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神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
紅葉伝説

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20/21

飯綱三郎と鬼武

「気をつけて行こう」

 月明かりで明るいが、森に入ると光は遮られ、暗闇となった。手に提灯を持ち、まずは近場のみどりが池へ向かう。


 静かな黒き湖面。ここにも変わったことは見つけられず。だがこの池も水の量が少ない。俺たちは硯石から、鏡池へと、林道を歩いていく。


「何者かが、こっちを見ています」

 白い狐と共に、時代劇のような甲冑姿、赤顔に長い鼻、背に翼。


「おいおい、落武者、しかも天狗……」

「声が大きいですよ、先輩」

 狐がこっちにもの凄い速さで走ってやってくる。


「逃げないと……」だが、足がすくんで動けない。

「先輩ともあろうものが、情けないですよ」紅葉は余裕で笑った。


「いや、剣と索持ってる。やばいよ!」

 近づいてきた狐は清明に頭を下げると、紅葉に擦り寄った。


「誰ぞ! 我は飯綱三郎」

「ははは、何その格好?」

 紅葉は馬鹿にしたように大笑いして、俺と天后を庇うように前に進み出た。


「何だと!」憤怒の表情を浮かべる天狗。

 紅葉の周りに、青や紫、緑の鬼火が数多く現れる。


「ほお、やりおるな!」

「まだ、わかんないの? 三郎、忘れたの? 紅葉よ」


「はぁ、紅葉、本当に紅葉か! 久しいのお。久しいのお」

 立派な武士の天狗が、紅葉を見てさめざめと泣き出した。


「相変わらずのえれぇ美人じゃ」

「めんこいと言おうとしたでしょ。三郎は、山伏姿じゃなくて立派になったのね」


「言いてえことが、ようけある」

「ええ、話を聞くわ、三郎」

 今や日本八代天狗と呼ばれる天狗だそうだが、紅葉とは修行時代の知古の仲らしい。


「そうだ、この辺で、九頭龍大王の神域が荒らされる事件無かった?」

 紅葉が尋ねると、歩き出した。


「あああ、それなら知っとる。ついて来な」

 鏡池、その駐車場には、数台の車と人の影があった。俺たちは、隠れながらその様子を見ていた。


「下手人は、あやつらだ。動物を屠殺して、血をようけ流しとる」

「なぜ、そんなことを?」


「さあ、しかもずっとだ。国中から来とるようだ」

 原因はわかった。これを警察に知らせて、対策をとれば問題解決だ。


「よし、じゃあ帰ろう」

 俺が引き上げようとすると、紅葉が服を掴んだ。

「待って!」


「見つかるよ。一般人相手に、学園生が問題起こすと大変だよ」

「そうはならないわ。そんな気がする」


 俺たちは隠れながら近づく。車の大きな機関音が湖に響く。車のヘッドライトのガス灯が人の影を映す。


 数人、いや十人以上。老人、若い学生、スーツ姿の社会人。

「よし、いい時間だ。警戒担当は、所定の場所へ」


『問題なし』との提灯の合図で残った者が車の荷台から血の袋や、動物の詰められた袋を台車に乗せる。


「一仕事終わらせて、宴会だ!」

 その集団の首領は、作業着を着ている大男だろうか。


 紅葉が、ぱっと三郎の顔を見る。

「ああ、人でない」

「そうね。話してくるわ」


 紅葉は一人、彼らのいる駐車場に向かって歩き出した。

 俺も後を追おうとして、三郎に止められた。


「ここは、任せといても心配いらねえよ」

 人の姿の者たちに、それほどの霊力を感じない。強いて言えば、首領くらいだ。

「誰だ!」


 中学生の紅葉の姿に、ギョッとする男たち。

「くそっ。警戒担当は何をしてた。まずいところを見られたな」


「だが、子供だ。心配いらない。手荒な真似はよそうよ」

「しかし怪しいぞ!」


 湖に運ぶ台車を途中に置いて、人が集まってきた。

「こんなところに、お嬢ちゃん一人。何しに来た?」


 首領が、紅葉に声をかけた。

「こんなところで何してるの? 人じゃないって聞いたけど」

「お前も人には見えんがな?」


「あなたたちが正体を見せたら、教えてあげる」

 紅葉は笑って答える。楽しんでいるのが伝わってくる。


「どうせ、俺たちと同じ類だろう。見せてやろう」

 彼らの周りに、白や黄色の炎がゆらめく。だが、あわせてもさっき紅葉が見せた鬼火の数にも満たない。


「は、はは、ははは、はははは。もう情けないわよ、そんな弱い鬼火で。あなたたち何をしてきたの?」


 隠れながら見ていた俺は、詳しそうな三郎に尋ねた。

「どう言う意味?」

「白は、未熟。黄は、俗世。怪異として格下の証」


「じゃあ、あれは?」

 首領が震えながら、紅葉を見た。彼の出す魂の炎。


「赤は、怒り」

「え、喧嘩にならない?」

「もう、清明ったら。格が違うでしょ」

 天后が呆れた声を出した。


 紅葉が、ブレスレットをはめた手を振ると風が吹き、全ての鬼火が消し飛んだ。


「は?」「嘘だろ?」

 男たちは、天をぼっと見つめ呆気に取られた。

「見せてくれたから、私も見せるわ。思い出しなさい!」


 鬼火だが、美しい。色鮮やかな色の炎が、少女の周囲を取り囲む。それは三郎に見せたものとは比較にならないくらい華やかだ。

「ま、まさか……」


 その場にいる男達が、その場に正座し首を垂れた。

「鬼武、私を忘れるとは、どう言うことかしら?」


「も、紅葉様がお戻りになられた」

 男達の啜り泣く声が聞こえる。紅葉は一人一人の肩に手を乗せて「ただいま」と言った。

「どう言うこと?」 


 俺が三郎にきくと、もらい泣きをしている三郎に頭を叩かれた。三郎の狐が俺の足元にじゃれついてきた。「どんまい」と。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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