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神は制服を着る 彼女は笑い俺は嘆く  作者: 織部
紅葉伝説

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14/21

太裳

言い訳をさせてもらう。俺がいつも気怠そうにしているのは、霊力が欠乏しているからだ。前にも言ったが、式神を何体も呼び出すには、霊力が必要になる。俺は、まだまだ器が小さい。


 白鈴と白菊。それに、何某かの式神たち。

 彼らを常に呼び出しておくのは、霊力を鍛えるためで、別に偉そうにしたいわけじゃない。


 呼び出しているだけで、拘束も命令もしていないのに、白鈴と白菊は当たり前のように俺に寄り添い、助けてくれる。問題は、それ以外の連中だ。


 清明はいつもだらけている。

 陰陽寮や学園では、そう思われている。理由はあるんだ、と言ってやりたいが面倒だ。


 特に賀茂。

 自分に厳しく、他人にも厳しい。俺が机に突っ伏す度に、海月かお前はと怒鳴ってくる。どうしようもない奴だ。だけど、嫌いにはなれない。


 その日の夜。

 俺は、いつもの神気の満ちた山の中腹に立ち、呼び声を上げた。

『天帝に仕え、四時を護る文官の神よ。我が声に応えよ』


 空気が震え、ひやりとした風が足元を撫でた。黒い影が形を帯びる。

 現れたのは太裳。静寂の中に降り立つ姿、燕尾服の黒が周囲の空気よりも濃かった。眼鏡のレンズが光り、姿勢は矢のようにまっすぐ。まさに若き執事といった風格だ。


「珍しいな、清明。私を呼び出すとは」

 声は穏やかなのに、空気の緊張が増す。太裳は元から格のある式神だが、今日の洋装はどこか帝の近侍らしい気品があった。


「教えを乞いたくて参りました」

 今日はきちんと制服のネクタイまで締め、胸元を正し、礼を尽くしている。


 白菊が俺の髪を梳き、白鈴が靴を磨き、襟まで整えてくれたおかげで、珍しく人間らしい見た目をしているはずだ。


「呼び出しの順番は、私が決めたはずだが」

「京の守りがありまして…」

 苦しい言い訳なのは自分でもわかる。太裳は礼儀と段取りに厳しい。理屈より、先に怒られる未来が見えたのだが。


「ふむ。まあよい」

 眼鏡の奥の瞳がわずかに細められた。許されたらしい。

「本日のお姿は…?」


「ああ、帝も洋装しておるだろう。学生のお前らに合わせただけだ」

「恐れ入ります」


 白鈴と白菊は、横で必死に笑いを堪えてる。俺もツッコミたいが、言えるわけがない。

「それで、何の用だ?」


「雨乞いを行うのですが、式典の正しいやり方が記録で途切れておりまして。教えを請いたく…」


 調べるのが面倒、とか、難しくて理解できなかった、なんて言えるはずもない。

「陰陽寮の者に聞けばよかろう」

「間違いがあってはなりません」


 太裳は頷き、その一文だけで空気が変わった。

「その心構えは良い。よかろう、教えよう」

 本来は使役する立場のはずなのに、俺はどうも子分気質らしい。


 とりあえず場所を変えよう、と太裳に案内し、陰陽寮の貴賓室へ通した。俺の部屋なんて見せたら最後、百箇所はダメ出しされるに決まってる。


 貴賓室は静かで香が焚かれ、蝋燭の光が障子越しに揺れている。

「さて、こんなところだ。理解できたか?」

 走り書きのメモを取る俺の隣では、賀茂が真剣な目で丁寧に一字一句書いている。


 これで準備は整う。あとは彼と白鈴たちが段取りを固めてくれるだろう。

「問題は交渉だな。清明がやるとなると…」

「ですよね。困りました」


 俺はまだ知識が足りない。自覚はある。

「青龍にやらせればよい」

「そんな手があったのか!」

 一気に気が楽になる。


 太裳はごほんと咳払いし、燕尾服の裾を払った。

「食事してから帰られませんか? 白菊が用意しております」


「そうだな。いただこう」

 白鈴が手早く食器を並べ、白菊が料理を運び込む。

 鯛の刺身は透き通り、煮物は上品な香りが立ち、吟醸酒がほのかに匂う。


 器は進学クラスの料理班が用意してくれたものだ。白菊は器の配置や彩りを学びに行っていたらしい。


「清明も気がきくようになったな」

 太裳は姿勢こそ崩さず、顔色も変えないが、満足しているのは明らかだった。

 しばし食事を楽しみ、太裳は静かに帰っていった。


「白菊、苦労をかけたな」

「いいえ。清明様が使役できる日までの我慢です」

「そうなりたいけど、皆とは仲良くやっていきたいなぁ」


 白菊は柔らかく微笑む。

「そういうところが、清明様の良いところだと思います」


 白鈴が貴賓室を片付けながら口を挟み、白菊に軽く叩かれていた。

「痛いよ、姉ちゃん」

「白鈴もありがとな」


 二人の手を取って霊力を渡すと、急激な眠気が襲ってくる。

 賀茂は食堂の机で、太裳の教えを一文字も漏らすまいと清書していた。部屋に帰る俺は声をかけた。


「悪い、俺もう寝るわ」

「ああ、お疲れ」

 てっきり怒られると思ったのに、返ってきたのはあまりにも優しい声だった。


「え?」

「晴明様の生まれ変わりだよ、お前は。御方を呼び出せるのも、お前くらいさ。清書が終わったら渡すよ」


 賀茂は筆を置き、ぽんと俺の肩を叩く。太裳と会うのを同席させるのを喜ぶこいつ。変わってる奴だ。

「ああ、ありがとう」


「清明、お前はもっと自信を持て。偉大な者だ」


 もしかして今、褒められた?

 思ってもみない言葉をかけられて、俺は動揺した。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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