数十人いて、交代で来れる奴が今日も来ていたらしい。
そりゃそうだ。ここに来るのも一仕事。
「俺たち、ついてる!」
「自慢できるな!」
「いや、悔しがるだろ!」
「それはまずいな。紅葉様の外出できる時に、全員で集まろう。京がいいな」
鬼武が話をまとめて、計画が進んでいく。紅葉は困り顔だ。鬼武は、善光寺に引っ越して、建築会社を経営している若手の経営者だ。
「心配するな、清明が上手くしてくれるわ」
ただ酒をもらいに、太陰も会に参加している。
「わかった。俺は帰って寝るから、紅葉と一緒にいてくれる?」
「ただで呼び出しといて、仕事までさせるとは、酷い男だわ」
無視して自分の宿に帰り、布団に潜り込む。長い一日がやっと終わった。瞼はすぐに閉じた。
翌日起きたら、紅葉と太陰も寝ていた。朝方、音がしたから、寝たばかりだろう。
俺は、朝風呂に入った。露天風呂が気持ち良い。
朝から赤ら顔の男が風呂に入っていると思ったら、三郎だった。
「早いですね。かなり飲んでたのに!」
「だからよ、酔い覚ましだで。大祓に戻らにゃならんのさ。清明ありがとう」
「え?」天狗に感謝されるとは……。
彼は、紅葉と会った時の話を始めた。
「まだ、修験行者から天狗になりかけの頃でな。この辺の山ぁ駆け回っとった。今みてぇな力のある天狗じゃなかったで。よく襲われた。紅葉に救われて、知り合いになった」
「紅葉は強かったのです?」
「ああ、その頃はわしよりずっと上の存在だったで。だからよ、あやつらが討伐されるとは思わんかった。理由ぁあったんだろうが、弱いわしじゃ、到底救えんかった」
「……」
「ほいじゃ、そろそろ行くわ」
部屋に戻ると、太陰が起きていた。
「主、帰る」
「ああ、助かった」
「ちょっと話しとく」
彼女の話とは、紅葉の息子、経若のことだ。彼もどこかにいる可能性があること。人族解放軍とかいうテロ組織に狙われるかもしれないこと。
「なるほどね」
紅葉が気持ちよく寝ているのを見て、俺は、そっと息を吐いた。
昼前になって、やっと紅葉は眠たげな目を開けた。
「おはよう、清明先輩!」
いつもの元気いっぱいの声に俺は安心した。
同時くらいに「お迎えにあがりました」と鬼武たちが宿坊にやって来た。
その日は、五社めぐりや善光寺に行き、鬼武の家で、バーベキューをやった。俺も連れ回された。
団体行動は苦手なんだが……。
「今日は、体調が良さそうだな。清明様」
鬼武が話しかけて来た。
彼とはこれからの話をした。
「学園の保名先生に、連絡を取った。信頼のできる人だよ。相談に乗ってくれるはずだ」
「捕まるか?」
「法律違反のところは、私にはわからない。だけど学園の方はなんとかなる。経若の件は、相談して欲しい」
「さすがだ、清明様、わかってら」
わかってたのは、俺じゃないけどね。
※
「さあ、帰るぞ!」
「阿智様ぁ」
彼は全て見通していたのかも。神がかってる。さすが天津神一の知略家。
その阿智くんは、お務めが終わってすぐ、わざわざ鬼武の家まで迎えに来てくれたのだ。
その足で諏訪まで移動して一泊。次の日に、大祝兄弟も一緒に学園に戻って来た。こうやって三泊四日の旅は終わりを告げた。
「紅葉、おかえり」
萬に、お土産の詰まった荷物を数個を渡したが彼女は軽々と持ち上げた。
「寮で話すことがたくさんあるわ。ごめん、先は運んでて」
待ち構えていた保名先生に、俺と紅葉は面接室に連れて行かれた。
「不法投棄の件は、法律で裁かれる。学園は、国に命じて鬼武たちの集団を、監視対象団体に指定する」
先生は宣告した。
「そんなぁ……」
「紅葉、これで変なテロ組織が簡単に手を出せなくなる。別に行動が規制される訳じゃない。逆に会いに行くことも出来る」
「良かったじゃん。それで保名先生、その組織の名前は?」
「紅葉会だよ。怖いだろ?」
俺たちは、くすくすと笑った。
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