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神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
紅葉伝説

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19/21

天后

「清明先輩は、足腰を鍛えないといけません」

「それは間違いない」

 一日歩き回りクタクタで、本当は早く温泉に入り休みたいくらいだ。


「冗談ですよ。ここは、彼女の、お万の墓でもあるんです」

「そうなの? お前の友だちのあのデカ女!」

 彼女の親友を思い出して叫んだ。


「失礼ですね。モテませんよ! マラソンの国選抜選手なんですよ」

「失礼。そういえば、どうして萬は鉄輪を捨てたのか? 問いただしたか?」


「おかしな話なんです。喫茶店で家族とお茶をしてたら、『紅葉に会いたい人がいるけど、学園だから会えない』って聞こえてきたって。そんな話あります? もうあの子ったら……」


 そう話しながら、彼女は俺の送ったブレスレットを大事そうに触った。

「萬は、会話をしてる人たちに詳しく聞こうとしたけど、お店を出ていくところで消えたみたいです」


「ふうん」

 不思議な話だ。俺は怪しさを感じた。

 すぐに小鳥ヶ池に着いた。とても綺麗な池だ。


「紅葉、水筒に池の水を汲んでくれる」

「はあーい」

 俺は、リュックの中に水瓶が無いことに気がついた。


「どうしたんですかぁ?」

「水瓶が無いな。風呂桶ってわけにもいかないし、どこかに水を置ける場所」

「ありますよ。こっちです」


 そこは、少し離れた場所。硯石と呼ばれる窪みのある石。お万が自分の姿を見て驚いたと、謂れのある場所だ。

「悪く無いね」


 時間は早いが、人の気配はしない。

 紅葉は、窪みを綺麗に掃除してくれ、水を窪みに貯める。

「じゃあ、呼び出すよ」


 香を焚き、夜気にゆらゆらと煙が漂う。

 符を地に並べ、印を結ぶ。指先に淡い光が走り、低く呪を唱えた。


「日・月・火・水・木・金・土――七曜の理、水の守護、天后よ、我が声に応えよ」

 その瞬間、硯石の水面が微かに揺れ、淡い光が水の中から立ち上がる。


 光はひとつにまとまり、人の形を成した。

 ――細身で立ち姿は静か。動きが無い。

 白い長い袖の重ね衣に、黒い長髪は足元まで達する。手には何も持たず、足元は素足。

存在そのものが空気を澄ませ、感情は表に出さない。


 ――結界の中心で、俺をじっと見つめる。

「……誰が、私を呼び出したのか」

 又、始まった。だが、付き合ってやる。

「清明、晴明の生まれ変わりだ」


「ふむ、それで私に何のようだ?」

「知恵を借りたい。十二天将一の智者である貴女に!」

「何を差し出す?」


 召喚しているだけで、使役していない以上、個別の契約が必要となる。太陰なんかは適当なんだが。 

「じゃあ、ブレスレットなんて?」

「神器か? だがいらん」


 そう言うだろうと思ったが、紅葉に思いきり叩かれた。

「冗談だよ、紅葉。天后、美味しい食事の宿を準備してるんだ。相談に乗ってくれないか?」


「そう。いいだろう」

 宿に帰り、部屋に入ると更に体が重くなった。

「疲れのせいみたいだ……いや違う!」


 目の前に女性が三人。

 紅葉、天后、太陰。え? 太陰。

「何でお前いるんだ?」


「はぁ、呼び出したくせに。酷い奴だな!」

 絶対違う。だけど、彼女は嘘を突き通すつもりだろう。

「わかったよ。俺の分、食べていいから。食べたら帰ってね」


「ツレナイナ。主、昨日は、出れんかったと言うのに」

 幽霊じゃないんだから。

「食事にされますか? それとも風呂に?」

「喉が渇いた。とりあえず、酒を」


 太陰が答える。

 四人、いや、二人と二柱。

 宿坊の人も、神の泊まる宿らしく慣れたもの。文句一つも言わず、驚いた様子ない。


「わざわざ、きてくれてありがとさんです」

 名を聞くと手配を始める。

「じゃあ、俺は風呂にでも」

「いや、食事を済ませたら出かける」


「じゃあ、君たちで」

「清明の頼まれていることだろう」

 天后から、冷たい返事が来る。

「天后は厳しいからね、私の優しさが身に染みるでしょ」


 太陰は、酒を飲みながら笑って言った。

 豪華な食事が運ばれてきた。少しづつ、器の中身が違うものがある。


 紅葉には、肉、天后には、魚、太陰には煮物、俺には、、、油揚げと団子

 くすくすと、俺以外が笑う。


 宿の人が、食事を運んで来てくれたのだが、遅い昼食を食べ過ぎた紅葉が、「先輩、半分食べて」と肉を差し出してきた。代わりに団子をあげる。


「食べながらで、いい意見を聞かせてれ」

「答えは出ている。九頭龍が怒るとなると、神域を荒らされたからだろう」


 天后が答える。

「そんな話は、地元の人から出てなかったよ。もちろん、雨が降らないことには不安を持ってたけどね」


 九頭龍の怒りという話は出来ない。それとなく、鬼無村の人に聞いたが、近頃の紅葉ゆかりの地の観光客が増えたという話で盛り上がってしまった。


「だとすると、気がつかぬ形で荒らしているものがいる。池とかだろうな。見えにくい」

 太陰が、ぐいぐいと酒をあおる。

「池ならさっき行ったよな。特におかしな気は出てなかった」


「池なら、他にもいくつか。みどりが池とか鏡池とか」

 紅葉が、お手製の旅のしおりに着けた地図を広げる。


 すっかり、夜がふけた。

「明日早朝にしないか? 危ないし」

「だからこそ、現れることもある。行ってらっしゃい」


「え? 一緒に行かないの?」

「月も登っておるほほ満月の欠け月だ。明るいだろう。留守番をしとく」


 太陰は、宿坊に残ってくつろぐ気だ。まあ、俺は召喚もしてないし、何もいう権利も無いけど 無い⁇ 危険があればやってくるだろう。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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