表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/25

序 貴人

二話目

どこからか、鈴の音が聞こえた。


 一匹の妖犬が、飛びかかり俺に取り憑こうとするのが見え、俺は思わず頭を抱えてしゃがんだ。


「はあ、足癖の悪い犬め!」


 白小袖に浅葱の袴を着たおかっぱ頭の童子。まるで歴史小説にいるような子供が尻尾を出して、妖犬を地面に叩きつけた。妖犬は悲鳴をあげると、僅かな血の痕を地面に残して消え去った。


「やっぱりや。お前は普通じゃあせんぜよ。思うた通りぜよ。狐を使いよるがや」

低く響く声が、冷たい空気を震わせる。


「どないするがや?」

「はよ片づけて、仕事に行かんといかんぜよ。今日までしか京じゃ活動でけんき。小狐一匹くらい、さっさと始末せいや」

 俺の耳に言葉が鋭く突き刺さる。


「汚いない子供は傷つけちょってもかまわんぜよ。捕まえて、わしらで飼うちや」

 いつの間にかもう一人、童女が姿をが見えた。


 白袴に薄紅の小袖。切れ長の瞳を持つ、童子より少し年上の少女。

 俺を守るように前に立つ。

「危ないよ、君たち!」


 人ではない者だとはわかっているが、親しさも感じたからだ。 

 何より、敵の数が圧倒的に多い。

 それでも、二人の子供が武器も持たず、素手で必死に立ち向かう。


「無理だって!」

 数十匹の大きな妖犬。多勢に無勢。服を噛まれ、引っ掻かれて、綺麗な白い服は汚されて、二人は地面に倒された。頭から、腕から、足から血が流れる。


 このままでは、危ない。

「おい、標的は俺だろ!」俺は震えながら必死に声を出した。

 妖犬たちが攻撃をやめて、その目が俺に集まる。


 その中の一番大きな妖犬が、俺に噛みつこうと走り出した時、ただならぬ気配と「声」が聞こえた。


「一千年待っておったのだ!」

「やっと、我々の主人が戻られた、約束を果たされた」

「わしを、わしを呼べ!」


 その「声」は一条戻橋の下。声は大きく、妖犬は思わず足を止め、耳を立てた。この声の主は、数人、いや数十人か。

「なにぼーっとしちゅうがよ! あの子を捕まえちくれ!」


 操る男の声で、妖犬が再び意識を俺に向ける。俺の脳裏に呼び出す者の名が浮かぶ。


「天地清浄、貴人降臨せよ――」

 本来なら正式な呼び出しの儀式が必要だろう。だが、既に顕現しているのだ。それを俺は「理解していた」


 季節外れの桜と沈香の甘く清らかな香気が漂う。

 天上から金色の後光が降り、薄紫の天衣を纏った貴人が静かに現れた。長い黒髪が宙に流れ、手に持った如意宝珠と蓮華が輝く。


「おう……なんじゃあ、こりゃあ。えらい匂いと光やのう……」

 橋を満たす香りと光に、世界が一瞬時を止めた。月の光と貴人の光輪が重なり、魔犬たちは咆哮を上げつつも、威圧の前に身を硬くする。


「え? 見えてないのか? あの存在が……」

 彼らは、妖怪を操る癖に見えない。あの圧倒的な存在が。

「お前ら、痛い目に遭いたいがや?」


 飼い主の声に、妖犬がやむなく動き出す。

「もう殺してもえいき、構わんがや」

 妖魔の犬が、爪を出し、牙を剥いて俺に襲いかかる。


 彼女はまず俺の周囲に手をかざす。淡く輝く光の盾――清浄の護――が形成され、魔犬の爪や牙を跳ね返す。


 奴らは、俺に近づくことができず、地面に叩きつけられる。 

 俺は光に守られながらも、恐怖と緊張で立ちすくむ。


「安心しなさい……私がいるわ。お前たちは許さない」

 貴人が如意宝珠を高く掲げ、天から光の輪を降ろす――光輪天翔。光輪が妖犬たちを包み込み、咆哮と混乱の中、群れは次々と消え去った。


 地面に残るのは何も残らない。

「親父さん、やばい相手じゃ!」

「わかっちゅう言うちゅうがや! ずらかるぞ、どけっ!」


 男たちは、背を向けて慌てて逃げ出した。犬は背にいなかった。

 その瞬間、俺は完全に彼女を認識した。光を帯びた清らかな顔立ち、凛とした威厳。千年の隔たりなど存在しないかのように、魂が直に繋がる感覚が胸に走った。


「貴人……!」

 俺の言葉に、彼女は僅かに微笑む。額が広く、眼光の鋭い整った顔だ。

「ゆっくり休みなさい、主様。彼女がもうじき来るわ」


 俺は手を伸ばす。しかし、俺は力つき膝から崩れ落ち、意識を失った。

 俺を追ってきた男たちの逃げる足音が、遠くに消えていった。

もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。面白いと思ったら、フォローお願いします。励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ