表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
紅葉伝説

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/26

諏訪

一日じゅう車で移動していたせいで、俺はすっかり疲れ果てていた。

「まずは温泉。楽しみですね!」

「ああ……疲れた。早く畳で寝転びたい」


 紅葉の明るい声に、俺は生返事しかできなかった。

「それじゃあ、私たちは用事を済ませてくるわ。あとで行ったげるからね」


 途中の諏訪神社春宮で、大祝姉妹は 疲れた様子も見せず に車を降りていった。夜だというのに、彼らの帰りを待っていた地元の人々が迎えに出てくる。


「地元で人気なんだよ。特に妹は」

 大祝兄が得意げに言う。

 俺たちが泊まる宿は、下諏訪宿の旅館でも高級なところらしい。少し先の秋宮の近くで車は止まり、車を降りたのは俺と紅葉、それから阿智くんだった。


 宿には手入れの行き届いた綺麗な庭があり、大浴場に露天風呂まで備わっている。

「お待ちしておりました」


 受付を済ませ、部屋へ案内される。もちろん男女別だ。つまり、大祝先輩と同室というわけで……。


「げっ。紅葉と一緒のほうが気が休まるんだけどな……」

「じゃあ、貸切風呂で一緒に入りますか?」

「お前なぁ!」


「本気にしましたね?」

 阿智くんの冷ややかな視線と、紅葉の無邪気な笑顔が同時に突き刺さる。

「今夜は地元のお偉方と宴会ですよ」


「え……」

「冗談です。少しは我々の苦労をご理解いただければと」

 どいつもこいつも、陰キャの俺をからかってくる。


 荷物を置いたあと、俺は逃げるようにして温泉へ向かった。

「透明で柔らかい湯。最高だ!」


 露天風呂で、誰もいないと思って叫ぶと、子供が一人こちらを見ている。

 いや、人じゃないな。


「おまえ、霊力つえぇだに……でも人だら? 晴明だな?」

「あたりだ。君は?」


「洩矢、だに!」

「ああ、大祝妹のペットか?」


 俺は、いきなり湯の中に引きずり込まれて、溺れそうになる。龍の怒りの水害、陰陽師が温泉での溺死なんて。世間に笑われてしまう。


 子供の目が怒りで赤くなっている。

「おまえ、すっご失礼じゃんかぁ!」

 俺はなんとか顔を出して叫ぶ。


「私の可愛い龍だとも言ってたし!」

「ん、そぉなんけ。じゃあ最初から言ってくれりゃよかっただにぃ! それと、田舎もんだとか言うなよぉ!」


 温泉の湯の揺れがぴたりと止んだ。

 これが暴れ龍か。

「せっかくだ。九頭龍の話、何で怒ってるのか、教えて欲しいんだけど?」


「なんかねぇ、神域が汚されたーっつって、ぷんすかしてたん…だよ? あの龍王、すぐ怒るでなぁ……」


 お前もだろうとツッコミを入れたいが、やめておく。溺死体を片付ける宿の人が不憫だ。


「ところで、どうしてここにいるんだ?」

「はぁ? ここ、オイラの地元だに! 温泉入っちゃ悪かねぇら?」

「うん。悪くないよ。大祝妹を出迎えに来たんだろう?」


 俺の推理が冴え渡る。

「あいー。きょーは姉ちゃんと寝んだよぉ。だから綺麗にしとかんと、みっとねぇじゃんかぁ」


「じゃあ、体、洗ってやるよ!」

「まじか! おまえ、めちゃ気きくじゃん!」

 俺は、子供の龍の背中を洗い機嫌をとることにした。


 阿智くんは、その騒動を見てみぬふりをし、露天風呂に入ってくるのをやめていた。

 風呂から出て、洩矢の髪をドライヤーで乾かしてあげる。髪が長く足元まである。それから、風呂上がりのコーヒー牛乳。これは欠かせない。


 高級旅館だが、あった。

「はい、どうぞ!」

 子龍にも渡して、二人でごくごくと飲んだ。


「お代わり、晴明!」

「すいません。あと二本」

 竹細工の椅子に座り、体の火照りをさます。


「あら、清明様。その子供は?」

 通りかかった風呂上がりの紅葉が、紅色の色浴衣で可愛い。


「洩矢、来てくれたの?」

 隣には、大祝妹の姿。


「姉ちゃん!」

 暴れ龍は、彼女にくっついた。嬉しそうな

 全員で食堂で一緒に豪華な夕食を食べた。

 鰻に、山菜に、馬刺しに、蕎麦に。お腹いっぱいだ。


「諏訪と言えば、酒だ。良い酒蔵が多いんだ」

「駄目ですよ!」

 大祝兄の発言は、妹に一瞬で却下された。

「だが、いつも神事で……」


「あれは特例ですよ。お兄様」

「悪いな、清明」

 え、俺のせいになってない。

「腹も一杯になったし、寝るか。明日も早いしな」


 デザートを食べたら解散になった。

 もちろん、阿智くんが手配していた飲み物が部屋に隠されていた。


 二人は飲みながら、難しい議論を始め、俺はひたすら飲み続けいつのまにか寝ていた。


 ※

「起きろってば、晴明!」

 俺は、洩矢に起こされた。

「ああ、頭が痛い」


「もう、寝てるのお前だけだぞ!」

 大祝先輩は、諏訪湖の周りを走りに、阿智くんは散歩に出かけたらしい。


 俺は、布団に寝かされていた。

「じゃあ、風呂入ってくる」

「はぁ」

 龍の呆れた溜息を聞きながら、二日目の朝は始まった。


 その日は、大祝兄の社、前宮で別れて、阿智くんを迎えにきた車で俺と紅葉も、目的地の戸隠神社へと向かう。


 途中には、道祖神がところどころあった。

「あ、あれ猿田彦様と天鈿女様ですね。清明先輩、泣かないでくださいね」

「はぁ?」

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ